悪気があるわけではない… が、それが一番の問題かも。

週末の朝、アップリンクの浅井社長のツイートを見て、なにやら不穏な空気を感じとる。


吉祥寺にオープンするというお洒落な感じのカフェシアター。クラウド・ファウンディングで大きな予算を集めていたようだ。



その後、昼頃浅井社長のWeb DICEには、こんな記事がアップされた。
短時間で、この記事を書かれた浅井さんの取材力には感動した。しかし、うーん、これはないだろう。

でもこの風景、結構見慣れた風景でもあるんだよね。エンタテイメントの世界では…。 なんかやたら志を高くかかげて、風呂敷広げて、夢の事業をスタートさせたのはいいけど、結局それを実現まで持っていけない…そういう人たち。

そしてそういう人こそ、妙に情熱や芸術愛を熱く語ったりすることが多い。そんな見慣れた風景。ウチの同業者にも似たような人がいて日頃から心配しているのだが、彼はいつも新規取引先にやって来ては熱く音楽のことを語り、でも先方が「分かりました、では資料を送ってください」というと、そこから何故か梨のつぶてなんだって。

これってどういう現象なのかな…。たぶん軽い躁鬱なのかな…とも思う。夢を語る時は躁状態。でも結局実現する時は鬱状態… ってか?  なんというか計画をきっちり進められない人って、そういう心理状態なのかもしれない。

当然そういう人には同情しながらも、自分が迷惑を被るのは嫌なので、普段はなるべく距離を置いているのだけど、久しぶりに、また似たような人にこの前出くわした。

その人はウチの映画(これ)を配給したいと熱く語り、絶対に上手くいきますからみたいなことを言った上、最初のミーティングのその場にハンコを押した契約書まで持ってきた。 私は当然その場で契約せず(そもそもハンコなんか持ち歩かないし、持ってこいとも言われてないし)、その契約書を持ち帰り「この箇所を訂正してほしいのですが」と訂正希望箇所を箇条書きにして、彼にメールしたのだが、そこからまったくメールの返事が来ない。もちろんミーティングした時に名刺交換もし、電話番号なども知っているから、電話をかけてみようかなとも思ったけど、そもそもメールの返事が来ない時点でビジネスの相手としては失格。そういう人を相手に仕事をするほど私も暇ではないので、今ここで相手を追いつめてちゃってもな…と思い、辞めておいた。そして「申し訳ありませんが、あなたの対応にあきれてます」とメールを入れ、この話はなかったことにと結論づけた。

それにしてもいろんな人がいるもんだ。 今、彼はどうしているのだろう。その会社のホームページは、私がミーティングした時点では掲載されていた今後配給予定の作品たちが現在はすべて削除され、このページは4月第1週に再びオープンします、とだけしばらく書かれていた。が、それが知らない間に今度は4月中旬にオープンします、と延期になり、今はどうなっているか知らないが、いずれにしてもよく分からないままである。もちろん、あからさまな詐欺や悪質業者だったとは思わないが、いずれにしてもあまりに誠意のない態度に呆れている。仕事ができそうな若者だったのに、本当に残念だ。そして彼のホームページにも映画を取り巻く現状を憂い、自分たちの映画愛を必要以上に熱く語るようなコメントが現在でも掲載されている。

以前、ライブハウスのブッキングで、ちゃんとお金を払わずトンズラした友人もちょっと、その傾向があった。ブッキング・マネージャーは払ってほしいお金を集金するため何度も彼に連絡をしたが、まったく返事がない。私が紹介で間に入っていたこともあって、私はすごく責任を感じて、そのお金を代わりにライブハウスに支払うと(たいした金額じゃなかったんですが、それなりの額です),彼に返済計画を提出させ、奥さんのハンコまでもらい毎月数万くらいずつ数回に渡ってそのお金を返してもらった。確か1度だけ返済が滞ったこともあったが、基本的に毎月きちんと返してもらっていた。が、実は後になって彼がその返済期間に家族で海外旅行に行っていたことを知り、正直心の中でめっちゃ激怒した。が、それを言って奴をせめてもしょうがないだろう、と心の優しい私は(笑)黙って月々小額の返済だけを受け取っていた。返済は完了した。そしてその人は私の目の前にもう何年も表れていない。

あの人も同じような症状だったと思う。志は高い人だったし、私のことを高く評価してくれていたから、私をまきこんだ企画を立ち上げてくれたのだろう。うっそうとした音楽業界に面白い企画で一石投じたい,という気持ちもあったのだと思う。しかし、結局自分の責任に向き合えない、現実を直視できない、ちょっとした問題や想定外の事が起こるとすぐ逃げてしまう… そういうちょっとした「ウツ」状態になっちゃったんだね。もしかしたら、そういう状態を呼ぶ専門用語があるかもしれない。 やらなくちゃいけない、って分かっているのに動けない。進まない。翌日へと責任と結論を先延ばしにしてしまう、みたいな。誰も最初から何か悪いことをしようと思ってしているわけではない。が、言ってみればそういうのが一番たちが悪いのだ。

そういう人にクラウド・ファウンディングはとても危険だ。やっぱり事業は自分の貯金の中で出来れば借金をせずに責任を持って進めていきたいよね…。(が、日本の場合、キャッシュが回ってさえいれば、不健全経営でも銀行はお金貸しちゃうのよね… それも問題だと思うけど。ちなみにウチは貧乏だけど借金は1円もありません)

でも志ある人が潰れてしまわないように、と思う。みんな悪気があって周りに迷惑をかけているわけではないのだ。出来ればそういう人たちの周りに実務が出来る優秀な番頭さんがいれば…と思う。今の時代、そういうお金やスケジュールをきっちり管理できるプロデューサーこそが必要とされる時代なのだ。ところが実際は理想を掲げる芸術家ばっかりが出現してきている…。つまりはそういうことだ。

で、危険なことに、そういう人こそ「大丈夫だ、大丈夫だ」って言うんだわ。「分かりません、出来ませんので、皆さん協力してください」って言えない。何度も書くが、本当に本人に悪い気持ちは1つもない。そして、また何度も言うが、一番そういうのがたちが悪い。そういうのが一番周りに迷惑をかける。

いろいろ考える。私にだってそういう要素がないとは限らない。私だっていつも机にすわると、やりたくない仕事をあーだこーだと理由をつけて後回しにし、自分のやりたい仕事を先にやってしまう。いや、こういう事は働く人なら誰にでもある要素だろう。ただバランスの問題だけで…。誰だってあやういバランスの中で生きている。

一方で責任感が強く,鉄の意志で物事を進められるカッチリした人は、逆に自分のやりたい事をまったく持っていなかったりする。またやりたい事があったとしても、慎重すぎて最初の一歩を、こんな博打みたいな事ばかりな音楽業界の中で、踏み出すことが出来なかったりする。まさにバランス感覚にすぐれたプロデューサーが、今、エンタテイメント業界には足りていない。そういうことなのだ。

ちょっと聞いた話だが、金沢のロックの殿堂ジャパンミュージアムも、こんな状況なのだそうだ。ここに最近行かれた方のブログも。
それにしてもココマルシアターの現状を報告するUPLINKの浅井さんの文章は、愛情と叱咤激励の気持ちが込められていて、すばらしかった。どうやらこのシアターのオーナー、UPLINKの配給塾の卒業生だったみたい。浅井さんの気持ちが、痛いほど分かる。

でもって昨晩になってオーナーのこんな言葉も掲載された。

頑張りすぎない程度に頑張ってほしい。しかしなぜクラウドファウンディングであんなに予算を集めておきながら、ちゃんとした業者に内装を頼まなかったのか、まったくもって謎だ。そもそも55万だった目標額は1日で達成され、予算枠を増やしに増やして結果650万も集めたわけだから。映画館/興行場という難しい場所なのにプロの業者を入れていないとは……そもそもスクリーンがゆがんでいる時点で、作品やお客をなめている、と言われてもしょうがないだろう。そしてその経過を出資してくれてた人に一番最初に報告していなかったというのも、何かが間違っている。(と、ここまで書いて、そういや数ヶ月前に自分が投資した某音楽CDもまだ出来上がってないし、経過報告も全然ないよなぁ、と思い出す。ここにもアーティストだけがいて、ちゃんとしたプロデューサーが存在しない)

また何度も書くが、危ない人ほど「がんばります」「大丈夫です」「自分で出来ます」って言う。「どうして良いか分からないです」「分からないのでプロの人に頼みます」とか絶対に言わない。そして本人熱く夢を掲げてしまった分、その人を「応援する」としておきながら、実際は精神的に追い込んでしまう周りの人たち、というヘヴィな存在も存在する。この代表さんのTwitterのお名前が「イクゾ気合」ってので、何かちょっとすでに危ないものを感じとってる私は、心配性すぎるんだろうか。

人と仕事をする時、言ったことをきちんとやってくれれば、それ以上は何ものぞまないよ、といつも思う。ミーティングで決めたこと、言ったことを必ず実行すること。それだけのことなのに、それが出来る人って、ホントに少ない。

何をやっても難しい今の時代、志がある人はそれだけで貴重である。そんな人たちが潰れないよう、挫折しないよう、しかし過度に甘やかさないよう、そういう社会のバランスが大事なんだろうけど、それって、とっても難しい。

さて、今日も張り切って行きましょう!

PS
該当の浅井社長の記事は、その後削除された模様。うーん、なんだかなぁ。
http://www.webdice.jp/dice/detail/5389/

PPS
いろんなことの経緯はこちらに詳しいです。
http://kichijoji.overload.tokyo/shop/646