松山バレエ団『新・白鳥の湖』@ 北とぴあを観てきました


実はコンサートや公演に行ってもあまりここにレポートを書くことはしていない。というのも、だいたい人の作ったコンサートや公演に行く時は何かの調査だったり未来の仕事ネタが多かったりするので、そのネタばれになるといけないからだ。だが、ネタばれにならない、基本的に仕事とはかけ離れた公演のことなら、自由に書ける。

というわけで、久しぶりにバレエの公演に行ってきましたので、そのことを書きます。北とぴあに松山バレエ団が来てなんと森下洋子さんがまだ主役を演じていられるという。森下さんといえば、私が子供のころから「そんな歳でまだ踊っているんだ」と思った。そこから30年くらいたっている。なんと御歳72歳。これは見に行かねば、というわけで行ってきました。実は森下さんを生で見るのは初めて。バレエの公演は、しかし子供のころにはよく行った。本当にひさしぶり。

で、コンサート作っていると忘れちゃうんだけど、お客さんが望んでいるのは「非日常」なんだよね、ということを改めて。いやー これを観ることで、確かに遠く遠くはるか遠くまで連れて行ってもらいましたよ、『白鳥の湖』。まったく別の世界でした。

まずステージを見てびっくりしたのは、人間がおっきい。以前みたバレエ公演は、どうやらどれも相当大きな劇場だったらしく、ステージの横幅奥行に比べて人間はもっとうんと小さかった。今回は北とぴあのさくらホールのステージで、見た目にまず人間でっか!と思ったのでした。つまりはこういう1,000人規模の劇場で『白鳥の湖』が上演されるのは珍しい事なのかもしれない。(よく知らないけど…)

小さいといっても一応大ホールなので「そっかー、こんなに奥行きあったか」というくらいスクリーンが多数使われ、演出、照明がものすごい。いやー、すごいわ。

今回は松山バレエ団による新しい『新・白鳥の湖』。衣装もステージセットもとにかくすごい。悪魔のロットバルトの衣装なんか、腕がジュデイ・オングよろしく巨大で、その長い腕がぐるんぐるんとまわると、それにひっかかかって転ぶ白鳥がいないかとドキドキしてしまう。

さすがに音楽はテープだったが、肝心の森下さんの踊りは素晴らしく、とはいっても黒鳥の32回転は無理なようで、代わりにステージ一周のグランジュッテで技術の見どころを作っており、いやーすごかった。すごい体力。年齢に負けてないわ。森下さん、完璧に踊れている。

会場にはお子さん連れが多く、みんなバレエ少女たちなのかなと思った。私の5列前くらいに座っていた女の子が立ったり歩いたりして視界がそのたびに遮られるのでイライラしたが、一部が終わったら、その女の子はさすがにクレームがついたらしく退場させられていたようだった。(ちなみにチラシによると3歳以上、入場可と表記されていた。確かに3歳をすぎれば座っていられる子は座っていられる)

いずれにしても森下さんの踊りにいたく感動したまま、帰宅してYou Tubeを検索してみたら、過去に流れた森下さんのTVのドキュメンタリー番組がイリーガルながらもアップされていたので、思わず最後まで見てしまう。この番組の時点ですでに20年前。すでに体力とのたたかいで…正直絶句してしまった。 いや、本当にものすごく大変だ。生活のすべてがバレエのため。そして体力温存といって楽屋にベットを持ち込み、踊らない時は横になっている状態。時々ステージ袖でも横になっている。すごい。

大変な生活だ。番組の中で印象的なシーンがあった。取材者に向かって森下さんが「見ていてつらいですか?」とインタビュアーに聞いたのだった。つまり「自分はイタくみえないか」ということを森下さんは確認していた。普段がむしゃらに踊ってらっしゃるんだろうけれど、確かにテレビに横になる自分を映されて、考えることもあったのだろう。松山バレエ団について、ネットでググってみれば、かなり心ない言葉を書き込んでいる人もいる。早く引退しろや、もっとひどい汚い言葉まで…

これだけのものを作るのは本当に大変だろうな、と思った。正直、こんな大掛かりなステージ、スタッフの数もものすごく、その中で自主制作公演を作ることで、いったいどんな利益が出るんだろう。コロナ禍でキャパも半分だ。主役や良い役をめぐって、厳しい争いもあるだろう。そしていまや本当に才能のある子たちはアスリートでも音楽家でもダンサーでも、留学生を積極的に受け入れる海外へと、すぐに出てしまう。森下さん以降の後進が育ってない、という素人のクレームが飛んでいるのだが、その真偽はわからないまでも、いやいや今や才能のある子はみんな海外でしょ、と私も素人なりに考えてしまった。

また松山バレエ団は宗教的だ、みたいなことを言う人もいる。確かに、そういう感じがしなくもない。広報・マーケティング担当の人が大変なんだろうなぁ、とも想像する。チラシはデザイン、文章とも正直いまいちで新しいファンを呼び込むにはかなり無理がある。購入したプログラムの文章もわかりにくい。ま、私も人のことを言えるレベルではない。ウチのチラシも文字が多くすごくわかりにくい。予算があればプロのライターさんと編集者を入れて作りたいのだが、そんな予算が取れるわけでもなくいつもとても下手くそだ。が、そこは、まぁウチの場合、お客さんに甘えている部分があるのだけど、こっちは天下の松山バレエ団だからね。しっかりプロのライター、編集者を入れたほうがいいんじゃないかと…  うーん、なんかいろいろ考えてしまった。森下さんが長く踊ることについて、うまくプロモーションできていない、という感想を持った。偉そうでごめんなさい。でも正直な気持ちです。私が子供のころは森下さんといえば世界的なバレリーナとしてテレビや媒体への露出ももっとあったと思うんだよね。いや、私がテレビとか媒体みてないだけか…

まぁ、あれこれ言う外野が多いのはどんな事業についても同じで税金みたいなもんだから、しょうがない。実際、事は極めてシンプルだ。本人が踊りたいといい、本にが自分の成果に納得し、かつそれにお金を払い観ることを楽しみたいという人がいれば、もうそれだけなのだ。いつもいうように「踊り」という芸術は「バレリーナ」という人間よりも遥かに大きい。本人がいつまでも踊りたいとか、引退したくないとか…  そういう事はすべて重要ではないのだ。

とはいえ、とにかく70歳を超えて踊っていらっしゃる、そのパワーはすごいと思う。



さて、今回は、新アレンジされた新しい『白鳥の湖』だったけど、オーセンティックなこういう普通の『白鳥の湖』も見たいなと思ったり。

例えば新アレンジでは四羽の白鳥(小さい白鳥)が6人で踊られていた。あと好きな曲がいくつか聞けなかったこと。このオディール登場のシーンのキャッチーなダンス曲、ほんとうに好きなんだよなぁ。それが残念。サウンドトラックのCDでも買ってみようかな。それにしても本当に曲がいい。

森下さんのインタビュー記事も見つけました。2015年のもの。


森下さんの本も見つけた。早速ポチっちゃった。読むのが楽しみ。ちなみに私が見たのと同じプログラム『新・白鳥の湖』次は7月にオーチャードで予定されているようです。北とぴあで見れてラッキーでした。