LAPD…Liam O'Flynn、Andy Irviine、Paddy Glackin、Donal Lunny…このすごいメンバーのイニシャルを組み合わせたグループLAPDは、またダブル・ミーニングで「ロサンゼルス市警察」という意味もある。ちょっとしたジョークだよね。
このグループ、今も動いているのかな…。こう言ってはなんだが、このグループ結成の話を聞いた時は、正直フェスティバルの営業かせぎの企画もんじゃないのか、と思った。このグループが… 例えばドーナルのキャリアの、エミット・スパイスランド(…は良いとして/笑)、プランクシティ、ボシー・バンド、ムーヴィング・ハーツ、クールフィン、モザイク…それらに続くものとはとても思えなかった。
ギャラが超高額、でもってバンドといえどレパートリーは各自の持ちよりで、新しい曲が出てくる気配なし、みたいな。当然ニューアルバムなんて作る作るといいつつ、まるで作りませーん、みたいな。実はこの企画においては、こいつが黒幕みたいな人の影も知っていた。ま、実態はどうなんだろうなと思いつつ(笑)、私も公演を実際見たことがないから安直に批判的な事は言えない。それにその背景がどうであれ、肝心の音楽が良ければいいじゃんとも思いつつ、どうも斜めの視線で見てしまう自分がいたりする。アイルランドの伝統音楽にピュアなロックバンドみたいな態度をもとめてしまう私は、どうしてもそんな考えが払拭できない。ちょうどウチがドーナルとパディのデュオを来日させた頃に出来たグループで、私はそんな疑いの目を向けていたのだが、案の定、今はもう稼働していないんではないかと思う。
でもって、そんなLAPDにポール・ブレイディ乱入している映像を偶然発見。なんと名作「Andy Irvine Paul Brady」から「Martinmas Time」を共演しているではないかー!(喜)
「Andy Irvine Paul Brady」はすごいアルバムだ。あれはプランクシティの最後のアルバムに相当すると言ってもいい内容の大変な作品でアイルランドの伝統音楽の本当に豊かだった時期を見事に1つのマスターテープに閉じ込めている。もちろん2012年のこの映像ではみんなおっさんだし、ちょっと枯れた感はあるし、ちょっともたつく所もご愛嬌なのだが…。
アイルランド音楽の仕事をする者として、あの頃、あの時代に、あの瞬間にこの人たちに出会っていたらいったいどんな展開になっていたんだろうか…と、What ifみたいな想像をしてみたりもする。
そして、あのアルバムに参加したメンバーたちが、それぞれの道を進む中、ポールはポールの道を進んだ。「Andy Irvine Paul Brady」の2年後に「Welcome here kind stranger」をリリース。ダイアー・ストレイツのマネジメントに拾われ、「Hard Station」というシンガーソングライターとしてのアルバムを発表し、今までとはまったく新しい世界へと飛び出していくわけだ。そこから先は…ボブ・ディランにギターを教え、ティナ・ターナーに楽曲を提供したらそれが世界的なヒットとなり…そこから先は伝説だ。
それにしても驚異的にパワフルだった70年代のパワーといったら…もう想像するしかないのだが、きっと物凄かったんだろうな、と思う。そしてポールが、コンテンポラリー系に進まず、ここにいるおっさんたちと伝統音楽を続けていたらどうだったんだろう、と時々思う。でもそうしたら私はポールのファンになっていたかどうかは疑わしいな…。とはいえ、「Welcome Here…」も「Andy Irvine Paul Brady」もすごい傑作であることには疑いの余地はないのだが。でも、そうしたらたぶん一緒に仕事はしていないね。
それにしても、この豊潤な音楽は奇跡だと思う。音楽ってホントに奇跡だよなー。この瞬間でなければ存在しないし、一時として同じところに止まっていない。
だから音楽の前ではあれこれ屁理屈も意味がない。ただひたすら、私のような者は誠意をもってその場で出来ることに最大限に献身的に、ただひたすらにお仕えするだけだ。
何はともあれポールの歌がまた聞ける。それはホントにすごいことだと思う。これを当たり前だと思ったらバチがあたると思う。御大ももう68歳。いつまで来日が出来るかは誰にも分からない。来週の詳細はこちら!