映画『急に具合が悪くなる』を観ました


試写で拝見させていただきました。ありがとうございます。

映画化されると聞いて、飛び上がるほど嬉しかった作品。原作はとにかく大好きな一冊。「奇跡の一冊とはこういう本をいうのだ!!」と思うくらい大好き。感想はここに載せてあるのだけど、本を読んだはいいけど感激しすぎちゃってて、全然感想がまとまっていない(笑)。

とにかく世界とはそういうところだ、そこをこうやって生きていくしかないのだ、という、そういう本。でも、そこに働きかけ能動的に生きていこうと、明るい希望と力をくれるすごい本。

ステージ4の癌で「急に具合が悪くなる」かもしれないという哲学者の宮野真生子さんと、言語学者の磯野真穂さんの魂の書簡交換集なのでした。まったくもってすごい。それしか言葉が出てこないけど、一人では絶対に書き得ない、ものすごいパワーをこの本は持っている。

本の内容については、ここを読んでいただくとして、映画についての感想を書いてみたいと思います。

まず濱口竜介監督の作品については、私は実は『ドライブ・マイ・カー』を観たのみというバカものでした。でも、時々ここにも書いているように、基本日本人の監督の映画、全然観ないのよね、わたし。

しかも『ドライブ〜』は、観た感想をブログに書いているのだけど、なんだかあまりはっきりしない感想になってる。正直、ちゃんと濱口監督の世界を掴みきれていない。

今、思い返しても、あの映画は悪くなかったと思うけど、とはいえ正直に言うと、「長い」という感想以外は持っていなかった。それでもあの作品が持つパワーはなんとなく掴み取ったように感じてはいたけれど。まぁ、村上春樹苦手だからな、私。しょうがないか…。

で、それに続く本作ですよ。なにせ大好きな本が「映画」になる、という。でも原作は往復書簡。それがいったいどうしたら「お話」になるのか?

まず3時間16分ということが話題になっていてビビったのは、正直なところ。私は普段からここに書いているとおり長い映画が苦手だ。映画は90分が最適だといつも思っている。

そもそも集中力が続かないし、すぐトイレに行きたいって思ってしまうし、「トイレに行きたくなるかも」と思うと映画に集中できない。っていうか、人間の集中力はベートーヴェンの時代から73分(あれ、74分だっけ?)と決まっているのだ!

今回の試写会では、上映前に配給会社のお姉さんが「急に具合が悪くなるといけませんから、お手洗い行きたい方は大丈夫ですから」と声をかけてくれて、ちょっとホッ。会場からも笑いが起こって空気が和んだ。ありがとう、お姉さん。

とはいえ…  とはいえですよ、実際、この映画のうち、途中数分見逃しても、ストーリーは全然追えるとは思う。そのくらい、妙にゆったりとした作品だ。

でも、それはつまらないということでは全然ない。実際、まったく飽きずに、私の集中力も途絶えず、映画は時間を感じさせずに終わった。

というか、とにかく二人のセリフで、「あ、これは本にあった」というのが出てくるだけで、もうボロボロに泣けてくるわけで、あの本が大好きな自分としては、本当にやばかった。だいたい映画の半分以上は泣きながら見ていた。

もっとも、頭の方で演劇シーンが出てきた時は『ドライブ・マイ・カー』も演劇が舞台の作品だったので「またか」と思わないでもなかったけど、長塚京三さんの圧倒感と、自閉症だという孫を演じた黒崎煌代さんがこれまた素晴らしく、自然と映画の世界に入ってしまった。

そして上演後のQ&Aの部分で、二人が改めて再会したところから、もう涙が出てきた。

なんだろう、もうとにかく本のスピリットは間違いなくこの映画の中に生きていて、そこに感激しているうちに終わってしまった、と言っていいかもしれない。

二人の主演女優さんの日本語とフランス語が「ちゃんぽん」な会話は、最初ちょっと違和感あったけど、どんどん馴染んできてすごく良かった。確かにある程度、二カ国語が自由にストレスなく話せる友人同士って、実際こういう「ちゃんぽん」になりがちだよね…。

そして私にとっては外国=フランスとの共同制作ってのも良かった要素かも。是枝監督の『真実』も、最高に好きな作品(カトリーヌ・ドヌーブは本当にコメディがよく似合う!)だけど、最近の『レンタル・ファミリー』とか、海外資本が入っていた方が、日本は絶対に強くなれる。

とか、言っちゃうと問題かしら。でも少なくとも私にとってはそういった作品の方が、心地よかったかもしれない。いや、それも偏見か。ま、でもそんなことはどうでもいいや。

とにかくこの二人をずっとずっと見ていたくなった。もちろん原作通りのエンディングをこの映画も迎えるのだけど。

そう、私にとっては、あの映画では、あの二人をMariとは呼びたくないと思った。あれは宮野さんと磯野さんだ。

それにしても女優さん二人が素晴らしい。なんていうんだろ、あの二人、演技がすごいとかそういうんじゃないんだよね。ただただセリフを言う時の感じが…  いや、私はあの本に特別に思い入れているから、単にそれだけなのかもしれないけど…

 でもとにかく会話がすごく良かった。二人の間に走る空気というか、電流というか、そういうものが、とにかく良かった。

最後の方になると映画特有の伏線回収みたいな部分もあり、それが「映画としての見応え」をしっかり作っていた。そして、それはこの本を含む、すべての要素を、監督が何年もかけて勉強し、自分のものにしていった結果だと思う。

それはそれで原作本にはない強いものがあって、なんというか、この監督すごいな、と思った。いや、大監督に、お前、なんで上から目線よ、と自分に突っ込みたくなるけど(笑)、すごいとしか言葉が出ない。

監督も監督なりの『急に具合が悪くなる』を生きている、ってことなのかも。それはとにかく出演者すべてに言えることで、かつ観ているこっちもあの本のことを考えてばかりいるから、ただただひたすらこの本の世界に浸ることができた。そこがすごい。

私は映画を見ながら、ずっと心の中で「宮野さーん」「磯野さーん」とずっと二人の名前を泣きながら呼んでいた。

とにかく全てにあの本の存在が大きくあって、それがいいと思った。そういやクレア・キーガンの本もそうだったもんね。映画の出演者全員があの本はすごい、すごいってみんな絶賛してた。本に対する尊敬がすごかった。そこが原作がある映画が良くなる要なんだろうなと思う。

昔は原作好きな映画は良かったためしがなかったけど… そういう時代はもしかしたら終わったのかもしれない。

本当にあの本の持つパワーはすごい。結局私の場合はそこに行き着く。どこへ行ってもそこに戻ってくるんだなと思った。

監督がプロデューサーの松田広子さんから本を渡されたのは、かなり前の話だったそうで、そして、この往復書簡をいったい映画化どうやったらいいのだろうと大変悩まれたことが、試写会場で渡されたプレス資料に書かれていた。

実際、最初は朗読劇にしてみようかと考えたこともあったのだそうだ。でもこの本は映画になった。映画というアートフォームを、この本は選んだ。そういうことだ。

以下、監督の言葉。

「(この本の映画化は可能なんだろうかと悩んだ)それでも『ドライブ・マイ・カー(21)』以降に私がいただいた企画提案のなかでも、ただ『急に具合が悪くなる』だけが私を突き動かす何かをもっているように思えました」

「これほど「どうやって映画にしたらよいかわからない」にもかかわらず、これ以外には「映画にしよう」と思うものもないのだから、その現実に従うのがよいだろう、と考えました」

そうこうしているうちにフランスの会社から一緒にやろうというオファーがあった、と。そして、もうここで泣けちゃうんだけど、原作者の磯野さんからの要望。

それもたった一つの要望は「主人公二人の背景には哲学・文化人類学を入れてほしい」と。そう言って磯野さんはこの原作を映画チームに全面的な信頼とともに手渡したのだという。

磯野さんーーーーー 磯野さん(すでに資料を読んで涙、涙、涙!!)

監督曰く「それは、磯野さんがほとんどたった一つ我々に出された要望であって、おそらくはそれが単なる職業である以上に、二人がこのようなやり取りをするうえでの不可欠な条件であったからです」

…と。

うーん、すごくないですか?

「そして前から気になっていた「ユマニチュード」、そして『悪は存在しない』(私は未見・2023年)を経て、自分の中で『ドライブ・マイ・カー』との距離もでき、演劇を再度扱う事にも躊躇がなくなってきました」

そして二人の主演女優さんは、真理役の岡本多緒さんがいち早く決定し、ヴィルジニー・エフィラさんのポジションは、なんとクランクインの三ヶ月前まで決まっていなかったのだそう。すごいよね! 

いや、ほんとすごい。多緒さんは一年以上この脚本を読み込み、一方のヴィルジニーさんはなんと三ヶ月でこの脚本をものにした。

それにしても作品って、こういうことなんだな、と。出会いってこういうことなんだな、と。この映画ができた過程が、もうすでに『急に具合が悪くなる』っぽいのだ。

監督、すごい。志が高いというと変かな。でも自分が気になっている「ユマニチュードという介護療法」「バザーリア」みたいなこともどんどん作品に入れて表現していく。

そして、とにかくそこにあるすべて…演劇や、足モミモミや、痴呆の症状が持つ患者さん、看護師の葛藤や、精神病院のこととか、とにかくすべてがきちんと映画として回収されていったのがすごいと思った。うーん、すごいなぁ!!!

というわけで、この映画は6月19日公開。本が好きな人たち、この本に思い入れている人たち、安心してください。大丈夫。この映画、あの本が好きな人には、たまらない作品だと思います。

とにかく宮野さんと磯野さんが、明らかにそこにいるって感じがした。

私はずっと映画を見ながら、お二人の名前を呼んでいた。

でもこれはこれで、ひとつ新しい疑問が浮かぶ。いったいこの映画、本を読んでない人が見たら、どういうふうに感じるんだろう、と。そして映画を先に見た人が本を読んだら、どうなるんだろう…とも。ぜひ映画を先に見た人の本に対する感想も聞いてみたい。

それにしても、磯野さんの、カンヌでの気持ちを思っただけで、もう私はウルウルなのだ。すごい。人間ってすごい。世界ってすごい。出会いってすごい。(と、また本の感想に戻っていく)

宮野さん、宮野さん、磯野さん、磯野さん ))))))

これからも私はいろんな人生の曲面でお二人の名前を呼ぶことになるのだろう。

ところで、絶対に書いておきたいことがある。何がすごいってこの本を出そうと思った編集者!! 晶文社の江坂祐輔さん。本当にすごいと思う。

彼のことはこの本の中にも出てくるから、それを読んでもらうとわかるのだけど、本が完成するか分からないのに会社で企画を通して「とにかく書き続けて」と二人を励ましてくれてたそうなんです。それって、すごいと思いませんか?


いやーーー 名著の後ろに名編集者あり!! ちなみに江坂さんは数年前、わたくすが一生懸命プロモーションしていた吉原真里さんのこの本の編集者でもあります。吉原さんも、江坂さんにたくさんの勇気をもらったって言ってた。

本ってすごい! 世界ってすごい! と、このブログを書きながら、また泣いています(爆)



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