楽しい店長業務 本を売ること 『北とぴあ音楽と本祭 Vol. 1 親愛なるレニー』に向けて


こちらはある日の渋谷ヒカリエ8階ケルト書店

ここにも何度か書いているが、THE MUSIC PLANTは、今流行りの(笑)棚本屋に2店舗出店している。ま、簡単に言えば「本屋ごっこ」。自分の読んだ中古の本や、友達の出した書籍などを販売。これがなかなか楽しい。

とはいえ、棚代は渋谷が毎月約5,000円、神保町が約6,000円くらい。高い遊びだ。「棚本屋」も世間の話題にはなってはいるものの、実際本が売れているかというと非常に大きな問題である。結局のところなんのことはない、本屋の家賃のリスクを表現したいバカな連中に分散させて、場所を持っている者だけが儲けるという仕組みなのだ。本が売れないという圧倒的な事実はここでも変わらない。

儲かるのは場所=不動産を持っている場所のオーナーだけというのが実情だ。

結局家賃というリスクを「表現したい素人たち」に分散して負担させ、言い出しっぺが安定の不動産収入を得ているという構図。

が、それが誰に迷惑もかけておらず、独禁法に抵触するわけでもなく、双方の利害が一致すれば、これがビジネスというもんなんだろう。私もそういう意味では「いいカモ」ではある。

いずれにしても日本においては、どんなビジネスでも不動産を持っている方が有利なのだ。ま、いわゆるチケット・ノルマのあるライブハウスと一緒だ。それについて、この世の中の仕組みを変えるのは、自分にはあまりに話が大きすぎてどうにもならないので、それについては文句を言うだけにとどめておく(笑)

そして自分はひたすら自分の土俵で戦うのみだ。なんとかこの状況で、せめて収支とんとんにならんものかと思う。

とりあえず2年はやってみようと思ったのだが、最初の1年はほぼ何もなく終わってしまい(年寄りになると本当に時間のすぎるのが早すぎるのだ!)、今、やっとあれやこれや試行錯誤を始めたところだ。

そうこうしている間にも年間12万が自分のお財布から出て行く。それは趣味と呼ぶにはあまりにも高い趣味ではないだろうか。

とはいえ、神保町の本屋と、渋谷の本屋と2ヶ所借りているのだが、最初から2箇所借りるというのは我ながら良いアイディアだった。1ヶ所だとどうしても視野が狭くなる。複数借りれば、いろいろ比較できるし、双方に対しても「あっちの本屋は…」とか偉そうな立場で物を言うこともできる。

両方の本屋、見事に客層から売れ方から、まるで違うのが本当に面白い。

なので、それぞれの店の店長業務について、ここに情報…というか、あくまで私の個人的感想なのだがまとめておくことにした。これから棚本屋に挑戦してみようという人の参考になれば嬉しい。

棚主は、棚を持つだけではなく、好きな時に店に来て、「店長業務」に関わることができる。基本的には店番だ。

先日も渋谷の本屋で店長業務をすれば、棚本屋をやってみたいという人たちが次々とお店にあらわれる。新しいカモたち??(笑)

棚主候補がゾロゾロくるのは、神保町の店でも一緒だ。そして本を買ってくれるのは、そういう棚本屋のオーナーや候補者だったりもする。

とにかく店長業務をやっていると、神保町の方は一応本を買いにくる目的のお客さんが、常に数名、店の中にいる状態ではある。さすが「すずらん通り」だ。

平日でもたいしたものだが、週末はもっとすごい。土曜日が一番すごいらしいのだが、土曜日は店長業務も人気で、シフトをゲットするのが大変だ。おそらく誰かが独占しているものと思われる。これはこれでどうしたものかと疑問に思うが、まぁ、しょうがないよね。

しかし良いのは平日入ったとしてもチラシは間違いなくかなりの数配布できるし、説明して推すと実際に自分が推している本が売れたりする。それは非常に嬉しい。特にお客さんは熱心に私の説明を聞いてくれたりする。嬉しい! 接客業、楽しい!(笑)

そういや、野崎さんはコンサート会場であって話しかけても愛想が悪いとよく言われるが、私だって接客だけやってりゃいい立場であれば、楽しく接客するんですよ。

ほんと、お客さんに「ここに今日は1日いますから、ここにくれば私も時間がありますよ」と言ったところで、それに合わせて来てくれる人は滅多にいない。ま、それはしょうがない。

でも申し訳ないがコンサート会場の場では私はプロデューサーなので、接客だけやっているわけにはいかないんですよ。その点は、本当にご理解を求めたいと思います。ぺこり。

なんで私と話したい人はコンサート会場ではなく、本屋に来てください(と、なんか偉そう。すみません)

一方の渋谷ヒカリエの本屋は、平日は基本努力しないと誰もこない。というか、そもそも店を開けるのも棚主の役目なので、今や平日は閉まっていることも多い。

こんなに棚主の数がいるはずだし、そもそも三ヶ月に一度は棚主やらなくちゃいけない条件なのに、ほとんどの人がサボりがちだ。

これについては、なんかの罰則を与えてもいいと思うのだけど(棚代を上げるとか)、棚主とはいえ家賃を払っているクライアントみたいな存在だから、運営主も強くは言えない立場なんだろうと推測する。

で、平日無理をして店主をしてみても、お客は自分が呼ばないとこない。となると、みんなはやる気を失う。これについては、棚本屋の運営主はやり方を考えないと行けないよな、と思う。

でも渋谷の店は、編み物とかしながら考えしたり、ひとりブレストやるには最高な場所なので、これはこれで悪くないとは自分では思っている。まぁ、でもほんとに誰もこないんだよね。他のブースで誰かイベントやってりゃ別なんだけど、それがないかぎり本当に誰も来ない(笑)。

サラリーマンの人が仕事が終わる18時ごろ、お店もしまってしまうから、まぁそもそもヒカリエの八階に平日の12時〜18時に来ること自体に無理がある。

一方、週末はそれなりに結構な数の人が来る。が、これが売れるかというと難しい。1日の売り上げはそれでもそれなりにあるが、ひっきりなしに忙しいということでもない。

平台に自分の推し本を並べてみるが、あまり興味を持たれない。人は来るのだが、本が目的ではない。だいたいが単に「ここ、なんだろ」「(今流行りの棚)本屋かぁ〜」くらいの感じでお店に入ってくるお客ばかりだ。

まぁ、そんなんだから、時間に余裕がない人は店長なんかできないわな。

それにしてもヒカリエは謎の客層だ。若い子が多いが、その子たちがなぜこの本を読むんだろうというものばかりが売れていく。棚主の友人みたいな人が友達である棚主の本を買っているパターンが多いのかな。でも私が置いてる、割と最近のノンフィクションみたいなものも知らない間に売れたりする。本当に不思議だ。

一方で、先日は地方から来たらしい女の子が「なんちゃら(ビジネス書の類い)を探してるんです」とか言って本屋に駆け込んできた。

「この辺、本屋であるところないですかね」「スクランブルの本屋にも行ったけど、カフェみたいで…」とかいうから、渋谷は本屋不毛の地なんだよと率直に説明してあげた。

そういう本を確実に手にいれたいのならアマゾン、あとは丸の内の丸善あたりに行くしかない。あそこなら、とりあえず何でもある。というのも、彼女は地方からやってきていて、これから東京駅経由で帰宅する、といっていたから、そこを教えた。

しかしこの若い彼女の物事のググり方、間違えてるでしょと同時にその子の将来が心配になったのも事実。本を読もうとする態度は立派なのかもしれないし、その対象も本も内容は忘れちゃったが高尚なお勉強本だったが、そもそもググり方が大きく間違っている。

が、まぁ、余計なことは言わず、ニコニコと丸善を紹介してあげた。彼女はそのあと本当に丸善にいって本を買ったのだろうか。無事に本が買えているといいなぁ。

そもそも彼女の住んでいるエリアに、そういった本を在庫している本屋があるとは思えない。

一方で、神保町では例えばレニー本の紹介するとバーンスタインはおろか札幌のPMFにも行ったことあります、みたいな強者にも出くわす。その人が本を買ってくれればいいのだけど、それは簡単ではない。

それにしてもみんな感動できる本を探しているんだなぁ、としみじみ思う。だから、この本は感動ですよ、すごくいいですよ、と推すと、結構な確率でみんな本を買ってくれる。

ある日、本を大量に買った人に「重いですよね、大丈夫ですか?」と声をかけたら、とあるお客さんは「この重みも愛おしいんです」なんて言ってくれた。いい。

あと「ケルト」について、なんとなく興味がある、みたいなお客さんは、両方の店舗に多い。いったい何人に「ケルト」とか「アイルランド」とか説明しただろうか。先日のブログにも買いたけど、ジョイスすらろくすっぽ読んでない私が!(笑)

が、それだけで本を買ってもらえるほど世の中は甘くない。散々人に説明させて何も買わずに帰って行くお客は、バブルの時によくいた情報をたくさん人から取り上げ、何も仕事をまわさないで去って行く代理店のおじさんによく似ている。

ま、そんなのはもう20年くらい前に慣れました。プロモーショントーク聞いてもらえるだけで、ありがたいんですよ(笑)

そして、どちらの本屋にもあるのがインバウンドさんの存在だ。これが英語の本を買うというわけではないのも興味深い。インバウンドさんには、日本で日本語の本を買いたい人が多い。

私もこれはよくやることなので、気持ちは非常によくわかる。例えばムラカミ、例えばミシマ。もう本は自分の言語で読んでるから内容は読まなくてもわかる。ただ元の言語で書かれたフィジカルな何かが欲しいんだよ、と。うちにはエストニア語で書かれたオスカー・ワイルドがある。そんなもんだ。

あとびっくりしたのが、特に神保町。いわゆる「覆面本」が意外に売れる! いったい覆面本なんかどうして買うんだろうか?と私は思うのだけど、そんなこと言っている私が古いのか。とにかく中に何が入っているかわからないが、可愛くラッピングされて「感動できる」とか書かれた本が、700円くらいで結構売れていた。

あと、カップルでの入店が多いのも驚愕だ。恋人と一緒、いや友人と一緒でなんか、本屋は絶対に行きたくない。間違いなく喧嘩になる。そして、どのカップルも二人とも同等に本に興味がある場合はなく、一人が熱心に本棚を見ていて、一人はつまらなそうにしている…という様子を見て、意地悪・黒のざきは、ひそかにニヤニヤしてしまう。

あと親子連れ。あれはいいよねぇ〜。パパが娘の選んだ絵本を精算してあげる。そんな風景は条件抜きに素敵だ。

あ、そうそう、渋谷の方の本屋にある秘密基地みたいな読書スペース(2箇所あり)はお子さんに特に人気がある。よく男の子が絵本を持って籠ったりしているのをみると、未来は明るいなぁと思える。ヒカリエの本屋のおこもり読書スペース、マジでいいですよ。大人の方も歓迎です。

と、ここまで結構赤裸々に書いた。それぞれの棚本屋の運営主がここを読むかもしれないが、私は面と向かって相手に言えないことは、ここにも書かない。なので、彼らが読んであれこれ考えてくれることを希望するけど、果たしてどうかな…。

というわけで、まぁ、まだまだ本屋業務は続きます。棚主本屋やってみたいと言う人は、相談にのりますよ。ただ言いたいことは、簡単には物は売れないし、何かを売って商売をするということは甘くはないよ、ということなのだ。

ただ自分の表現の場が、渋谷と神保町にあるということは、それだけで結構夢がある。時々店長業務も悪くない。

ま、そんな本屋業務の延長で、7月6日に毎度の北とぴあでこんなイベントをやる。ぜひぜひご来場ください。本と音楽愛にあふれるイベントにしたいと思っています。







THE MUSIC PLANT初の「本」のイベント。北とぴあ音楽と本祭 第1弾は『親愛なるレニー バーンスタインと戦後日本の物語』著者の吉原真里さんの講演、広上淳一先生との対談、若手ミュージシャンによるミニコンサートの他に、ホワイエには音楽の本が大集合。http://www.mplant.com/lenny


スコットランドのトリオLAUが10月再来日。詳細はこちら。http://www.mplant.com/lau/

今年は春のケルト市はありません。秋のケルト市は豊洲にて10月に行う予定。7月1日発表。


THE MUSIC PLANTでは本屋も運営しております(神保町&渋谷)。よかったらのぞいてくださいね。時々店長業務もやってます。http://www.mplant.com/index.html#book


THE MUSIC PLANTではアイルランド音楽名盤ガイドをリリースしております。第1弾 Paul Brady、第2弾 Mary Black、そして第3弾は10月発売。すでに制作が始まっております。www.mplant.com/books/


THE MUSIC PLANTCDショップですが、そろそろ店じまい予定。在庫は限られておりますので、お早めに。http://www.mplant.com/shop.html