小泉凡「怪談四代記〜八雲のいたずら」を読みました

思うにブログを書くという行為は非常に男っぽいのかもしれない、と今朝、荒川土手を走りながら思った。ブログを定期的に書いている人は自分の周りでは男性か、女性でもとても男らしいかっこいい人が多い。

ヴェーセン日記というタイトルで始まったこの日記、続けて10年以上になる。だからブログを書かないと何かサボっているような罪悪感を感じる。まぁ、チケットを買ってくれているお客さんに対して野崎は今日も元気でやってますよ、だから安心してチケット買ってください、というアピールでもあるんだから、そう思うのは無理もないのだが。

そして良い本や良い映画に出会えば、やはり皆さんにもご紹介したいと思うんですよ。音楽は…紹介しようとすると自分と関係ないもんはだいたい悪口を言いたくなるので、基本自分に関係ないものの紹介はここでは辞めているのだけど(笑)

さて、そんなわけで今日のブログ(笑)。アイルランド文化に興味のある人だったら、ご存知でしょう。小泉八雲のひ孫である、小泉凡さんの最新作。「怪談四代記〜八雲のいたずら」

いや〜事実は小説よりも奇なり。この本に書いてある多くのエピソードは、普通の常識では説明できないことばかりだ。小泉家に伝わる不思議な物語を紹介しながら、また八雲の足取りを訪ねる旅をしながら、凡さんが体験した奇妙な体験を紹介していく。これは単なる偶然か。はたまたタイトルにあるように八雲のいたずらなのか。一方で旅エッセイのような楽しさもある。この感覚は…時空を旅する伝統音楽好きになら絶対に分かるし楽しめると思う。

特に印象に残ったのはやはりアイルランドの場面だ。小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの父はイギリス軍の軍医で、ハーンは2歳ごろ一家そろって父の実家であるアイルランドのダブリンに移り住んだ。母親はギリシャ人だったので、アイルランドにおける地中海の気候や食べ物との違いは彼女にとっては非常につらいものだった。軍医である父は家をあけてばかりいて、寂しくなった母はギリシャに帰国。これがハーンと母親の最後の別れになったのだそうだ。そんな複雑な少年時代、ラフカディオを支えたのは乳母で、この乳母がものすごく意志の強い、ものすごい女の人だったそうだ。ハーンは彼女を恐がりながらも、非常に畏れていたし惹かれていた、とも言えると思う。いつも彼女は強く淀みなく正しい。彼女から教えられたアイルランドの不気味な物語の数々がのちのハーンに大きな影響を与えるようになる。

現在、ハーンの末裔はダブリンから西へ300kmほどの距離にあるコングに住んでいて、親戚を訪ねた凡さんに対して大変な歓迎をしてくれるわけだが(この歓迎ぶりはアイルランドの新聞にもカラーで大きく掲載された)、同じ時期にニュージーランドとオーストラリアからも子孫がやってきて、つまりハーンの父の3人兄弟の子孫が同じ土地に揃ったわけで、ものすごい奇跡を感じると凡さんは、この本の中で紹介している。そんな親戚の集まりにコングの郷土の歴史の研究家も集まり、その日はたいそうもりあがったそうだ。でも彼女いわく「アイルランドでは、こういう事、よくあるのよね!」と。うーむ。

アイルランドの部分だけ軽く紹介したが、ギリシャも負けてない。特に空港のゲイトでのエピソードなどは笑ってしまった。とあるギリシャの僻地の島で飛行機を降りて出口で向う凡さんは反対側の通路に知り合いらしい日本人夫妻の影をみかける。まさか、あの先生夫妻がこんなとこにいるわけない… が、間違いなく〜先生だ! あわてて空港スタッフにお願いして、特別にゲイトを通してもらい……などなど。

あとは凡さんがレクチャーをしている時に、とある昔話を紹介していて「赤ちゃんが急に泣き始めました」という下りを紹介してたら、ホントに部屋の外からか赤ちゃんの泣き声が急に聴こえて来て、気付いたお客さんたちがザワザワしはじめてしまったことなど。

いや〜あまりネタをばらしてしまうと詰まらないので、具体的な紹介はこの程度にしておくが、ほんとにすごい偶然が重なりすぎるのだ。

また凡さんのお名前の由来なども、始めて知ってホントにびっくりした。あの映画は私も見たが…あぁ歴史ってすごい!! 国境を越えた友情ってすごい!と本当に感動してしまった。

それにしても八雲はきっといい人だったんだよね。パトリックというアイルランド名を自ら抹消してしまったハーンであるが、性格はきっと優しい気の良いアイリッシュだったんじゃないかと勝手に想像している。異文化に対する暖かい視線。多様性のある世界を面白がれるのは真のインテリの証拠でもある。こういう心の広い人じゃないと物事の本質には迫れない。そして、それはマーティン・ヘイズやルナサを松江に呼んでくれた小泉家と松江の皆さんの中にも脈々と流れている。っていうか持ってる人は持ってんだよねー 

私もいつも思う。私が世界の伝統音楽を紹介しているのも、そういう意志だ、と。多様性を受け入れられる世界を実現したい。自分の身の周りでも、世界でも。それに、ちょっとでも自分なりに貢献できればといつも思う。だからへんぴな場所のへんな音楽を紹介しているのだ。アメリカや日本のポップスだけが音楽じゃないんだよ…って言うために。

……って自分で自分に確認してます、ハイ(笑) 時々そういう重要なミッションを忘れて、チケットが売れない、仕事は厳しい、あれが気に入らない、これが大変で疲れた、と小さい事でイライラしたりするのだが(笑) まだまだ私もちっちゃいね。修行が足りないよ、ホント。

ところでこの本、装丁がすごく凝っている。私はだいたい本はこうやって皮をむいて読むんだけど、今回カバーをはずしたらこんな素敵なデザインが下から現れた。

ハーンは左目を子供の頃の事故で失明していたので、横顔の写真しか残っていない。そしてそれは、いつも右側の顔だ。

また先日凡さんがNHK-TVに出演してNHKが10年前に作った八雲のドキュメンタリーを紹介していた。こちらも内容がすっごく良くって、とっても良かったので、追って紹介したいと思います。

…って早くやらないとね。ネットは早くやらないとホント意味がない。がむばる。では、今日はこれからヤスミン・ハムダンのお仕事で空港へ出掛けます!





← こちらもだいぶ前にいただいてまだ読んでないんだけど、早く読んでご紹介したいと思っています。