実はこの映画、まったくノーチェックだったんだけど、町山智浩さんの解説でとても気になってた。
で、観に行ってよかった。すごく良かった。
町山解説に私はすごぶる弱い。とはいえ、正直「町山さんに騙されたよー」と何度思ったことか! だからまた騙されるかな…と疑いつつも、観に行った。
で、ものすごく良かった!
もしかしたら今年のわたくすの不動の1位『決断するとき』が2位になったかも。これだから映画は見逃せない。やばい。
面白く、笑えるのに、すごくするどくて、最後はぐっと持っていかれるパワフルな作品。『シンプル・アクシデント/偶然 It was just an accident 』
いやーー おそるべし。この監督、本当にすごい。
とはいえ、ある程度イランのことを知らないと、まったくわからない作品になってしまう危険性はある。イランは密告が蔓延し、不当な理由で収監されてしまう社会なのだということを知らないと何がなんだかわからないかもしれない。
この映画の感想をググったら、多くの人が感動したと言っている中で、「さっぱりわからなかった」という感想をひとつ見つけてしまった。でもそういう可能性はある。
だから、もしかしたらイランのことを、ある程度は知ってから見に行った方がいいかもしれない。でもそのことが、あなたがこの映画を見るハードルを上げてしまっているのなら、何でもいいからとにかく見てほしいと思う。
それにしても本作を手がけたジャファル・パナヒ監督、本当にすごい。表現の自由がない国でこんな映画作って、すごいと心から思った。実際、社会活動の禁止を宣告されたり、何度も逮捕されたり、渡航が禁止されたり、作品が上映禁止になったりしながら、それでも作品を作り続けた。
私はパナヒ監督の作品は、これ以外は実は何も見たことがないというふとどき者だが、バイオグラフィーを読んでいるだけでも、その不屈の精神に圧倒される。
出演者についてもすごい。監督は一人一人、家に彼らを呼んで話をし、この映画に参加するリスクを話しをして説得したのだそうだ。すごいよね。
だから私たちみたいな社会に住んでいる人間とは覚悟がまるで違う。そうなのだ。こういった困難は監督たちをストップするエクスキューズにはならないのだった。そこがすごい。安全圏にいて何もやらないやつも多いというのに!!!
そして本作はカンヌでパルムドールを取っている。カンヌ、やっぱりすごいな。いろんな映画の賞があり、いろんな宣伝文句に使われているのだけど、私は割と「カンヌ」で賞を取るような映画が好きだ。アカデミーとか、他のなんたら賞ではなく…
パンフレットを読めば、この作品もいかに撮影に苦労したがわかる。戦って戦って、ものすごいリスクの中、やっと出来た作品。それだけでもすごいと思う。
…と以上の作品作りに対する困難さで、この作品自体にプラスポイントを加算してしまうのはフェアではないので、あくまで作品のみを評価しようと思うのだけど
例えば最後の女性カメラマンと容疑者のやり取り、会話は圧巻だ。とにかく長回しなんだけど、監督は言いたいことをおそらく彼らのセリフに込めたね。もう息もつけなかった。
そもそも容疑者?の男を埋めようとする、あの土の渇き具合といい、本当に乾いた砂埃まみれの空気の中に存在しているこの作品だけど、ひとつひとつのセリフが、なんというか、ものすごく力強い。そしてキラキラしている。
言ってみれば、主人公はめちゃくちゃ「お人好し」だ。この俳優さん、普段演じてない時はタクシードライバーをしているのだそうだ。そんな「普通感」「どこにでもいるおっさん感」が滲み出ている、めっちゃ良い俳優さん! っていうか、こんな人が実在しているとしか思えない。
ちなみに本作品で唯一の100%のプロの俳優さんは、容疑者?を演じた俳優さんで、彼は普段は検閲を通った作品への参加を拒否している硬派な方らしい。そんなふうに自分の立場をつらぬいている俳優さんなのだ。
っていうか、なんか真剣味が違うよ。すごいよ、ほんと。
でも、この作品を見て強く感じたのは、これから書くこと。そう、我々平均的な人間は、おそらくその多くが「お人好し」なのだ、ということ。
でも、その「お人好し」が集まって、少しでもより良い社会にできたら。そう思わせてくれたものすごいpowerfulな作品だと思う。そんな夢みたいなこと言っている私も「お人好し」なのかもしれないのだが。
でも「お人好し」でいいじゃない?とも思った。それで損をしてもいいじゃない?と。極端にいえば、それで死んでもしょうがないじゃない?と。(実際、イランでは本当にそういうことで命を落とす可能性も大きい)
と、まぁ、そんな能天気なことブログに書いている私は、ものの考え方が甘いのかもしれない。でも甘くて結構と思った。だからこの登場人物たちに「いいだよ、それで」と肩を叩きたくなった。人間性を捨てるくらいなら、それで失敗して損をしても別にいいじゃないか、と。
と、書いてみたけど、この映画は、ほんとそんなことを別に声高に言っているわけではない。でもそこが、すごくいいんだ。そこがこの映画のすごいところだ。そしてめちゃくちゃリアルだ。イランという国には、行ったこともない私なのに、すごくリアルに感じた。
…とここまで書いて、そうか、そんなシリアスな映画なのね?と思う人がいるかもしれないけど、町山さんの言うように、これ、なんとコメディなんです!!(笑)信じられないでしょ。特に中盤は、めちゃくちゃ笑わせてくれた。ウェディング姿のカップルが奮闘している姿とか(笑)
最後のエンディングがすごくよくて、こういう映画の終わり方が、私は大好き。あの「音」は、彼の耳の奥に残る記憶かもしれない。単なる空耳かも? でも、もしかしたら…
絶対に見にいってください。ちょっとやられた。公式サイトはこちら。
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◎1996年からかかげてきたTHE MUSIC PLANTの看板は2025年12月にて下ろしました。公式サイトは近日中にアーカイブ化する予定。自分の主催公演や招聘はもうやりませんが、2026年も若干の雇われ・お手伝い案件があるので、そちらはゆっくりとこなしていく予定です。
◎現在リリースしたCDの販売は終了しておりますが、書籍はあいかわらず販売しております。アイルランド名盤ガイド。楽曲への配信のリンク(Spotify)や、来日時のインタビュー、エッセイなど充実の内容。ポール・ブレイディ、メアリー・ブラック、マーティン・ヘイズ&デニス・カヒルの3冊です。こちらへどうぞ。
◎神保町すずらん通りのパサージュにてケルト書房という棚を運営しております。ケルト関係の書籍や友人の書籍などを販売中。こちらへどうぞ。
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6月9日にはドーナル・ラニーのドキュメンタリーの映画上映と、ピーター・バラカンさんの解説あり(野崎は聴き役として登場予定)。予約開始はまだ先ですが、今から予定しておいてください。
◎ピーター・バラカン Presents 未来へのプレイリスト 毎週金曜日 ETVにて22:30から放送中。6月いっぱいまで続きます。



