観てきた。長く気になってはいたのだが、某放送業界の大先輩が今年の映画BEST10をやっていてこの映画が選ばれていたので、それに背を押されてついに観に行った。そもそも邦画はあまり観ないので、本当に久しぶりの日本の映画だ。
『きのう何食べた?』の西島さんが主演という事で気になっていた。『きのう何食べた?』では私はどちらかというとケンジ役の内野さんのファンなのだけど、ケンジが憑依した内野さんに押されがちな西島さんもすごいと思っていた。
西島さんの芝居は、この『きのう何食べた?』のテレビと、この映画でしか知らないので、私なんぞに何が言えたことかなのだが、芝居が大きくなりがちなコメディよりは、彼にはこういう押さえた演技の方が圧倒的に似合うと思った。
あとこの劇中に出てきた舞台のシーンもすごくよくて舞台もいいかもしれない。っていうか、彼って舞台の出身だったっけ? 資料なしで書いています(笑)
っていうか、やっぱりすごい。ヒットしている役に流されず、他のキャラクターでもどんどんチャレンジしていく。すごいよね。
いつぞや水谷豊さんが、刑事役の当たり役に流されないよういろんなキャラにチャレンジしているのを見て、すごいなぁと思ったことがある。俳優でも意欲的な人って、すごい。
実は最近俳優という職業にもすごく興味があるんだ。それについて、面白い本も読んだので、また感想をここに書こうと思う。ちなみに水谷さんの芝居では、私は『男たちの旅路』の洋平役がとても好きである。
というわけで、この映画だ。
その『きのう何食べた?』の劇場版ならともかく、この映画、私が観ている範囲では宣伝をあまり見かけないし、きっと地味で映画館はガラガラだろうと思って観に行ったら、数日前に何か賞を取ったらしく席はソールド・アウト。びっくり。良かった、予約しておいて。
原作のことは知らない。村上春樹は、私はそれほど好きな作家ではない。というか、どちらかというと嫌いな方だ。ご存じのとおり、私の世代は多感な時期にみーんな村上春樹を読んでいた。友達はみんな「風の歌を聞け」を読んで、妙な暗さにまったりと浸っていた。
私も内容をよくわかりもせず「ノルウェーの森」までは全部読んでたと思う。
でも、村上春樹があまりに売れて、もう万人が読むような作家になってからは、堂々と彼の描く世界は嫌いだと結構言えるようになったと思う。なんで人が急に死んだり、実はお母さんでした…みたいな事になるんだろう。ありえんだろ、それ…
そういう私は実はファンタジーも超苦手なのだった。
いずれにしても村上春樹はランニングの本と、途中長すぎて挫折したが「遠い太鼓」以外はどうも苦手だ。ランニングの本はかなり好きだったけど…
なので、この映画を見始めてまた思った。ま〜た「セックスと死」かよ、と。確かに生きるのは辛い。相当辛い。いろんなことを背負っていかねばならない。
それでも生きていかなくちゃ的な話は映画でも本でもいくらでもあるけれど、それを伝えるのになんで毎度のごとく「セックスと死」が必要なのか、ということだ。
いや「死」は必要だな。生きていく上で「死」の概念は必要だ。でも…なんだろ。村上ワールドにはそれを嫌に美しく書いている部分がある。そこが自分の苦手とする理由かもしれない。よくわからない。
それにしても『ドライブ・マイ・カー』というタイトルがいい。このタイトルで私が最初に思い出したのは実はビートルズの曲ではなく日向敏文さんのアルバムだ。このアルバムがリリースされた当時、私は音楽関係のPRをする友人の会社に席を置いていた。
レコード会社からギャラをもらい、担当したアーティスト・作品のPRをする仕事だった。アメリカや他の国ではよくあることなのだが、レコード会社が広告などを打つよりは野崎を雇った方が宣伝効果があると認めた場合、私は雇われて、いわゆるタイアップではない露出を狙うという仕事だ。
アメリカなどではよくあるPublic Relationsの仕事だけど、日本の場合、レコ社が自社で宣伝部をかかえているのであまり外部を雇うことはない。それでも、当時アルファレコードさんに雇われて、私は日向さんの自宅スタジオに通い、取材をたくさんブッキングした。
雇ってくださったTさん、本当にお世話になりました。お元気でいらっしゃるかしら…。
日向さんは、宣伝とはいえ音楽のことを言葉で説明しても意味ないだろうくらいに思ってらしたふしがあって、正直音楽雑誌の取材よりも人物紹介系を狙った車の取材の方をより楽しまれていたようにも思う。
日向さんの知名度も手伝って、車雑誌のグラビアがたくさん取れた。車雑誌は、音楽雑誌よりも部数が多いので、宣伝としては正しかったかもしれない。
でも当時私が日向さんがタイトルにこめた「ドライブ・マイ・カー」の意味をしっかり理解してそれを媒体に、さらにはその向こうにいるであろう読者やラジオのリスナーに届けることができていたかというとはなはだ疑問が残る。
それにしてもこの映画の主人公といい、車の運転が好きな人に共通するキャラクターは絶対に存在していると思う。
車の運転をする人は自分の人生を運転するのも好きだ。ピーター・バラカンさんも「環境に悪いと分かっているけれど車の中は音楽がゆっくり聴けるので運転はやめられない」とおっしゃっていた。
私も運動神経が良かったら、きっと運転を楽しんでいただろうとも思う。(でも自分で運転したら絶対に人に迷惑かけると思うので、やっぱり運転はしない。ちなみにすでに運転免許は返納しました)
村上春樹に話題が言ってしまった。でもこの映画の舞台である(おそらく原作にはない?)地方都市でのアーティストのレジデンス・プロジェクトとかはとても興味がある世界だったし、こういう他言語で演じられる劇ってのも可能なんだ…といろいろ興味深かった。(ウチのアーティストでも何かやりたい!)
そして舞台を作っていくという流れも。
とにかく俳優のクオリティがすごかったと思う。これは間違いない。西島さんは言うまでもなく、俳優役の俳優さん(岡田将生さん)もすごく良かった。声で思い出したのだけど、私が大好きなテレ朝のドラマ『離婚なふたり』の弁護士役だった人だねー
この西島さんと岡田さんの車中での会話の掛け合いは、まさに「俳優対決!!!」という感じで、ものすごくよかった。俳優対決なシーンは映画内にいくつもあって、西島さんとドライバー役の三浦透子さんの北海道の丘でのシーンもすごく良かった。
ずいぶん長く書いてしまった。結局私はこの映画が好きなのかな。よくわからない。あ、あと3時間は長いな。長いことは長い。観ていて飽きないのは保障するが… でも長い。
こんなことをたまたま武田信治さんが本のプロモーションで言ってらして、これはナイスだよな、と思った。生きることは本当に辛い。
「上には上がいる。中には自分しかいない」っていいなぁ。 : https://t.co/jESS7P390I 「考える必要のないことは運動で飛ばせる」というのもいいね。しかしストイックに運動している人ほど精神的には危ういものがあるのかもしれない。みんな必死で生きている。
— 野崎洋子 (@mplantyoko) December 28, 2021
ところで村上春樹はおそらくまだこの映画を観ていないのだそうだ。映画の許諾だけシンプルに出して映画の内容に何も口を出さなかったと言う。かっこいいよなぁ。
そして、この映画、いかにも「セックスと死」で何かを表現するという村上ワールドMAXなので、間違いなく海外でも受けるだろうなぁ。欧米人、特に英国人、好きなんだよな、ハルキ・ムラカミ(笑)