津田大介+平田オリザ『ニッポンの芸術のゆくえ なぜアートは分断を生むのか?』を読みました。

 


津田大介さんファンの私なので、津田さん関連の本は結構たくさん読んでいるんだけど、一番これが好きかもしれない。すっごく面白かった。平田オリザさんとの対談。今回のコロナ禍でまったくもって世間から軽く見られている芸術、文化の世界。お前らは自分の好きなことやってんだから、それで生活苦しくてもしょうがないでしょ、と世間の視線はすこぶる冷たい(笑)。それを「あいちトリエンナーレ」騒動、学術会議問題などいろんなことがある昨今、社会における文化芸術のあり方を問う内容だ。お二人の対談という形式で書かれている。

確かに音楽にかかわる人間に世間の風はつめたい。で、私も今までは「ふふ、そうね、好きなことやってるからね」と高笑いしてきた。でもこのコロナ禍で仕事がなくなり、高笑いしている場合じゃなくなくなっているのも事実。いや、ほんとにやばいんだって。

持続なんちゃら金やら給付金やらの申請もしてみた。でもどれも何か使って予算をコミットするものにしか還元されるものではなく、そのゆとりさえないウチのような小さなオフィスはいったいどうしたらいいのか。

本当にすべての仕事はどんなふざけたものでも、一つの社会参加なのだ。社会人として自分の仕事がどんなにつまらないものでも世間さまからお金を徴収しているということは、しっかり毅然と説明できなければならない。どんなに厳しい状況でも自分の事業をちゃんと人に説明し、語り、公の場で説明することも、この職業につくものの義務。というか、私たちの世代はダメダメでも、あとに続く若者に対する責任になるのだから頑張らねばいけない。…と、この本を読んで思い直した。大いに反省した。

というわけで、うなずきまくった箇所を未来の自分のためにメモ。

「政権交代がある国は野党時代に特定分野について勉強している政治家がかならずいる。そして政権交代がおきた時のためにきちんと政策を準備している。それが日本にはない」

「自民党は文化観光」や「文化産業」のように経済と結び付けてお金になるものとして推進したがる」→ これなんか東京映画祭がその際たる例。日本の映画を海外に売ることしか考えておらず、他の映画祭みたいに「映画の素晴らしさをみんなであつまって讃える場を提供する」みたいな基本的な考えが欠落している。ある意味、すごぐみっともない。これも経産省主催だから。

「経産省は文化庁よりもお金をもっていて、経産省はもちろん経済に結び付けたい」「日本の文化発信にこだわりすぎ。本来ならせめてアジアの若いアーティストたちに日本に来てもらって発信するみたいなことが必要。ベケットもピカソのもフランス人ではない。でもフランス人じゃなくてもフランスで作ればフランス文化になるんです」→ ほんとごもっとも!!

「良いか悪いかはさておき韓国の文化政策における消費者ファーストもある。例えば南米に韓国文化を売り出そうと言うキャンペーンを打ち出したら、南米のプロデューサーをいっぱい韓国に招待して伝統芸能からメデイアアートまですべての文化を見せ、そしてどれが南米で受けますか?と彼らに決めさせる」→ これもめちゃくちゃするどくて、私程度の音楽プロデューサーでも何度も海外に呼ばれてその国の文化の紹介を受ける機会がある。8月の(いけるのか?)ギリシャ出張も、実はそれです。そんな風に各国そういった活動をしている。やってないのは日本だけ。

「文化政策とはお金をドブに捨てるものとよく言われますが、そうです、ドブに捨てるんです、と私は答えます。お金をドブに捨ててドブを埋めて、その上を才能が歩いて行くくらいのつもりじゃないと、才能なんて育ってこない」→ オリザさんのこれには笑った。そして感動した。

「文化支援がなかなか現場にいかないのは、申請主義だから。(そして芸術家は書類の扱いが苦手)海外ではある程度活動していれば向こうから話がくる」← これも、めっちゃ響く! 本当にそうです。そうです!

「(若い人たちに)自分が何か行動を起こすことで社会が変わる経験というのは、やっぱり必要」→  そうだよ、そうやって選挙に行くようになり、社会的活動をするようになるんだよ!!! それが絶望しかないこの国で若者に何をせよというのか…

あと津田さんが「問題発言のあった議員の存在から同性パートナーシップ条例が整った良い展開があった区がある」と足立区のことを紹介してくれているのも嬉しい(笑)。もちろん「足立区」とはっきり言ってないところに津田さんの優しさが。

あと企業はお金は社会に還元するもの…という考え方を持っていないのも問題。津田さんが「あいトリ」のため、協賛金集めに駆け回る話も。本当におつかれ様でした。

一方でいろんな問題を赤裸々に自らのホームページに公開している大阪アーツカウンシル、そしてプログラムオフィサー、ディレクターと組織自体が組み立てられてい東京アーツカウンシルに対するお二人の評価は高い。なるほどという感じで興味深く読んだ。特に東京アーツカウンシルには私もお世話になったことがあり、津田さんも「高い独立性を担保できている」と評価している。

でもほんとお二人が指摘しているようにそういった助成金の申請や、自らリスクを負ってプロジェクトを進めるアートマネジメントを出来る人が少ないのも事実。私がいつもここに書くようになんだか最近この世界では誰もが誰かの企画にのっかることしか考えていない。本当に音楽業界プロデューサーが少ない。これは本当に問題。特に優秀な人たちが安心して自分のキャリアにコミットできないことが辛い。(これについては、私も給料やギャランティを払う余裕のない自分の小さなオフィスを呪うのだが…)

しかし音楽の世界と比較しても、オリザさんや北川フラムさんなど、演劇の世界はとにかく制作にお金がかかるため、もっと助成金などに頼って運営しているところが多い。そういう人たちに対して、私は(ちゃんとチケットを買ってくれる)良いお客さんに恵まれてきたがゆえに、「あの人たち助成金でやってんでしょ」と、かなり斜めの視線で見てきたことも事実。でもこのコロナ禍になって自分の仕事も本当にあやうい。長い長い不景気で芸術に対するお客さんのお財布の紐は固くなるばかりだ。例年、どんどんどんどん固くなる。

またオリザさんが言うように全国にある30の劇場がきちんとしたものを制作することができるようになり、その30がお互いにお互いの作品をツアーで回せるようになれば素晴らしい、と。ちなみに海外、例えばフランスなんかはきっちりそんな流れがシステムとして出来上がっていて、しっかり機能している、と。日本は立派なホールは作るけど、そういうことがまるでできていないという話にも本当にうなずくばかり。

そしてアートのPR、宣伝、広報にかかわるスタッフの重要性なども。いや、ほんとこの時代、本当に重要。すぐれたアーティスト(表現者)はそれなりにいると思う。でもそれをささえるスタッフだ。そっちが足りない。

あとオリザさんの指摘で「日本はミッションがはっきりしていないものが多い」というのもとても重要ポイント。これアートだけじゃないね。本来行政がお金を出すからには行政がまずミッションをかかげるべき。そして芸術家が芸術監督としてそれを実行するというのが本来の筋であるはず。ところが、日本の場合ミッションまでもが芸術監督の責任。こんなんじゃますますやる事がブレブレ。これ、コロナ対策にも言えることだけど… 

オリザさんはよく行政の人に球団にたとえて説明するんだそうです。例えばジャイアンツのように常に勝つことをミッションにするのか、広島のように予算がないのでとにかく若手を育成してくれという球団もある、その上でその方針にあった監督を現場に呼ぶのが筋。

そしてトドメがこれ。「あいトリ」で分かったこと。政府とは言葉がはっきりしないものをとても怖がる。自分が批判されているんじゃないかと怯えている、とも。特に抽象的な表現は怖い。(でもそれは政府じゃなくても、みんなそうなんだと思う)

「あいトリ」騒動は大変だったけど、政治は形のないものをこんなに怖がるのだと、芸術の圧倒的な力を示せたと思う、とオリザさん。

本当にいろいろ考えた。そろそろ自分も引退しようかなぁという年齢になって、本当に考える。あと5年したら60歳だから、このあとの人生は田舎に引っ込み、地元で市会議員になろうかな。700票もあれば、当選しちゃうウチの田舎。そんな田舎ですら予算はびっくりするほど持っている。そのうち3,000万もあればあそこも楽しい街になると思う。今のままじゃ図書館はしょぼいし、街のへんなだっさいキャラクター作って意味のないSNSやってて、まるで効果があがってないのが手に取るようにわかる。Twitterのフォロワー数なんて、私の半分以下。オリザさんによれば、引っ越しをしてくる若いお母さんたちが何をみるかというと、充実した図書館、そしてクオリティの高い英語塾、そしてスイミングクラブなどだそうだ。そのどれもうちの田舎にはない。うん、やっぱり政治家になるっきゃないか…

しかしコロナ禍でいろんなことが実行できない今、「理念的なところでいうと、劇場や演劇祭はやれるんだったらやらないとダメです」と言うオリザさんの言葉に身がひきしまる。本当にそうだ。そうじゃないと、死んじゃう。みんな死んじゃう。そして、お二人のいうように、文化は投資した以上のものを戻してくれる。

本も素晴らしいけど、津田さんのポリタス、この会の放送もすごく充実の内容でよかった。普段は有料のアーカイヴだけど、この回は放送は本の宣伝のため、まだ全部見れるようになっているみたいなので、芸術関係の仕事している人、興味ある人ぜひ見てみてください。とても指摘的だよ!

 

 特に番組の中で、オリザさんの演劇を体験することはすごく重要。演劇こそ一人ではできないことだから、そのプロセスの中でいろんなことが学べるとおっしゃっていたのが印象的でした。