先日高円寺:本の長屋で行われたKOZO TOYOTA FLAT QUARTETの公演。
提供:THE MUSIC PLANTということで(笑)FLOOKの来日直前の宣伝の意味もあったのですが、本当にご来場くださった皆さん、演奏してくださったFLAT QUARTETの皆さん、ありがとうございました。
当日の様子から、豊田さんのFLOOKに関するMCを書き起こさせていただきました。どうぞ読んでください。そして、多くの皆さんがFLOOKの公演に興味を持ってくれますように。
まずはこのバンドがどんなにすごいか。どんなに難しいか…ということについて。
豊田さんの視点、いいよなぁ。やっぱり演奏する人が言うことは説得力が違います。
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FLOOK は、もともとはフルート 3 本とギターというとんでもないバンドでした。
そこには僕が⼤尊敬するマイケル・マクゴールドリックさんも在籍していたんですが、彼が抜け てフルート 2 本とギター、そこにバウロンという太⿎が⼊り、今は 4 ⼈で活動しています。
今⽇(4月6日)のライブは、フルックの来⽇公演のプレ・イベントということで、フルックの曲を演奏してみようということになったのですが、実際、フルックの曲をリストアップしてみて、もう…なんていんでしょうね。
ひどい⾔い⽅をすれば、消去法に近いですね。 「はい、この曲は(難しいから)無理」「はい、これも無理」と。本当に曲⾃体が、気が 狂うくらい難しい。曲そのものが、とにかく難しいんです。
僕はアイリッシュ・ミュージックを始めたのが 2004 年くらいだったんですが、もう 2005 年くらいには FLOOK を聴き始めてましたね。⼤学のサークルで夏合宿に新⼊⽣が「これめちゃくちゃかっこいい、これ演奏したい」と持ってきたのがフルックだったんです。
で、演奏できるように頑張るんですけど、曲に振り回されて、ちっともかっこよくならずに終わりました。リズムがトリッキーで…。
今、この時点で、彼らのレパートリーを振り返ってみて、あれを吹けるかなーとか、昔トライしたなーとか思いながらやってみるんだけど、やっぱり演奏できないわけです。
僕が好きだったのが 「RUBAI」って 2 枚⽬のアルバムでした。とはいっても、今、思え ば、まだあのくらいの難度はマシな⽅だったと思う。フルックは 4 枚のアルバムを出しているんだけど、1、2、3、4 と枚数が進めば進むほど難易度が⼈間離れしていく、そういう感じでした。
もう何度も聞いて、曲を知っているはずなのに、とにかく声で歌えない。歌えないってことは、弾けないってことなんです。
例えばそこで踏みとどまって、めちゃくちゃコピーバンドと化して演奏するぞということになったら、もしかしたら何曲かは演奏可能なのかもしれない。けれど、それは他のすべての活動を犠牲にするくらいの覚悟がないと無理ですね。
この間もリハーサルの時にあれができるか、これは弾けるかって、これ、昔やったことあるんだよねとか⾔いながら、いざやってみようかとかということになるんですけど、そし て、20 年空いてるというのはありますけど、それでもやっぱり難しくて!
それが「RUBAI」っていう⼆枚⽬のアルバム。
とにかく FLOOK は、どんどん難 しくなっていく。5 枚⽬のアルバムを実はつい最近出されました。今年 30 周年ということで「30」という名前のアルバムです。それを聞かせてもらったんですけど、でも、それはまた違う⽅向に⾏っているように思いましたね。
それにしても FLOOK は、これはあまり良い⾔い⽅じゃないけれど、コスパが悪すぎるっていう感じなんですよ。この⾳楽をやろうとすると、他のキャパを喰ってしまう。これをやったら家族から⽂句出るんじゃないのかなっていうくらい、エネルギーと時間を割くことが必要になってくる。お⽗さんどうしたの?っていう(笑)。急になんか狂ったような曲ばっかりやってるよ、みたいな感じになって。
そういう感じの勢いのバンドです 。それぐらい難しい。
僕はそのメインのフロントのホイッスルとフルートのブライアン・フィネガンという⼈に習ったこともあるんですけれど、彼のレッスンって、いきなり、えっ?って感じなんです。
通常は使わない3オクターブ⽬の超⾼⾳域を出す練習から始まって、変な倍⾳を出す練習、通常使う倍⾳と倍⾳の間の中間⾳をわざと出す練習とか、変なタンギングの練習とか、いろいろやっててすごく⾯⽩かったです。
そしてやる曲も⼀曲も普通の曲はなくてですね、フランスのブルターニュの曲とか、最後まで拍⼦がわからない曲とかもあったりとかして、いったい彼の頭の中はどういうふうになっているんだろうと、今でもずっと思っています。
僕、⼤学の時の友⼈に多久潤⼀朗っていう有名なフルート奏者がいて、現在、彼は現代⾳楽のスペシャリストで、例えば「題名のない⾳楽会」とかで⽵輪で演奏しちゃうような、 ぶっ⾶んだ、おかしい男がいるんですが、なぜか僕らは昔から仲良かったんですけれど、 彼はその学部⽣時代に、もう現代⾳楽ばっかりやってる⼈で…。
モーツァルト、ベートーヴェンとか恥ずかしくて演奏できないって⾔ってたんですよ。
それくらい弾けるのにまさかの僕と同じ⼆浪してて。何故かというと⼊試の課題曲が 2 年続 けてモーツァルトとかで、そのために⼊試がうまくいかず 、3 年⽬でやっと難しい現代⾳楽系の課題曲が出てきて、そのときは余裕で受かった…みたいな。
そんな変なやつなんですけど、 もしかしたらそういうのにブライアンは近いのかなと思います。頭の構造がきっと違うんでしょうね。 本当にすごく難しいことを、彼らはあっさり遊んでるみたいな感じにやってしまう。
なので、聴く分には格好いいし、そんなに難しそうにも聞こえなかったりすらするのですが、 ⾃分が吹くという話になると、良い⼦のみなさんの真似をしてはいけません、みたいなね。
そんな感じです(笑)
というわけで、これなら演奏できるんじゃないか、いけるんじゃないかとか、フルック以 外のほかのバンドもこれはやってるよねっていうような曲を、今回はなんとか絞り出してみました。
かつアレンジも変えてあります。 フルックにおいては、セーラ・アレンが下のフルート、アルト・フルートで、とにかく⾮常 に特殊なことをやっていて、彼⼥の⾳が Flook の異質なサウンドを⼀番決定付けていると思います。
そして、世界中で⼀番上⼿いと呼ばれるバウロンのジョン・ジョー・ケリーが いて、これまた超絶技巧っぽいことを簡単そうにやってしまう、っていう…。
で、そのバウロ ンとエド・ボイドのギターがアクセントを全部合わせて弾くというよう緻密なアレンジを ほとんど全ての曲で当たり前のようにやっています 。アイリッシュ⾳楽の世界から⾒ても 本当に異様なサウンドです 。
もう聞いた瞬間にこれフルック以外はありえないっていうような⾳なんですけど、演奏家としては、このサウンドを⽬指すのはもう時間とエネルギーの無駄だということにすぐ気 がつきます。
なので、今回はフルックがやってる曲を僕らなりのアレンジだったりとか、さっき⾔ったシャロン・シャノンのマイク・マクゴールドリックを含むカルテットだったらこうやるみたいなことで演奏してみたいと思います。
まずはこの曲から。スコットランドにゴードン・ダンカンという有名なパイプ奏者がいました。もう亡くなってしまのしまったんですけれど、彼はものすごい曲をたくさん書い て、しかも全部が全部⼤⼈気で、みんなこぞって演奏してます 。その中から「Pressed for Time」っていう曲です。
(演奏)
ちょっとそのリズムとかトリッキーな感じっていうのが伝わりましたでしょうか。まあね、これ、必死で演奏している感じが伝わったら、もうなんか、演奏としてはあんまり良ろしくはないんだろうなと思うんです。
だから、これが当たり前にできる境地ってのは、⼀体どういうことなんだろうと思いを馳 せるしかないんですけど。
「Pressed for Time」は We Banjo 3 がやっていますね。バンジョーばっかりのバンドで、 彼らもガンガンやってて、アメリカのフェスティバルなんかはもう⼤定番です。
このアメ リカのフェスティバル、⾯⽩いんですけど。1 週間とか 3、4⽇とかいう間に、みんな仲良くなってたりとか、元々仲良かった⼈たちが、他のステージに⾶び⼊りしたりとかね。
お互い貸し借りとか、やりまくるんですよ。で、その時にこの曲は⼤定番なんです。 ちなみにこのセットの2曲⽬が何を隠そう、さっきあの学⽣さんがこれをやりたいと持っ てきた曲の中の⼀曲でした。当時よりはましだったんじゃないかと信じたいですけれども。
というわけで、こちらがFlookの『Pressed for Time』です。
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