沢木耕太郎「流星ひとつ」を読みました


読んじまった… あっという間に読めた話題の本。

普段だったら読まないだろうが、友達がツイートで「野崎さんみたいな人がスタッフとして彼女の周囲にいたら」とかつぶやいてて、へぇーと思って、興味を持って読んでみた。

まぁ、なんであれ確かにアーティストの心に寄り添う人が、側にいるってのは大事だな、と思った。でも藤圭子って、自分のスタッフのことは文句言ってないのが偉い。…っていうか言ってたとしても、沢木耕太郎が削除したのかな… 仕事についての文句はたくさん言っているようだけど。しかしこの当時ってヒット曲出てても、儲かるのはレコード会社ばっかりで、本人は「営業」という名のもとで、かなりひどい環境で場末のバーなどで歌を歌わせられていたようなのだ。

きちんとしたPA(音響設備)や照明/ライトの元、きちんとしたステージで自分を存分なく表現できる、ということが、まったくレアだった時代。そういう時代だった、演歌はそういうジャンルなんだ、と言ってしまえばそうなんだろうけど、NHKのビックショーで1時間くらいきちんと歌えるのが嬉しい、みたいな発言もあって、ちょっとキュンと来てしまった。レコードが売れても、それはそれ。それとは別にきちんとスタッフの分の日銭を稼ぐ必要があったのだろうね。

それにしても彼女が頭の良い、聡明な人だというのは、これを読めば一発で分かる。ちょっと潔癖症すぎるのが気になったが、そしてそれがおそらく彼女の人生の後半の大部分を狂わせて理由になるのだろうが…

喉の手術の下りはホントに残念だったな…と思う。でも結局のところ彼女に歌の才能があるのかは、私は分からない。喉の手術のエピソードを読み、You Tubeで検索して、手術後手術前の声を聞き比べてもみたけど、私にはまったく違いが分からない。そもそも手術前の声だって、私はよく理解できない。実際子供のころTVで見てても好きな歌手じゃなかったし、今聞いてもよく判断できない。

なので、まぁ、まったく違うジャンルの、違う世界の話…終わり、って事でもいいんだけど、まぁ、音楽ビジネスの、違う場所にいる私にでも充分理解できたのは沢木耕太郎の発言で最初の方に出てくる「いいインタビューとはインタビューを受ける側が知らなかったことまでもしゃべらせてしまう」…という部分。それはホントにそう!そう!そう!と思った。

ウチのアーティストとかでも、インタビューがいろいろあって、すごいインタビューにはやっぱり神が宿ったりする(笑)。いや、ホント冗談じゃなくて。

今まで何度か「神インタビュー」に遭遇したが、今でも印象に残っているのがルナサの最初の最初のホントに最初のインタビューだ。媒体はラティーナ。決めてくれたのは,今では編集部を辞めてしまわれたM山さん(最近FBで再会した! 今でも感謝)。インタビュアーは松山晋也さん。広尾のPapas Cafeに集められたルナサ全員がインタビューにのぞんだ。最初は松山さんの質問に、みんなガチャガチャと答えていた。誰かが何かいうと別の誰かがチャチャをいれたり、いかに自分がジョークのセンスがあるか…という品評会みたいな、まぁウルサい中学生みたいなインタビューだった。それが、質問がすすむにつれ、彼らはシーンとなり、松山さんの質問に本当に真剣に真摯に答えようと必死になっていったのだ。あの集中力はホントにものすごかった。実際、かなり良い事も言っていたし、出来上がった記事もものすごく良かった。

あとはポール・ブレイディのインタビュー。何にでも手をぬけないポール。質問が来ると、どんな質問にでも真剣に考えこんでしまう。2、3分沈黙が続くこともあった。そんな「間」に私がガサガサかばんの中をさぐっていようものなら「うるさい」とか怒られたりもした。そしてポールは「うううう…」とものすごい真剣に考え込んでしまい、質問に答えたあと「自分でもこんなこと言うの初めてだよ」なんて言ったりしてた。またインタビューが終わって、夕食を食べて、一杯飲んだ時に、私に向かって、あの質問の答えなんだけど……なんて言って、インタビューにまだ答えている事もあった。

だからホントに神インタビューってのはあると思うし、この本もその1つだと思う。

ただ後書きの、それを娘である宇多田ひかるに伝えたい、みたいなのは、まぁ余計なお世話だと思うね…というか、沢木耕太郎の勝手な思い込みだと思う。(こいつも妄想男の一人である。そういや「風立ちぬ」まだ観てないや…)だから、この本について世間が言う評価のうち、私がまるで分からなかったのは、「絶対に藤圭子は終わりの方で沢木耕太郎に惚れている」とか「このあと二人は恋愛関係になる」みたいな話だ。確かにこれ、いいインタビューだと思うけど、正直そんな空気はまーーーーったくオイラには分かりまっしぇん! 世間が惚れたのはれたの騒ぐのもバカだなと思うと同時に、恋愛感度があまりに低い自分にも感動する。でも男性の大部分は恋愛関係に一度なった女性のことを今でもしつこく思い出し、彼女を一番理解しているのは自分だと勘違いするそうなので、ま、勝手にすれば、という感じだ。

宇多田さん(父)からはクレームが出てるんだか、なんだかだそうで、これも、まぁ、興味なし。たんなる男のひがみでしょ。でも読めば本人が怒ったりするような内容でないのは、絶対で、これはいいインタビューだし、彼女の素晴らしさをよく伝えられている内容だと思うわけだ。彼女の何を知っているわけでもないし、再び書くが結局のところ彼女に歌の才能があるのかは、私は分からない。TVで見てても好きな歌手じゃなかったし、今聞いてもよく判断できない。

まぁ、1つ確実に言えるのはアーティストとは、自分の才能をきちんと呼吸してやるようにしてやらないと、ホントに死んでしまう生き物だ、ということだね。それは私もキモに命じておかねばならない。彼女のスタッフは、彼女をしっかりした環境で歌わせてあげるべきだったね。お金は関係ない。本人の充実感の問題。

だから、規模はまるで違うけど、たとえばルナサの今回の来日だって、東京で彼らだけのフルコンサートが出来ることは私はものすごく大事だと思っている。もちろんケルティック・クリスマスは大きなコンサートで、2,000人近いお客さんの前で、演奏が出来る。それは大変な名誉だ。でもあの日は3組でるし、共演もあったり、時間の制約もある。だから彼らが普段の彼らどおりにのびのび出来る場所=単独コンサートがしっかりある、というのは本当にアーティストのキャリアにおいて、ものすごく大事なことだと思うのだ。

なので皆さん、ルナサの単独公演、絶対にソールドアウトにしてください。これは彼らにとって本当に大事な公演です。詳細はこちら!(と、こっちに引っ張るw  でもホントだよ!)

全然話はかわるが、今朝Gnocyがひろってきた記事にも似たような内容のものがあったので、紹介する。「あいりん地区で元ヤクザ幹部に教わった、○○○がない仕事だけはしたらあかん」という話。すごいよ、おっちゃん、ジョブズみたいだ!