原田マハ『たゆたえども沈まず』を読みました。これは素晴らしい。


原田マハ、現状3冊読んだわけだけど、これが一番好きだったかも。他のも、ものすごい完成度で読み進めるのが楽しかったけど、あまりにポップすぎて、ちょっと流行りのテレビ連続ドラマを見ているような感じもしていた。本作はそこに重厚感も加わり、その重さも程よく、これはかなり好きな作品だ。ゴッホと弟のテオ、日本人の画商二人の友情と交流を描いた作品。

確かに最初の物語の引っ張り度は『本日は〜』や『楽園のカンヴァス』の方が強いかもしれない。でもこれは地味にスタートするものの、全体的にもっともパワフルな作品だと私は思った。

当時の浮世絵をめぐるフランス在住の日本人の様子、そして海外で認められて国内での評価が変わってくるって、今も変わらないね、芸術への評価。

結局のところ芸術の真価なんて、誰にもわからないのかもしれない。

この本は特にゴッホの弟であるテオ、そして画商の若い方、重吉の気持ちを中心に描きながら進み、読んでいて、まるで当時の様子が浮かぶようだった。

そして芸術家と付き合うときは相手をとにかく信じること。生活能力のまったくない兄のフィンセントを必死で支える弟のテオ。それを励ます重吉。

彼は言う「正直、僕にもわからない。なぜ世間がフィンセントの絵をなかな認めようとしないのか。そして、フィンセントの絵が本当に『認められる』ものなのか。そもそも何をもって世間に『認められる』ものになるのか」

芸術とは何か、特に画商の林が語る時、それはとてつもなく重い。特にそして芸術家とは弱そうに見えて実はとても強く、芸術家と付き合っていくためには自分も強くないといけないとテオに諭す林の言葉には震えた。

「テオドルス。あなたは、もっと強くならなければいけない」

「フィンセントは、あなたよりもはるかに強い。だから、あなたはもっと強くならなければ、兄さんを支えることなど到底できはしない。ほんとうに、あなたが兄さんを世界に認めさえたいのなら… 強くなってください」

忠正は、フィンセントにも言う。

セーヌに受け入れられないのなら、セーヌに浮かぶ舟になればいい、と。

嵐になぶられ、高波が荒れ狂っても、やがて風雨が過ぎれば、いつも通りおだやかで光眩しい川面に戻る。だから、あなたは舟になって、嵐が過ぎるのを待てばいい。

たゆたえども、けっして沈まずに。そしていつか、この私をはっとさせる1枚を描き上げてください。

かっこよすぎるよ!! 私もこういう言葉を芸術家にかえてあげられるようなプロデューサーになりたいなぁ。そう画商は画家のプロデューサーなのだ。

それにしてもゴッホがアルルに向かうことになったきっかけのエピソードなどは実話なのだろうか。折鶴で表現されたこのエピソードは、ものすごくその美しい話だ。ゴッホと実際の林が交流したという記録はまるでないそうだから、ここは原田マハの創作なのだと思うのだけど、どうしたらこんな素敵な話が作れるんだろう。すごいなぁ!!

そうそう、文庫本の解説で本当に歴史上あったこととの対比が書かれているのがよかった。私なんぞは下手すると自分が納得いくまで、どこまでが裏が取れている史実で、どこまでが創作なのか、あれこれ調べてしまうからだ。この解説はとても助かった。うーん、原田マハ。ただ売れている作家ということではないね。すごいわ。

話はちょっとこの本から離れるが、ゴッホが浮世絵に影響を受けていることは彼の作品の背景に描かれた浮世絵や、日本の西洋美術館だったかな…で随分前にやったジャポニズム展で私も知っていた。またアムステルダムにメアリー・ブラックの公演を観に行ったとき、みんなでゴッホ博物館に行ったことがあるのだ。当時メアリーはツアー先に遊びに行くと空いた時間にメンバーや私を誘ってそういう地元の有名観光地に行くことがよくあった。あの時の話題は当時、ちょうどメアリーたちがアイルランドを発ったその日に明らかになったアイルランドの某音楽プロデューサーと某大物女性歌手の大スキャンダルだった。(なので、それが2003年だったことを、よく覚えている)しかもバンドのメンバーたちとゴッホって本当に貧しくて、頭もおかしくて、何度も自殺もはかり「しかも上手に死ねなくて5日間(ほんとは2日)も生死を彷徨った」「うわ、それきっつー」とかなんとかふざけた会話したのを覚えている。懐かしいそんなことも思い出された。

ところでこの本には書かれていないが、フィンセントやテオの死後、ゴッホの作品を世に出したテオの妻で義理の妹のJo(ヨー)の奮闘ぶりはここで読むことができる。(ゴッホミュージアムのHPより)




この上に貼った有名な画商の爺さんのポートレートは実は3枚あるという説もある。すごいな。でも小説にあるように、この筆遣いからフィンセントが彼を慕っていたことが窺える。そういえば、こういう映画もあった。『ゴッホ 最期の手紙』

 

こんなドキュメンタリー(BBC制作)も見つけた。他にも映画になってたりするんだねー。参考までにリンクをはっておきます。

さーて次はTwitterでフォロワーさんが教えてくれた「ゲルニカ」、そして先日このブログでの著作を紹介した木村元さんが教えてくれた「リーチ先生」が控えているので、数冊読んだあと、またマハ・ワールドに戻ることとする。いや〜、でもこの作品を超えることはできるのか。読むのが楽しみ。

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