いやー いいドキュメンタリーだった。ドキュメンタリーとしては長尺の2時間半。でも普段、長い映画やコンサートが嫌いな私でも、あっという間だった。
テンポが良すぎて、モリコーネの言葉もすごくよくって、ほんとメモをとりながら見たいとか思っちゃった。初めて聞くエピソードがどれもすごい。
最初の始まりかたもいい。朝起きて、ストレッチする巨匠。せめてヨガマットくらい轢けばいいのに…と思ったり。
絨毯の上で、オイッチニ、オイッチニ… そして本棚に向かって指揮。この指揮のアングルがめっちゃいい。他のコンサートのシーンでも、後ろ姿というか、襟足のところがなんともチャーミング。
そしてインタビューカットもいいんだ! カメラはちらっ、ちらっとあまり変化のない巨匠の微妙な表情の変化を追う。この感じがいい。ユーモアすら感じる良い編集だ。マエストロがカメラを信用しているのがわかる。
モリコーネとかいって、私は全然よく知らない。ただ「ニュー・シネマ・パラダイス」の音楽は強烈だったし(あの曲が流れるだけで、もう涙がボロボロ出るわ)作曲家と映像の関係っていうのにも興味を持ったんだ。
昨年の夏、作曲家の日向敏文さんと一緒に仕事をして、与えられた時代を生きる作曲家の気持ちをもっと知ってみたくなったのだ。日向さんも自分のアルバムとは別にテレビドラマやCMの音楽をたくさん制作している。
トレイラーにあるモリコーネの「私の師は映画音楽を馬鹿にしていた」「映画音楽を作るのは屈辱的だった」みたいな発言にも、ドキリとさせられる。
モリコーネって、トランペッターだったんだってね。そんなことも知らず「ええっっ!」となった。そしてピアノも弾かず歌を歌うこともなく、いきなり譜面に鉛筆で音楽を書いていく。すごいよなぁ。
ドキュメンタリーでは、「歌は音痴だし、ピアノは下手くそだ」と自分でも言っているが、確かにピアノは下手な感じであった。
歌は証言者の部分も含めて、音楽家すごい、ちらっとインストの音楽のフレーズを歌っても録音の時のピッチとあってる!(絶対音感ってやつか)と思った。(つまらないところで感動。でも素人が音取らないで歌うとピッチ合わないことが多いんだよね)
それにしても当時の映画の予算と時間というのもあると思う。オーケストラにコーラス隊、豪華なソリストたち、ばかデカいスタジオなど予算の掛け方がすごい。時代だよなぁ。時代がモリコーネの才能とシンクロしたんだろう。
トランペッターになったのは、最初にお父さんにもらった楽器がトランペットだったから。そして彼の才能を見抜いた先生から作曲を勧められ、作曲の道に進む。
映画監督になった同級生(『荒野の用心棒』など手がけたレオーネ監督)に偶然出会い、そこから二人の強烈なタッグが始まる。
あぁいう重厚なイタリアのギャングやカウボーイ映画とか、流血や暴力すごいから、私見ないし…とか思ってたけど、見たくないし。でも『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』はみようかなと思った。音楽もいいしねぇ〜。「デボラのテーマ」すばらしい。
この映画のエピソードがすごい。あの映画では音楽がある程度先にできていて、デ・ニーロたちは音楽を聴きながら演じたんだって。それってすごくないか!? で、実際、そうやって撮影している貴重なシーンも登場する! これは、すごい。
基本的には子供のころから時系列で見せてくれるから、彼のことをよく知らない人でもとにかくわかりやすい。「シネマ・パラダイス」って、こんなにキャリアの後半も後半だったんだ!とか。なかなか出てこないので、ヤキモキしちゃった。
あとキューブリックの『時計じかけのオレンジ』の音楽をできなかったことが最大の後悔だそうっだ(レオーネ監督がこのオファーをやっかんで、妨害したという説があり)
それにしても『ワンス〜』はともかく、巨匠とはいえど基本は監督からの発注仕事なわけで、候補曲を何個か提出して、一番出来が悪いのが選ばれるとがっかりする…とか、そういうエピソードにも爆笑。巨匠でもそういうことあるんだ!
あと監督にNGだされて、何度も何度も提出し、最後は投げるように楽譜を提出した…で、それが大喜びされた、とイタズラっぽく笑うんだよ、これがすごくいい。
巨匠といえど、映画のスタッフの一人で、やっぱり監督や他のスタッフに喜ばれるのが一番リアルに嬉しいみたいだった。
『荒野の用心棒』の音楽とか、まるで効果音みたいに聞こえたりクラシックではありえない演奏なんだけど、当時はいわゆる現代音楽などとか、ちょっと小難しい音楽が出てきた時期でもあったらしく(あっ、そうかーと妙に納得)。すごいよね。従来のクラッシック音楽と、ユニークな楽器の使い方。
そうそう巨匠が「メロディは嫌いだ」とか言っちゃうシーン。あそこも良かったなぁ。「ちょっと美しいメロディに対するアンビバレントな気持ちもあったのかも」とドキュメンタリーの証言者出の誰か(誰だったかは失念)が分析してたけど、それはそれでちょっと面白い。
モリコーネの恩師ペトラッシはゆわる現代音楽の巨匠で、映画音楽みたいな大衆のための商業音楽のことを馬鹿にしていた。だからモリコーネの最初のころの映画音楽のクレジットは偽名だったりするんだ。誰にもこの仕事をしていることを知られたくなかった。すごいよね…
でも最終的には師もモリコーネの功績を認め、コンサートに毎度来てくれて、師弟関係は最後まで続いたんだって。
そうそう「シネマ・パラダイス」の音楽は、最初断ったものの、まぁ脚本を読めと言われて勧められ、読んだら書く気になったのだそう。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督は、まだペーペーの新人監督。いっぽうのマエストロはすでに大巨匠で、監督はとても緊張したとか。(でもこの二人はのちに大親友となり、この監督がこのドキュメンタリーを撮っているわけだ)
一方で依頼された『エンドレス・ラブ』の音楽はあのダイアナ・ロスの主題歌が入ってきたことで、いったん提出した自分のスコアを取り下げたという。モリコーネは自分の音楽世界に誰か他の音楽が入ってくるのを極端に嫌らった。
でも、ええっっ? それって日向さんが、小田和正の主題歌とまざるのがいやだから「東京ラブストーリー」のスコアやりません!ってこと? えええっっ!?(笑)すごすぎないか?
『海の上のピアニスト』で「主人公に映画の世界を出ていくか迷う自分自身を投影させてた」とかいう部分もグッときた。
ちなみにこの『海の上のピアニスト』は偶然昨年の忘年会で友人に勧められ、お正月に配信でチェックしていたので、この部分の意味がよくわかったよ! 偶然だけど、この映画を勧めてくれてありがとう、Oちゃん!
そして、こんなにすごい音楽を書いているのに、アカデミーを全然取れなくて、毎回受賞を逃し、ほとんど規制曲を使った映画の音楽が取ったりとか理不尽なことがたくさんありがながら最後は「もう、どうでもいい」みたいな達観した態度がめっちゃ格好よかった。
最終的には功労章的なものを2007年にゲットし、その後2016年作曲賞を無事ゲット。アカデミーは、作曲賞の受賞がこんなに遅くなったことをモリコーネに謝罪したという。
そして最後はこれでもかの巨匠絶賛の各界のみなさんのコメントの嵐。ちょっとこの辺は『シネマ・パラダイス』の映画の演出過多な感じによく似ている(笑)。でもこれは泣かずにはおれない演出。くうっっーーーっっ! 十分巨匠の素晴らしさを味あわせてくれる。
モリコーネは、たいへんな愛妻家で、できた音楽はすべて監督ではなく奥さんにまず聞かせるのだそうだ。その奥さんはいっさいこのドキュメンタリーのインタビューには登場しない。これまたとっても素敵すぎる。
一方で彼のことを称賛するミュージシャン、映画人の登場のなんと多いことか! 特にメセニー先輩が登場したのが嬉しかった。そうそう、ファドのドゥルス・ポンテスも。
それにしても「引退をほのめかしながらも」最後の最後まで映画の仕事してたってのも、すごい。私も最近は引退をほのめかしているけれど、ただの凡人だから、それ無理っ無理! 絶対に仕事はきっぱり辞めるーーー(雄叫び)
そんなことはさておき。いやー、本当に素晴らしかった。クレジットを見るとGAGAさんは配給だけじゃなくて、この映画に出資もしてるの? いや、素晴らしい。素晴らしい映画だった。映画愛に溢れてるよ。この監督、モリコーネのことを心から賞賛してるよ。観る人も全員そうだと思う。
ちなみにモリコーネはこの監督じゃないとドキュメンタリーは撮らせないとプロデューサーたちに宣言したそうだ。
御大は91歳で、2020年になくなっているのだけど、そういう終わりは含まれず、御大が死んだことを感じさせずこのドキュメンタリーは終わる。それもまたいい。映画と一緒に巨匠も永遠にずっと生きている。
そうそう、この映画を見終わったあと、エレベーターで一緒になった英語をしゃべる外国人さんたちが「Too much talking」「I wanted to listen to more music」とか言ってたけど、彼らは字幕が読めずイタリア語が理解できなかったのだろうか。ちょっとかわいそうだった。
それにしても「シネマ・パラダイス」。このヨーヨーマとクリス・ボッティのこのヴァージョン、大好きなんだよね。