マーティン・ヘイズの哲学 6

「多くのミュージシャンがそうであるように、僕も音楽について語る時はすごく気をつけている。それが充分に安全な場でない限り多くは語ろうとは思わない。でも僕が子供のとき、周りの大人たちはすごく強い意見を持っていた。僕の父をはじめとして、皆、この音楽が【良い悪い good bad】ということではなく【正しい間違ったright wrong】みたいな言い方をするくらい、皆、はっきりとした意見を持っていた」

「子供のころは何が伝統で何が伝統ではないかなんて認識もなかった。大人になって自分で演奏するようになって初めてドニゴールの音楽が何かとかシュリーブルークラの音楽が何かとかやっと分かるようになった」

「ジョニー・ドハティを聴くまではドニゴール音楽についてはまったくピンとこなかった。トミー・ピープルズを聴いてやっと理解が深まったくらいだ。ドニゴールのセンスはイーストクレアの美意識には通じなかったのかも。そのころになって僕はやっと音楽における孤高の寂しさとか、美しさや緊張感みたいなものを理解しはじめていたんだと思う。僕にとってはそれが外に出て行く最初のステップだった。そして、そこには美学的には矛盾する伝統もあるのだ、ということ。そしてそもそも伝統は実際はいろいろな種類の伝統のコンビネーションである、ということをやっと理解始めたんだと思う」

「21歳のときにアメリカに渡ったが、シカゴではイーストクレアなんて意味もない存在だった。実際アイルランドだって、はっきりしたもんじゃなかったかもしれない。少しずつ僕は新しい音楽を聞くようになった。そして音楽っていったい何だろうと考えるようになり、たくさんの結論を導きだした。そして頑固にも伝統とは何か、伝統とはこれなのだという定義を見つけたいと思ったのだ」

「アイルランドからはあまり考えもなく飛び出したので、生活のためのお金を稼がないといけない。アメリカにグリーンカードなしで留まるということは、いくつかの選択肢しかなかった。1つは荷物の運搬業者になること(それは9ケ月続いた)、そして他にはシカゴの南側にあるラウンジバーで演奏をすることだった。そこでは音楽のチョイスは【ダニー・ボーイ】か【ニール・ダイヤモンド】しかなかった。僕は【ダニー・ボーイ】の道を選んだ」(マーティンのこの説明上手ですね。分かる!)

「僕は今まで無視してきた音楽を演奏し、それは無理やり演奏させられているに違いはなかったのだが、僕は次第に謙虚な気持ちになっていった。まったく馬鹿げたことのように見えたけどね。僕は結婚式でも演奏したし、ロックバンドでも演奏した。髪の毛を伸ばして,ロックバンドにいても違和感がないようにした」

「しかし最終的には消耗して疲れはててしまった。その頃にはミュージシャンとして食べていけるようになってはいたが、もっと意味のある音楽をやらなくては、と思ったのだ。職業としての演奏しながらも、そこにほとんど伝統だと信じるものはなかったし、伝統の影響をゆがめるものだったから、とても申し訳なく思っていた。心の中では激しい葛藤をしていた」

「が、事実は…しかしながら、今になって分かるのは、演奏はいつでも伝統の一部であるということなんだ。少しの人しか聴いていなくても…それはたった2人や一人の時もあった…また全く誰も聴いていなくても。音楽を演奏するという事は、それ自体が役目を行うということなのだ。つまり(演奏者は)その場の環境に反応する。それがたくさんのオーディエンスであろうと、個人的な演奏であろうとも。僕は音楽の純粋さは、環境やお客さんを無視して成り立つものではないと考えている。それでは、聴く人にきちんと届けようとこころみる、芸術的な誠実さを欠いてしまうから」

「ミュージシャンという職業につくと多くの責任をおうことになる。たとえば誰かが僕の公演を…例えばオランダで作ってくれたとしよう。この場合、僕は僕を呼んでくれた人に責任を感じる。そして伝統にも責任を感じるわけだが、お客さんにも責任を感じるし、自分に対しての責任も感じる。僕に音楽を教えてくれたミュージシャんたちにも責任を感じる。これらのすべての責任を持ち込みながら、それらすべての責任を無事まっとうすることができるよう、ある程度の妥協点を見つけ出さないといけないわけだ。多くの場合、それはとても個人的な問題となり、演奏者は、その中で道義的にバランスをとった答えを導くため、ベストを尽くさないといけない」

「最近の何が伝統か、伝統でないかという議論において、よく感じることは、人々はこのような実生活での経験や、これだけヴァリエーションに飛んだ選択肢におけるジレンマを理解しないまま議論しているように思えることなんだ。音楽家たちのこれらの状況におけるジャッジは、あまりにも単純化しすぎだし、僕にとっては必要以上に荒っぽいように思える」

なるほど…


<マーティン・ヘイズ&デニス・カヒル来日公演>
11/3(土)トッパンホール with 田辺冽山 当日券あり! 18:30開演
11/5(月)小諸高原美術館 白鳥映雪館 18:30開演
11/6(火)名古屋 秀葉院 当日券あり! 19:00開演
11/8(木)京都 永運院 当日券あり!  19:00開演
11/10(土)松江 洞光寺  18:30開演
小諸、松江公演の当日券についてはお問い合わせください。

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さてそろそろ公演の日程が近づいてきたので、チケットは現在「お取置き」で受け付けております。お名前、ご希望の公演、枚数、電話番号をご連絡ください。折り返しご案内をお送りいたします。