映画『蒸発』を見ました

 


映画『蒸発』を見てきた。前に予告を見て、すごく気になっていたドキュメンタリー。

そしたら、なんと英語のタイトルは『INTO THIN AIR』ではないですか!?(笑) おやっっと、このタイトルが引っかかったのは、これクラカワーの大好きな大大大名作『空へ エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか』と同じタイトルだから。

ま、でもそれはさておき。『蒸発』だ。いわゆる消えてしまう人々。日本ではなんと年間8万人が失踪し、そのほとんどは戻ってくるのだけれど、そのうち数千人は本当に消えてしまうのだという。

蒸発… 気持ちはわからないでもない。私も思う時がある。「消えてしまいたい」と。

何人か登場人物がいて、その人たちを追いかけていくわけだけど、中心になっているのは、「夜逃げ屋」の広田さん(仮名)という女性だと私は思った。彼女のインタビューはパンフレットにも掲載されているが、元DV被害者だという彼女の言葉には本当に重みがあった。

映画は彼女が女性からのDVを逃げて飛び出す男性の補助をしているところから、とてもスリリングにスタートする。

最初からグッと引き込まれる。いったいこれはどういうことなのだろう、と。(ちなみに広田さんによると、今やドメスティックヴァイオレンスは男女半々なのだそうです…怖い)

あと職場のハラスメントや、親の過保護から逃げてきたというカップル… これもなんか…。特に、めちゃくちゃ真面目な彼女。ちょっと心配になった。

こんなふうに真面目に働いている人が、幸せでいられる社会でなくてはいけないのに、彼女は身を隠しホテルで住み込みで働いている。友達もいない彼女の世界は、一緒に逃げてきた彼氏だけだ。こんなんで大丈夫なのか。愛する人と一緒だったら、幸せということでいいんだろうか?

たとえ自分一人で生きていたとしても、接触している世界は複数あった方がいい。家庭と職場だけ…しかも彼女の場合、それはたったひとつ。こんな状態では、実はとても危険なのではないか…とついつい心配してしまう。

しかし、なぁ…と思う。

自分にも「蒸発」願望がないではないよな、とは思う。全ての責任を放棄して、新しく生き直したい、と。だって死ぬのは、やっぱり良くないし。

なので、探している人、探されたくない人など登場人物、全員に同情するところはあるものの、本当に考えてしまった。みんな幸せであってほしい。でもそれは難しい。

この映画は特に結論めいたことを言っているのではない。ただ淡々と起こったことをドキュメントしているだけだ。

そして! 実はこの映画に、私がいまいち入り込めなかった大きなポイントがあるんだよね。それはAIによる表情の画像だ。

冒頭にこれらはAIだと案内が出たせいか、実は映画を見ている間中、ずっとそのことが気になってしまった。

映画の内容が内容だけに、登場人物の秘匿は重要なポイントだ。AIで作られた表情はかなり良くできてはいるが、やっぱりAIだと思わせる。それがついつい気になって仕方がない。

ではAIではなく、すべてボカシでやったら、また違った印章になるのだろうか。わからない。でも映画を観ながら、AIで作られた表情に入り込めない自分がいたのは事実。

AIがチープだとは言わないよ。実際、驚くほど良くできている。この映画を観たみなさんの感想を聞きたい。ちなみに平日昼間のユーロスペースはほぼ満員のパンパン状態でした。

あとパンフレットもすごくいいので、ぜひ購入してみて。特に武田砂鉄さんのエッセイが、すごく良い。

本当に私たちは混沌とした社会を、それぞれで歩いている。隣の人がどんな事情をかかえているのか知らずに。見ようとしなければ、見なくて済んでしまう、そんな日々。エッセイ、本当に素晴らしいので、ぜひ。


   

◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろすことにしました。公式サイトは近日中にアーカイブ化する予定。自分の主催公演や招聘はもうやりません。ただ2026年も若干の雇われ・お手伝い案件(笑)があるので、そちらはゆっくりとこなしていく予定です。

◎現在リリースしたCDの販売は終了しておりますが、書籍はあいかわらず販売しております。アイルランド名盤ガイド。楽曲への配信のリンク(Spotify)や、来日時のインタビュー、エッセイなど充実の内容。ポール・ブレイディ、メアリー・ブラック、マーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの3冊です。こちらへどうぞ。

◎神保町すずらん通りのパサージュにてケルト書房という棚を運営しております。ケルト関係の書籍や友人の書籍などを販売中。こちらへどうぞ。


◎パンデミック後くらいから作曲家:日向敏文さんのお手伝いしております。昨年の6月25日に新作「the Dark Night Rhapsodies」がリリースされました。こちらが特設ページ(Sony Music Labels)。アナログ盤と、ピアノ小品集の楽譜は日向さんのサイトで通販中


◎その日向さんは、91年の大ヒットドラマ『東京ラブ・ストーリー』のサントラを手掛けていたわけですが、そちらが35周年記念のリイシューされることになりました。詳細はこちら。 最新インタビューをotonanoにて連載中! 

さらに今まで配信されていなかった『アナザー・グラフィティ』『妹よ』『陽のあたる場所』『愛という名のもとに』『ええにょぼ』も3月25日より配信スタートしております