すごいもん見た…「アクト・オブ・キリング」これは映画の一線を越えた映画



すごいもんみた。この映画は世界を変えるかもしれない。ちょっとすごすぎる内容だった。「アクト・オブ・キリング」

この映画、すごい前評判だったよね。おそらく公開当時は多くの人が押し寄せるように狭いイメージフォーラムに見に行っていたと思う。私も「今行っても朝イチで行かないと整理番号もらえないよ」という噂を聞きつけ、すごく見たかったけど、この盛り上がりが落ち着くまで待とう、と思っていたのだ。

でもってツアーが終わったあとやっと行ってみれば、平日の昼間に行ったのが良かったのか、今はもうかなり空いている。開演40分くらい前に行ってチケットを買い求めたら整理番号3番だった。あの盛り上がりは、こんなに早く引いてしまったのだろうか。でもそんな現象も映画を観た後なら分かる。これは観た人が、また次の人に薦めるような映画ではない。「すっごい面白かった!」と言って飲み会のネタにするようなものでもない。

ただこの映画が他の映画とはまったく違うものだというのは間違いない。映画が居るべき、留まるべき場所を一歩超えてしまった…というか。

それにしても前評判がすごかった。某元広告代理店のおじさんがFacebookで紹介してたんですよ。「消化しきれない」とか正直な感想を書いたおじさんに対し、おそらく広告業界であろう皆さんの反応は「私は見ません」「〜さんの感想を読んだだけで、もう充分」的なものだった。私は正直,心底がっかりし、思い切ってコメント欄に「世の中は消化しきれないことや、理不尽なことばかりだけど、それを補うのが人間の想像力であり、それをかき立ててくれるのが映画だと思う。音楽もそうありたいと思います。私は観に行きます」と力強く書いてみたさ… かっこいい、オレ(笑) 

…が、映画は…想像以上のものだったよ… 確かにこれは消化しきれないわ…。これはすごいもんを見てしまった。これは前例がない映画だ。なぜならこの主人公の心の闇を、見る側もいやおうなくシェアしなくてはいけないからだ。もしかしたら、それはこの大量虐殺を、サポートしてしまった日本に住む日本人である自分の責任だからかもしれない。

正直、前情報が無いまま見ると,一体何が起こっているか分からない人が多いと思う。フィリピンで60年代に行われた100万人以上の大量虐殺。そして…今でもその実行者の多くは普通にインドネシアで優雅に暮らしている、という話。彼らは勝者の立場から自慢げにその虐殺を語ってみせる。孫に見せたりする。そう、歴史は勝者側が作るものだからだ。彼らは英雄として堂々と暮らしている。TVにも出て自分の虐殺ストーリーを喜々として語っているのだ。しまいには演出まで自分たちでアイディアを出し、子供や女性に対して「もっと大げさに泣いてみせろ」とか指示を飛ばす。

監督は最初この映画の被害者側からの証言を集め映画にしようと思ったらしい。が、現政権が大量虐殺を行った側である以上、証言すれば彼らの身に危険がおよぶ。だから被害者たちは口を開こうとしない。何度も企画に挫折した。でも人権団体などからの援助を受け、これを映画にしょうと。そうなのだ、これはまだ現在も進行してい事なのだ。最終的にそれは加害者側からドキュメンタリーを撮った。それが…ものすごい効果をこの映画に与えている。

が、映画として面白かったかというと…正直前半のテンポが悪いし、ドキュメンタリーだからしょうがないけど…ちょっと長過ぎのようにも思えたし、非常に判断が難しい。

私よりなにより町山さんの解説が良いので、ぜひ、下記のクリップを。普段私は町山解説は大好き。この映画を観る前もこの解説聞いて楽しみにしていた。でも正直、見終わったあとでは、うーん、正直私は町山解説にも珍しく違和感を感じるんだよね。実は…映画としては…実は越えて行けない一線を越えてしまった…というそういう映画なようにも思えるんだ。つまりこれは今でも現在進行形のことであり、マジでこの映画は歴史を変えるかもしれない、ということ。

……っていうか、そういう映画、ないだろー っていうか、これ映画の感動とかそういう事じゃ済まされないだろ。うーん!!! 重い! 重すぎるよ!

実際、その後のアンワル氏については、後日談があって、映画を見て言葉を失った、とか、でも賞は受賞してほしい、とも言っていた、とかインタビュー記事を見つけたりした。驚異深いです。デヴィ夫人もプロモーションに強力しています。

でも町山さんの言うとおり。彼らは町のチンピラにすぎず、本当に悪い奴は実は手を汚さない。そしてまだ優雅にのうのうと生きている。そのことを、私たちはちゃんと覚えておかないといけない。

でもって、この映画が好きかというと…すごいとは思うけど、好きだとは言えない自分もいたりする。歯切れが悪くてすみません。もっと消化できるようになったら、また書き加えてみたいと思います。



町山さんがこの映画がすごい、NO1だ、と熱く語るのは、でも理解できるような気がする。というのも町山さんは、映画によって世界が変わる、と信じているんだろうね。私は…それについては…映画や音楽はきっかけとなることは間違いなくても、やっぱり難しいと思うんだよね。そこがすっきりできない理由かな。いや、でも重いもんを手渡された気がする。そういう映画ですよ、これは。