サラーム海上「21世紀中東音楽ジャーナル」

旅ジャーナルを読むのが好きである。だから数日前からパキスタンに出かけてらっしゃるサラームさんのブログがアップされるたびにもうワクワクである。私などがまったく知らない土地の名前や食べ物の名前がたくさん出てくるが(あ、もちろん音楽すらも/笑)、とにかく見ているだけでワクワク。写真も上手で、とっても楽しい。

そのワクワク感が本になったのが、これです。『21世紀中等音楽ジャーナル』。

よく海外出張に行くといいですね、と簡単に言われるが、実際行ってみりゃ大変なんだって(笑)。慣れない言葉に慣れない土地、慣れない食べ物。まぁ「気分転換」になることは絶対に間違いないが、それ意外にはあまり良いことなどない。もっとも私が行くエリアなど、東京と対して変わらないけどね。サラームさんが誰も行かないフロンティアを旅してらっしゃるのに比べると。とにかく海外出張はすべてが時間との戦いなのであるが、そんな中、ブログを書くのは大変だと思う。(つーか、そもそもネット回線も細いみたいだし!!)

だから出張中や、私の仕事で言えばツアー中にブログがアップできないのは、普通なのであるし、それを自分も充分理解した上であえて発言すると、それにしても…音楽ジャーナナリズムはいったいどうした?!と言いたい。海外取材や……まぁ、そこまで行かなくても新譜を聴いたりライヴを見たりしているはずなのに、それをしっかりレポートをする人があまりに少ないのにびっくりしてしまう。もっとも雑誌やメディアや、事業における企業秘密的なものがからんでいると、雑誌からギャラをもらうまで秘密にしないといけないとか、そういう事も多いのだろうが。

いずれにしても、こういったブログやレポートをサラームさんのテンションでやる人はサラームさん以外にいないと思う。本当に頭がさがる。(あと佐藤英輔さんのライヴレポートも本当に素晴らしいと思う)

そもそも音楽メディアがどんどん減って、一般誌/紙が音楽コーナーを削減していく中で、一緒に音楽のジャーナリズムまでもが衰退してしまうのは間違いだ。あの被災地での手書き新聞にもあるように、そもそも発信する人はホームページ、ブログ、Facebook、Twitterなど、全力で、全方向でやらないといけない…はずだ。いや、ホントに大変な時代になったし、実際そういうのに向いていないという明らかな人もいたりするので、それはそれで仕方ないのだけど(それに人それぞれ、それぞれのワーキングスタイルがある)、それはまぁ、棚に置いておいて、その一方で努力すればそれだけ報われるというのも事実だと思うのだわ。それをサラームさんは実現していると思うし、そんな活躍するサラームさんを見て、私や、周辺の人たちも、どれだけ勇気づけられている事か!と思う。一方、どっかのロック雑誌の編集長が新聞の時事系の記事を写メして短いコメントをつけているだけのブログを見ると、なんだか会社に来てビルボード読むしかしてなかったレコード会社の閑職の洋楽親父を思い出すのである。(あぁいうブログだったら返ってやらない方がいいですよ、とアドバイスする人は編集長の周りにいないのだろうか)

サラームさんの周辺の音楽はウチのやっている音楽とは、あまり交わらない。だから私もサラームさんには無理やりウチのアイテムをプロモーションしたりはしない。普段の氏の活動を尊敬するがゆえ……唯一お願いしたのはヴァサラットくらいかな…。あれはちょっとバルカン入っているから。でも、やっていることのは違っても、力を入れる方法が一緒なのか(とか言うと偉そうだけど)、サラームさんには共感することがとっても多いのだ。

そもそも毎日エキサイティングな生活をしている人は、過去を振り返らないし、起こったことはそれこそブログに書いてとっとと忘れて、次に行くんだよね。過去を思い出し、いつまでも過去を愛でているようじゃダメだ。いつだって今が一番おもしろい! より面白いことを次にやるために、そしてとっと忘れて次に行く為にも、ブログに書く。この感覚は私も一緒だから、すっごく分かる。

というわけで、この本には、本当にパワーをいただきました。奥様の若山ゆりこさんの可愛い本も、もうすぐ出るそうで、本当は2冊そろってから書こうと思っていたのですが、時間がどんどんたっちゃうので、今、書きました。明日は明日で読むべき本があるから(笑)そして、サラームさんの現在の旅の続きが楽しみです。

とにかく読んでいて楽しいのは、すごく大変な旅ではあるのだけどサラームさんがそれをすごく楽しんでいるから読んでいる方も楽しいのだ、という事はあるね。究極的には、この大変な旅を楽しめる、そういうご自分が好きなのだと思う。その感覚は私も一緒なので、すっごく共感できる。…と私は勝手に解釈しています。ご本人に聞いたら全然違うかもしれないけど。

それにしてもワールドミュージックを「かっこ良いもの」にしたサラームさんの功績は大きい。それまでワールドミュージックって、貧乏くさくて、田舎くさくて、あか抜けないものだった。それか、学者的でコ難しく近寄りがたい物だった。もちろんサラームさんだけじゃなくて、いろんな要素や功績が重なって、今の東京のワールドミュージックシーンがあるわけだけど、ジャーナリズムの世界においてはサラームさんの功績は本当に大きいと思う。それは時々ブログで紹介されるご自身の楽しそうなライフスタイル(特に食べ物!)にも寄るところも大いにある。

そうそう、あと絶対に書いておきたいのは、全編につづられるユーモアのセンス! サラームさんが、いつだった某(食事のまずい)ヨーロッパの国の料理について「機内食みたいですね」と言ってらしたのには爆笑した。そう、サラームさんのユーモアのセンスも、重要な要素なのだ。

いずれにしても、ものすごい充実の1冊である。ほんと固有名詞が分からなくても、面白い本は本当に面白い。取りあえずコラム系は飛ばして読んでみたが、終始わくわくさせていただいた。最後のエジプトの章は圧巻。もちろんあの名言「初めてアメリカをイイ国ではと思った」と言う下りもバッチリ載っていますよ。詳しくは皆さん、買って読んでください(笑)