川内有緒「パリの国連で夢を食う。」を読みました

すごい! 今や「バウルを探して」で新田次郎文学賞を受賞し「先生」になってしまった川内有緒の最新作「パリの国連で夢を食う。」を読みました。

いや〜、読ませる、読ませる。前作の「バウルを探して」は、長い長〜い本なのにあっという間に終わっちゃったけど、これも最後は一気に近所のファミレスでご飯食べながら、あっという間に読み終わってしまった。

北尾トロさん主宰の「レポ」は和田静香が書いていることもあって創刊号から何号かは購入していた。そして結構スミからスミまで読んた。そこで一番印象に残っていたのが、川内有緒の国連エッセイだった。そのレポに書かれてた国連エッセイを、さらにうんと加筆して出来たのがこの本だ。

いや、すごいね。すごい。しなやかな女性らしい生き方ってもしかしたら、こういうのを言うのかもしれない、と思った。文章が面白いから、もうあちこち爆笑もの。特に最初に住んだパリの部屋とかも、もう超爆笑もんなので、とにかく読んで!読んで!という感じだ。ネタをあまりばらしてしまうとよくないので、詳細は書かないでおくけど。とにかく爆笑もの。あっという間に有緒マジックにはまってしまう。

国連という世界一のお役所(有緒は途中から「戦艦大和」とか呼んでいる/笑)で超個性的でインターナショナルな仲間たちに囲まれながらも、自分の本当にやりたい事はなんだろうと、少しずつ模索しながら、今いる位置に到達しようとしている有緒。

それにしても海外で生活するの、私もやってみたかったな、と思った。ここにも何度か書いたことあるんだけど、私も真剣に海外での生活を考えていた時期があった。で、ロンドンに行って多少就職活動したこともある。でも、ロンドンでフリーのコーディネイターとして大活躍している大先輩に会った時、彼女が「私はどんなことをしてでもここにいる、例えウエイトレスをしてでも」と言ったのを聞いて、一瞬にして目が覚めたのだ。誤解のないように言うとその先輩はコーディネーターとして、ものすごい大成功している女性だ。私だって中途半端な気持ちで海外に住みたい、と思ったわけでもない。でもその彼女がそう言った時「いや、違う。私はウェイトレスはいやだな」と気付いたのだ。

もちろん誤解のないように書いておくけどウェイトレスだってクリエイティブに働く人はいると思うよ。でも自分には明らかにむいてない職業だもんね。その時、どこで生きるかじゃない、どう生きるか、って事が大事なんだ、って思いだしたわけ。私はね。

有緒は日本の4大出た後、アメリカの大学院卒業し、海外勤務のあとは一流コンサルでバリバリ働いて、英語とスペイン語に堪能で、パリにいるからフランス語も出来て、なんといっても国連で働き、ソルボンヌで「教えて」いたわけだから!(このソルボンヌのくだりも、ホントに笑えるんだ。有緒らしい!!)

でもそんな順風満帆にみえる有緒も、こうやって作家になる、本を書く、という自分の目標に少しずつ進んでいくのである。パリの国連で働きながらもスクワット(アートな人たちが集まるヘンな場所)に出入りし、個性的な人たちにかかわり合いながら、自分も「マイプロジェクト」と名付けた現地の日本人への取材を進めていく。そして、これがのちほど有緒のデビュー作「パリでメシを喰う」につながっていくわけだ。

それにしてもすごいエピソード満載で、ホント、有緒、何やってんだよー、って思うところもたくさん出てくるけど、いや、これが彼女のしなやかさ、そして強さなんだな、と妙に納得してしまった。

とはいえ、つらかっただろうなぁ、とも思う。お父さんが亡くなるシーンとか、そのお父さんの言葉を何度もかみしめているところとか。そしてなんといっても最初のアパートとか(インパクト大きいです)、外国人だらけの職場で心細い感じ、フランス語が分らない感じとか、新しいアパートでベットが膨らまないその感じとか(笑) でもバスタブから見える夜景。そういうの、いいよね。そういうの、すごく分る。私も今、毎朝、荒川土手を走る時、そして広いベランダから星空を眺める時、足立区に越して来てホントに良かったと思う。足立区でなければ、こんな広いベランダは手に入れられない。足立区とパリじゃだいぶ違うけどさ!(笑)

それにしても大変なことだってたくさんあったと思う。でもこの本読んでると、ホントに苦労よりも笑いの方が多い。読んでる間はものすごくワクワクドキドキしちゃった。まさにこれが有緒ワールド。やっぱりノンフィクションってこうじゃないと!

有緒の作品でまだ読んでない「パリでメシを喰う」も手にいれないとな。そしてすべては新田次郎賞を取った「バウルを探して」につながっていくわけなのさ。すごいよなーっっ!

そしてレポTVや本人のTwitterとかでも公表されているから言っちゃっていいんだろうけど、有緒はこの秋、お母さんになる。本当におめでとう、有緒。この妊娠〜出産〜子育てネタもきっといずれ本になって、また私たちを楽しませてくれることだろう。お父さんも空から思っているよ、事務局長じゃなくてお母さんになって良かったね!って(笑/涙)



PS
「バウルを探して」の感想はここ。凄いよ、バウル本は。圧巻です。

PPS
しかし思うに普通は逆で普通の人だったら「国連/パリ」を目指して人生設計を考えるんだよね。いいなぁ、国連、いいなぁ、パリって…。でも物事の本質はそんなところにはないんだわ。川内有緒はパリや国連を早い段階で手にいれることによって、自分の本当にやりたいところを見つけられたんだと思う。これぞスティーブの言う「人を銀行家よりも詩人になりたいと思わせる何か」Poets instead of bankersってことだと思う。

PPPS
で、自分のいたい場所を手に入れたら入れたでまたそっからがイバラの道なんだよ。そこで成果をあげるには…そこからまた10年かかったりするわけですよ、これが。私は自分の人生において国連やパリは手にいれられなかったけど、でも自分の人生間違ってない、って実感はある。おかげで回り道をすることなく今の居場所を手に入れられた。回り道してたら、メアリーにだってルナサにだってヴェーセンにだって会えてなかった。あとはここでとにかくリタイアするまで頑張る、そういうことだ。