矢野和男「データの見えざる手」を読みました。すごいよ、未来は明るい!

kindleで買って読んだ。これ結構話題の新刊だよね…どこで知ったんだっけな。ホントは「積ん読」の山が綺麗にならないかぎり新しい本を買うのは禁止だったはずなのに。ついつい買ってしまった。こういう新しい本…大好きなんだわ。好奇心には勝てない。そしてkindleあぶない。kindleは積ん読状態がヴィジュアル化できないから、ついつい読んでない本がたまる。買ったらすぐ読まないと。

結論から言うとホントに面白かった。大雑把に内容を説明すると、いわゆる「ビックデータ」の処理が可能になった今、ウェアブルセンサを付けた人間に膨大な量のデータを収集させ、それをもとにビジネスや社会現象を科学的にコントロールしよう、というもの。さらには人間の真の幸福を実現するのは可能なのか、ということまで突き進む。すごいでしょ。でも、これが現実なんですよ、もう。

実は自分のことは自分で分ってないことが多い。なんとビックデータを解析してみれば1人の人間が行動する熱量は決まっているんだって。人の行動は実は物質のようにエネルギーによって制約されている、ということらしい。宇宙のあらゆる変化はエネルギーのやりとりなのに、人間の行動だけは「意志」「好み」「情」などで決まっているように見える。人間だけは特別な存在なんだ、と。だけど、実際はそう見えるだけで、人の行動も他の物質のエネルギーと変わらない、という目ウロコの結論なのだ。我々が頭の中で考えたり思っていたりすることすら、自然界の一部であることは変わりはない、という驚愕の事実。それこそあまりに複雑な人間行動を解析するビックデータがあってこそ、導きだせる結論なんだけど。

たとえば1日のTO DOリストを決める。でもそれが予定どおりに行かない。行ったとしても大変な苦痛を伴う、効率が落ちる、結果のクオリティが落ちる… それは人間のエネルギーが決まっているからなのだ。すごいよね。でもこれについては「じゃあ仕事のできる人と出来ない人がいるのは?」という疑問にたどり着く人も多いと思う。これについてもこの本では科学的なデータを用いて、結論をきっちりと説明している。そして限られた1日を有効に使うには…バランスよくすべてのエネルギーを上手に使う、もっと言えば例えば人間の1日の残りのガソリンのメーターを見ながら目的地まで走る、ということがビックデータの解析により可能になるかもしれないのだ。すごい!

またデータを収集することで、実はビジネスの成功への鍵がまったく意外なところにあったり、自分の幸福は自分が思っているところとは違うところにあったり…というのが分かるというのだ。ビックデータを解析すること。これぞまさに「神の手」だよね。

そして人間の「幸せ」とは? 人間の幸せはおよそ半分は遺伝的な要素によって決められていることがいろんな研究により分かっている。残念なことにうまれつき幸せになりやすい人と、なりにくい人がいるというのは多くの研究が認めている。つまりそこに遺伝的な要素が50%存在している。(これは私も他の本とかコラムでも読んだことあるように思う)

そして重要なのは… 残り50%の後天的要素だ。どうやったら人間は幸せになれるのか。そしてここでも驚愕の事実。なんと結婚したり、新しい家を買ったり、たくさんお金をもらったり、そういう幸せは、なんと人間の幸せの10%でしかない、という驚くべき結果がビックデータにより導きだされた。そのくらい人間は良くも悪くも環境にはあっという間に慣れてしまう、ということなのだ。すごいよね。ここにはすべての環境要因が含まれるそうだ。人間関係(職場、家庭、恋人など)、お金(資産を含む)、健康(病気の有無、障害の有無など)。それらは人の幸せの10%でしかない。人間はそのくらい環境に強い生き物なのだ。この結果は著者にとっても衝撃だったらしく「本当だろうか、と疑った」とまで書いている。というのも、人はこれらの「環境要因」が幸せの元と思い、それらを良くするために毎日必死で無理をし努力しているのだから。

では残りの大きな40%はなにか。それがびっくりなんだけど、「自分の意志で動く」ということ、という結論がビックデータにより導きだされた。そしてさらにびっくりなことに行動を起こした結果、成功したかしないかが重要ではない、という結論が導きだされるのだ。つまり人にとっては行動おこすこと自体が人の幸せなのである、と。これ、すごい事だよね。行動すること自体がハピネスだとすれば、幸福になるための発想はまったく変わってしまう。そして、それは実は今すぐにでも実践出来ることだという… 何度もいうけど、これ科学的なビックデータが示してる事実なんだよ、科学的事実なの。

そしてさらにデータを解析していく中で、もっと分かったことは、人のハピネスは伝染する、ということ。幸せな人は周りを幸せに出来る。そして実は「運」「去る者日々にうとし」みたいなものも、すべて…データで解析できるのだ。ビックデータを解析してみれば、昔、孔子が言ってました、みたいなことにたどり着く事が多い、と著者は言う。そしてさらに、以前は「去る者日々うとし」に対して「私はそうは思わない」と言う意見を言っていた人がいるかもしれないが、それが今や科学的に証明されてしまうのだ、ということ。

そして「運」に真面目に向き合い、偶然と呼ばれるものをコントロールしていく。この研究によるとチームはリーダーの下にたくさん三角形があるといい、とか。とにかく、ビックデータが示してくれるアイディアはびっくりするようなことばかりだ。

まぁ、もちろんこの先生のご自身の研究されてる研究、ウェアブルセンサや人口知能Hの宣伝本だという感じはいなめない。この本を読んだ企業の人たちはこぞってこの先生に電話するのかもしれない。また正直、この本は、データはこんな風に処理されるんですよ、という科学的説明部分の記述が多く、そういう部分は、私はさっぱりだった。でも、分らないまま読み進み、そんな過程を経てビックデータが導き出した結果には、本当にめちゃくちゃ共感した。そして納得するのだ。ほら、見ろ、やっぱり自分は正しかったな、と(笑)

例えば仕事は自分で作った仕事の方がやり甲斐や達成感、幸福感は大きい、とビックデータも示しているのだ。すごいでしょ。これ、先日も例えば同じ自営業でも人からの発注仕事をもらってるだけじゃダメだ、自分で仕事を作らないと…という記事をネットで読んだのだが、まったくその通りだと思う。ビックデータはオレの味方だ。それが分って、ホントに励まされた。

そして「人間のやるべきこと、やるべきでないこと」を記してこの本は終わる。学習するマシンも出て来て、人間のやることはもう無いように思われがちだ。でも「問題を設定」し「結果に責任」を取ること。学習するマシンは、すでにその問題に関わるデータが大量にあることしか対応が出来ない。人間は未知の状況でも前に進むことが求められる。…など、著者は人間がやるべきことを示して本を終えている。なるほどね。

先日、音楽評論家の五十嵐タッド先生に久しぶりに会って面白いことを指摘された。「洋子ちゃんがブログに書く映画評を見てると、洋子ちゃんは映画に求めるものが何かはっきり決まっていて、そこにハマらないと本当にダメみたいだね」と。タッド先生は時々本当にものすごくするどい指摘をくれる。そういや音楽評論家の和久井光司さんも「時々タッドに怒られたくなるんだよねー」と言っていたが(笑)

いやいやホントにご指摘通り。私は自分でも気付いていなかったのだが、私はそうやって自分が既に持っている考え方や生き方を肯定してくれる本や映画が大好きなのだ。そして、この本はといえば…ホントにそれにドンピシャリだったと言っていいと思う。もうビックデータが導きだす結果に響きまくり。オレは正しかった、と(笑)

いつか人間に変わってコンピュータが世界を支配するようになる…とはSF映画や小説で言われて来た事。それが今,現実になろうとしている。そして例えば物を売る事が目的だったら「回答はこれ」とビックデータが示してくれる時代はすぐにくる。そんな単純な目的はビックデータに導きださせればいいのだ。だからこそ。だからこそ自分が本当に何がやりたいかを見失わないようにしないといけないんだよ。「売り上げアップ」なんかは単純で分りやすい目標かもしれない。でももっと大きな目標があるのならば、それをはっきりさせないとコンピューターに指示されるばかりだ、ということなのだ。そして自分が本当にのぞんでいない結果へと流れていってしまう、ということなのだ。うーん、良いよ、この本。おすすめ!



PS
著者がホリエモンと対談している記事発見。