木村元さん『音楽が本になるとき』を読みました。早くも今年のプラチナ本決定か!? 


読書ってある程度パワーを必要とするみたいで、昨年は体力不足でほとんど読めなかったのだけど、今年はバンバン読んでます。読んでも読んでも読み足りない活字中毒? また最近は情報が充実しているせいでたくさんチョイスもある。でも、まだ一生読みたいプラチナ本は今年は出ていなかったのですが、この本はもしかしたら今年のプラチナ本かもしれません。とにかく素晴らしい本でした。音楽に関わる人は絶対に読んだ方がいいと思います。とにかく美しい。美しいと言う言葉がぴったりくる一冊です。

まず言葉が美しいです。木村さんやるなぁ。著者は鈴木茂さんとともにアルテス・パブリッシングを率いる木村元さん。リアルで存じ上げている方なので多少のバイアス、贔屓目が入っているかもしれません。で、この本、美しくも難しい言葉もたくさん出てくるんだけど(読み方わからなくて漢字ずらで想像したり・笑)、言葉の選び方がとても的確で、しかも美しい。また決っして読みにくいとか難しい本というわけではない。なんというか、整理されてきちんと読んでる者の中にすとんと入ってくる。その感じがたまらないんですよね。こういう厳選された言葉で形作られている本は本当に素晴らしい。言葉をきちんと選んでゴシゴシ磨いて名作を作る、みたいなそういう感じ。

加えて、この本、内容が美しいです。数日前の私の探検本セレクションのブログを読んでくれた方、もしくは今日のこのブログを読んでくれるのであれば、私はあれこれあれこれ思考を巡らせ、答えが出しにくいことを考えるのが大好きだということがわかるでしょう。この本は、そういう気持ちを受け止めてくれる本です。もっともこの本みたいに上品な方法ではないけれど、私もこういう「音楽とは何か」とか、そういう答えが出ないことを延々と考えるのが大好きなんです。だからこういう本ならいつまでも読んでいられる。そして音楽を聞くっていったいどういうことなのか。人間はなんで音楽を聞くのか、そしてなんで生きているのか。そんなことをぐるぐる考える。そしてこの本はそれに対してある一定の答えをくれる。それこそ本を読むことの醍醐味だと思う。

たとえば「物語」と「音楽作品」を考える「音楽と物語」の章。ここで紹介される佐村河内騒動の話には本当に考えさせられました。私もあの映画『FAKE』についてはいろいろ考えたし、私の感想はここに描きましたが(この投稿、実はすごいアクセス量なんですよね。多くの人があの映画について考えた、ってことなんでしょうか)、木村さんは佐村河内の非凡さはむしろ自分の音楽を世間が聴く前に<物語>としてプロデュースしてしまったところにある、と解いていきます。うーん、するどすぎる。そしてあの森監督の映画についても、私の言いたいことを明快にここで言葉にしてくれたか!?という感じ。もう木村さんの言葉に激しく同意マックス! それにしても私の描き散らかしたブログとの違いよ…。そう、私が言いたかったのはこれなんだよー、と(笑)泣いてうなずきまくる。

とまぁ、暑苦しいかもしれないけれど、こんな風に読者は本の中に自分を発見した時にその本が好きになると言ったのは角幡唯介さんだったと思うけど…まさにそれだよね。

他にも音楽は作曲家にとっても演奏家にとっても聴衆にとっても謎の存在なのだ、ということ。その謎の前では誰もが平等であるということ。あと大好きなディーリアス本『ソング・オブ・サマー』に関する記述も。

そして「音楽との出会いはいったいどこからやってくるのか」ということも。聴く人たちと音楽との出会いは、まさに私の今の仕事と直結することだけに本当に考えさせられた。前にもここに書いたことのあるエピソード「うちの近所のスーパーマーケットでたまたまジョニ・ミッチェルが流れた」でも「何も起こらなかった」。「高島屋タイムズスクエアのHMVに営業にいく時に、エレベーターの中でヴァン・モリソンが流れた」でも「何も起こらなかった」。そういう話を書き連ねてきた。だから宣伝したい音楽があったら、それを単に分母が大きいところに流すだけではダメなんだ、と。ラジオで偶然かかっても、TVのコマーシャルで使われても、それだけではダメなんだ、ということを私は自分の仕事人生の中で嫌というほど考えさせられてきた。これを欲している人のところに届けるにはどうしたらいいのか、とそれをずっとアーティストとともに悩んできた。木村さんはそれを実に理路整然とわかりやすい言葉で説明していく。

それからライブ会場、コンサート会場での体験を書いた「皮膚感覚について」の章も必読だ。そしてスマホの画面の中では「人は自分にしか出会えない」。あぁ、するどすぎて言葉もないよ! このコロナ禍の中で感じていた疑問はそれだ。それだったのだ!

そして後書きの「音楽の道に進むことを選んだ人たち」へのメッセージ。これにはもうひたすら熱く熱くうなずくしかなかった。出会っちゃったんだよね、聞いちゃったんだよね…  あぁああああ(とため息)

さらに! ここにも書いておきたいのだが、この本、すっごく装丁が美しいです。よく私がお風呂で本を読むとか言うとアルテスのもう一人の社長である鈴木さんに「信じられない!」と呆れられるのだけど(笑)、確かにこの本はお風呂で読むのを躊躇するくらいきれいな装丁なのでした。カバーも不思議な色味で、カバーの下もとっても不思議な色味。ちょっと「和」テイストなのは、ご出身が京都だから? この素敵な出版社さんも京都の出版社さんだという。いずれにしても今度はお風呂の中ではなく、次に読む時は素敵な音楽を聴きながらお茶でもいれてからじっくり読もうと思う。巻頭にこの本用のBGMのプレイリストがついていることだし。


それにしてもこの本にありがとう、だ。今、この状況下で私たち音楽のもとで働く人間の価値観はグラグラ揺れている。いったい自分たちの存在にどんな意味があるというのだ。そういったことにも答えをくれる(かもしれない)本だと思う。その他、私の音楽とは何かという問いにある一定の答えをくれた4つのアイテムも再度ご紹介しておきましょう。

まずは映画『めぐり逢う朝 All the morning of the world』。そして本書でも取り上げられてた『ソング・オブ・サマー〜真実のディーリアス』(私の感想文はここ)。そして漫画『オルフェウスの窓』(あれは音楽が主役の物語なのです)。ロリーナ・マッケニット『パラレル・ドリームス』もおすすめ。これからもこういう物語に出会いながら、音楽って何か考えていきたい。木村さん、素晴らしい作品をありがとう! 続編を熱く期待してます!


PS

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