本当にピーターさんの言うとおり、海外からのコンサートが行われない今、大きなスピーカーとスクリーンで見る音楽映画は最高です!
おっ、オフィシャルの写真来た! かっこいい。(C)Maciej Komorowski
で、一発目はこの映画からスタート。今回の映画祭の看板映画ビリー・ホリディのドキュメンタリー『BILLIE ビリー』。圧巻でした。
44年の短い人生を駆け抜けたジャズ・シンガー。破天荒な人生だったということはなんとなく知っていたけど、うーん、すごすぎました。
ものすごく悲惨で辛い人生だけど…ただ思ったのは… 彼女はこちらが思うほど可哀想な人というわけではなかったような気がしたってこと。自分の生きたいように気持ちのまま生きた。それは彼女の死を早めてしまった刹那的な生き方だったけど、人の100倍で生きている人が、のんびりした心の平和なんか望むわけないだろう、とも。もしかしたら、彼女は彼女で大麻をもくもくさせながら「同情なんか必要ないわよ」と天国で高笑いしているのかもしれない。そのくらい爆発した人だったんじゃないかな、と。
歌以上に人間も相当魅力的な、とにかくすべてのことが満載の人だったんじゃないかな、と。きっと誰もが惹きつけられてしまうような。もちろんその音楽の才能ももちろんだけど。
有色人種がうけた迫害や差別、それもとにかくものすごいけど、なんかJAZZの世界自体がすでに怖すぎるよ。騙し騙され、マフィアみたいな連中が幅をきかせている。そしてビリーのことを取材していたジャーナリストの謎の死も、もう疑いしかないんですけど!! これは自殺じゃない。きっと彼女は誰かに消されたんだって。
でもまた書くけど、ビリー本人はきっと短く濃く悲しく破天荒に刹那に生きて、それで同情する私たちを笑っているようにも思えるんだ。この不思議な感覚。
しかしすごいよなぁ。この200時間におよぶすごい量のジャーナリストの取材テープ。それをうまく編集し、当時の本人の写真やイメージ写真、動画などもあわせ全く違和感なく映画は進行していく。この編集力がすごい。
以下は上映後のピーターさんのトークより。私が録音もせずメモった内容なので、誤解があればすみません。文責のざきでお願いいたします。
ピーターさんはお母さんがビリー・ホリディのファンで初期の3枚くらいは家でヘヴィロテだったらしく、すごくよく聞いていたんですって。
そしてピーターさん、この映画何度かご自身でも見ているけれど、大きなスクリーンで見るのは今が初めてで、かつ何度みても「新しい発見がある」ということ。だから「みなさんも何度も見てください」と強調してらっしゃいました。
もちろんピーターさん、英語はすべてわかるのだけど(笑)歌詞とセリフが重なっていて聞き取りにくい部分もあったので、今回日本語字幕がついたものを改めて見て、いろいろ思ったそうです。
それにしても「奇妙な果実」を歌った時点でめっちゃ若いビリー。23歳…かな。当時のアフリカン・アメリカンの悲惨な生活。本当に本当に悲惨だったのだと改めて感じるとピーターさん。ビリーに限らず、子供も身売りをしていた、と。「当然じゃないか」「もちろんしていたに決まってるじゃないか」というノリでそんなことを証言する友人たちの声に、本当にびっくりするしかない。
そして麻薬や危ないドラックへとエスカレートしていくビリーをみかねてマネジメントが本人のために逮捕、そして本人は刑務所の中では妙に優等生だったらしい…。
ピーターさんは自分としては、「Strange Fruit」の本も読んでいるし、ビリーのことは割と知っているつもりでいたけれど、この映画で初めて知ることも多かった、と。とにかくこのドキュメンタリーのもう一人の主役であるジャーナリストのリンダの取材が本当に素晴らしい、と大絶賛。彼女は10年かけてずっとビリーのことを取材をしていた。友達、ミュージシャン、関係者、証言をまとめ、とにかく膨大な量のテープが残っていた、と。
それにしても、「Strange Fruit」は39年。そもそもプロテスト・ソングがそんなに存在しない時代の話。だからこの曲がまずプロテスト・ソングの第1号と言ってもいい。でもって、この曲を書いたのは実は白人の学校の先生(知らなかった!!)。左寄りの思想を持つ彼はルイス・アレンという偽名でこの曲を書いたのだそうです。でもって、これを歌うことによってそれによってビリーは体制側に睨まれるようになってしまった。
動くビリーの記録(映像)はすべてモノクロで残っていたのだけど、それを今回この映画でカラーにした技術が本当に素晴らしい、とピーターさん。これ、ブラジルの技術者の方で、やってもらって本当に良かったと監督は話しているそうです。なにせ新しいリスナーもきっと見るだろうから、モノクロのままよりもカラーの方が新しいファンにアプローチするだろう、と。ピーターさんも、「ビリーが水色のセーターを着てStrange Fruitを歌うシーンがとても素晴らしい」と感想をおっしゃってました。ちなみにあの映像の4か月後くらい、ビリーは心不全で亡くなるわけです。歌は素晴らしいですが、この時点でだいぶ痩せている感じです。
今回この映画祭をプロデュースした小倉聖子さんのお話。この映画、イギリス人の制作者なんだけど、本当によくあのリンダの取材テープのを見つけたなー、と。最初は普通にビリー・ホリディのドキュメンタリーを作るということで始まった企画だったんだって。でもジャーナリストのリンダの存在が後から分かったんだそうです。実はリンダが書いたという原稿を一部見た!という人が出現し、そこからたどってたどって膨大なインタビュー・テープの在庫が発見されたのだそう。そしてこの映画が、こんな風に立体的になった。
当時の写真はもちろん、ジャーナリストであるリンダがタイプしていく効果音みたいなもの+ナレーションみたいな自然な演出。「編集されました」ということをまったく感じさせない。自然に物語が流れていく。ちなみに映画「AMY」の映画も同じ人の編集だそうで、英国人のドキュメンタリー制作の力を感じますね、と小倉さん。
再びピーターさんの発言。「本当にビリーとエイミーの人生がかぶりますよね。ダメな男につかまって自虐的に振る舞うところなど、そっくり」「そういったところがすべて彼女たちの歌に表れている」
ちなみに映画のサントラは「時代ですね」ということで(笑)、アナログLPと配信のみでユニヴァーサルから発売になっているのだそうです。
あと最後にピーターさんの好きなビリーのレパートリーは「My Man」「Don't Explain」「God Bless The Child」などだそうです。そういやピーターさん、メアリー・ブラックが歌う「God Bless The Child」がいいと言ってくれたことあったよなぁ。あとよく聴くCDは2枚組のLady Dayという初期の曲がたくさん入っているコンピレーションだそうです。
そして、映画の最後に挿入された現代の写真、そこに映るトランプ支持者の人たちのシーンなど、人種差別などについては、世の中、何にも進歩していないということをつくづく。そんなことをこの映画を見ながら、感じました、としみじみおっしゃっていました。
ちなみにピーターさんの音楽映画祭、公式ページでは今後この映画祭で見たい音楽映画とか募集しているそうです。来年もまた続けていけたらということなので、ぜひみなさんも投書しましょう。
私は… 難しいかもしれないけど、音楽映画祭で海外出張に行くと時々みるTVでやってる良質の音楽ドキュメンタリーとかも見たいなぁ、と思ったりしています。それこそドーナル・ラニーがプロデュースした「Bringing It All Back Home」の全編や、「Transatlantic Sessions」とか。映画というのとはちょっと違うかも、ですが。
ブログ更新♫ビリーホリデーのぶっ飛んだドキュメント『BILLIE』を見ました!#peterbarakanmusicmoviefestival#音楽映画祭 #ピーターバラカン #BILLIE #アメイジンググレイス https://t.co/Oj7SMwwMMG
— YUKI KUROYANAGI (@yukinaco05) July 2, 2021
PPS ピーターさんの解説動画来た!!!