この本を読むまで、人間は日々サルから進歩して、より文化的に、より理性的になっていくのかと思っていた。オレって歴史を知らなすぎるわ… 実態は全然そうじゃないんだ。ちょっと絶望的な気持ちになったのだった。が、そんなことはともかくこの本は抜群に面白い。
ここでも何度か紹介している早稲田探検部出身の素晴らしい冒険家、ノンフィクション・ライターである高野秀行さん、そしてテレビ番組などの時代考証(中世)などを手がける歴史学者、清水克行さんの対談本。「世界の辺境とハードボイルド室町時代」
高野さん、よく同じ早稲田出身の探検家、角幡唯介さんとの対談をメディアの企画でふられ、どうも違う、などとおっしゃっていたが、この本は「ドンピシャの話し相手が想像もしない方角からあらわれた」という事で制作されたのだと言う。
というか、高野さんがまず清水さんの「喧嘩両成敗」本を読んで、これはすごい、ソマリランドみたいだ!!と盛り上がり、集英社の敏腕女性編集者が二人を引き合わせたのだとか。そしたらその場で話は盛り上がり盛り上がり…大学で会って話して終わらず、そのまま飲み屋で5時間話し…そしてその編集者が偉かったのは、それをすべて録音していたのだとか。そして「これはこのまま本になる!」ということで書籍にまとめたのが、この本なんだとか… すごいよね。(でも、分る。一回話しちゃうと、最初の臨場感とか、「じゃ場所を改めて…」ってやっても、二度と戻ってこないからね)
確かにこの感じは分る。最高に響き合う相手は、実は別のフィールドのどっかにポンと存在している。前に紹介したけど、ケルトの装飾美術研究家の鶴岡真弓さんが、福岡センセと話がビシバシあっちゃうとか、カフェバッハの店主さんと響き合っちゃうとか、そういう事である。わたしも日本の音楽業界でレッツ芸能界みたいな人と話すよりも、ワールドミュージックのフェス主催してるヨーロッパ人とか、同じ日本でもインディー映画の配給者や、個人で頑張ってる陶芸作家さんとか、そういう畑違いの人とビシバシ話があっちゃうのと一緒である。生きてるベクトルが一緒というか、物の見方の角度が一緒というか…
清水さんの方も「前近代を体感するうえで世界の辺境の現状はとても参考になる」と話している。とにかくそんな響き合う相手を見つけた二人が語りたおす、これはめちゃくちゃおもしろい本だ。「世界の辺境」そして「室町時代」うむ。そうなのだ、時空を超えて響き合うものは響き合っちゃうのだ。反対にすごく身近にいて同じ時間を共有していても、分かりあえないものは、絶対に分り合えない。
この本、おもしろくって、とにかく「へー、そうなんだー」と思いつつもホントに笑いながら読めるのであるが、私はしかしそこに途方もない絶望を見つけてしまった。それが冒頭にも書いた、「なんだ、人間ってちっとも進歩してないじゃん」ということ。特に清水さんが話されるネタ(ネタ、と言っちゃうとなんだが)わたしにとっては知らないことだらけで、本当にビックリだ。この本を読むまで、私は日本人はサルからより理性的に、少しずつでも進歩しているのだと信じているのだ。人類は間違いなく、ベターでより良い社会を作り上げつつあると思っていたのだ。
が、違った。民主主義が上手く機能しないのも、実は独裁国の方が平和が維持できるのも、すべて人間に進歩がないからじゃないのか、と分った。よくよく見てみれば、実のところ進歩が見られたのは物質だけで、肝心の人間は遠い昔の人たちの方が、人間が出来ているようにも思われる。
そういや今や死刑で人を公的に殺している日本でも、平安時代においては260年死刑がなかった。そして、この本で知ったのだが、戦国時代にはホモセクシュアルに対する偏見がなかった…とか聞くたびに、もしかしたら人間は後退しているんじゃないか!と驚く。
そして都市文化が進むたびに人間は何か大事なもの(それはムベンベだったり、雪男だったりする)をいとも簡単に失ってしまうことに気付く。
それにしても室町時代とソマリランドは似ているのだ。面白かったのは「未来が背中の方にある感覚」これなんか、ほんとにまったく目鱗ボロボロ。面白い概念だよ。いいよ、それ。未来は確かに背中にある。どうして、そういう感覚失っちゃったかなぁ。
外国に行っても同じ感覚があるが、読書も同じだ。いろんな時代や、いろんな国を知ることによって、実は今自分の生きているこの時代が、この国が、急に立体的に見えて来たりするのが本当におもしろい。(これは高野さんの前書きの言葉にもある)今存在している価値感や基準は、決して絶対的なものではないということが急に見えてくるのだ。
それにしてもこの本はおもしろい。いわゆる歴史トリビア的に楽しめる単なるエピソードや知識の羅列だけではない、もっと人間の深い部分、普遍的な何かを深く深く探ろうとしているのが分る。これを企画した編集者は、ものすごいデキる人だと思う。さすが!
ってなわけで、清水さんの方の本も無性に読みたくなってきたが、今、高野秀行さんブームで読んでない本がすでに3冊積んであるので、まずはそっちを先に片付けようと思う。次は分厚い「ソマリランド」でも行くかな…
ここでも何度か紹介している早稲田探検部出身の素晴らしい冒険家、ノンフィクション・ライターである高野秀行さん、そしてテレビ番組などの時代考証(中世)などを手がける歴史学者、清水克行さんの対談本。「世界の辺境とハードボイルド室町時代」
高野さん、よく同じ早稲田出身の探検家、角幡唯介さんとの対談をメディアの企画でふられ、どうも違う、などとおっしゃっていたが、この本は「ドンピシャの話し相手が想像もしない方角からあらわれた」という事で制作されたのだと言う。
というか、高野さんがまず清水さんの「喧嘩両成敗」本を読んで、これはすごい、ソマリランドみたいだ!!と盛り上がり、集英社の敏腕女性編集者が二人を引き合わせたのだとか。そしたらその場で話は盛り上がり盛り上がり…大学で会って話して終わらず、そのまま飲み屋で5時間話し…そしてその編集者が偉かったのは、それをすべて録音していたのだとか。そして「これはこのまま本になる!」ということで書籍にまとめたのが、この本なんだとか… すごいよね。(でも、分る。一回話しちゃうと、最初の臨場感とか、「じゃ場所を改めて…」ってやっても、二度と戻ってこないからね)
確かにこの感じは分る。最高に響き合う相手は、実は別のフィールドのどっかにポンと存在している。前に紹介したけど、ケルトの装飾美術研究家の鶴岡真弓さんが、福岡センセと話がビシバシあっちゃうとか、カフェバッハの店主さんと響き合っちゃうとか、そういう事である。わたしも日本の音楽業界でレッツ芸能界みたいな人と話すよりも、ワールドミュージックのフェス主催してるヨーロッパ人とか、同じ日本でもインディー映画の配給者や、個人で頑張ってる陶芸作家さんとか、そういう畑違いの人とビシバシ話があっちゃうのと一緒である。生きてるベクトルが一緒というか、物の見方の角度が一緒というか…
清水さんの方も「前近代を体感するうえで世界の辺境の現状はとても参考になる」と話している。とにかくそんな響き合う相手を見つけた二人が語りたおす、これはめちゃくちゃおもしろい本だ。「世界の辺境」そして「室町時代」うむ。そうなのだ、時空を超えて響き合うものは響き合っちゃうのだ。反対にすごく身近にいて同じ時間を共有していても、分かりあえないものは、絶対に分り合えない。
この本、おもしろくって、とにかく「へー、そうなんだー」と思いつつもホントに笑いながら読めるのであるが、私はしかしそこに途方もない絶望を見つけてしまった。それが冒頭にも書いた、「なんだ、人間ってちっとも進歩してないじゃん」ということ。特に清水さんが話されるネタ(ネタ、と言っちゃうとなんだが)わたしにとっては知らないことだらけで、本当にビックリだ。この本を読むまで、私は日本人はサルからより理性的に、少しずつでも進歩しているのだと信じているのだ。人類は間違いなく、ベターでより良い社会を作り上げつつあると思っていたのだ。
が、違った。民主主義が上手く機能しないのも、実は独裁国の方が平和が維持できるのも、すべて人間に進歩がないからじゃないのか、と分った。よくよく見てみれば、実のところ進歩が見られたのは物質だけで、肝心の人間は遠い昔の人たちの方が、人間が出来ているようにも思われる。
そういや今や死刑で人を公的に殺している日本でも、平安時代においては260年死刑がなかった。そして、この本で知ったのだが、戦国時代にはホモセクシュアルに対する偏見がなかった…とか聞くたびに、もしかしたら人間は後退しているんじゃないか!と驚く。
そして都市文化が進むたびに人間は何か大事なもの(それはムベンベだったり、雪男だったりする)をいとも簡単に失ってしまうことに気付く。
それにしても室町時代とソマリランドは似ているのだ。面白かったのは「未来が背中の方にある感覚」これなんか、ほんとにまったく目鱗ボロボロ。面白い概念だよ。いいよ、それ。未来は確かに背中にある。どうして、そういう感覚失っちゃったかなぁ。
外国に行っても同じ感覚があるが、読書も同じだ。いろんな時代や、いろんな国を知ることによって、実は今自分の生きているこの時代が、この国が、急に立体的に見えて来たりするのが本当におもしろい。(これは高野さんの前書きの言葉にもある)今存在している価値感や基準は、決して絶対的なものではないということが急に見えてくるのだ。
それにしてもこの本はおもしろい。いわゆる歴史トリビア的に楽しめる単なるエピソードや知識の羅列だけではない、もっと人間の深い部分、普遍的な何かを深く深く探ろうとしているのが分る。これを企画した編集者は、ものすごいデキる人だと思う。さすが!
ってなわけで、清水さんの方の本も無性に読みたくなってきたが、今、高野秀行さんブームで読んでない本がすでに3冊積んであるので、まずはそっちを先に片付けようと思う。次は分厚い「ソマリランド」でも行くかな…
ところでこのお二人が荻上チキさんのラジオに出たのをYou Tubeで発見。
我らが大倉センセイの番組でも、この本を番組で取り上げている。
そして高野さんと角幡さんが出ているラジオ発見! DJの人はともかく、ホステス役の女子がまったく探検というものを理解していないのが笑える。質問が幼稚すぎるよ…ちゃんと本読んでからのぞんだのか、この番組に?(笑)
ま、でも電波媒体なんて、そのくらいのでいいのか。視聴者はゼロからこの話を聞くわけだから…。しかし世の中で探検というものは、あまり理解されないのさ。それでいい。分る奴さえ分ってくれれば。(まるで自分ももう探検家側の気分!)
それにしても高野さん… 人生楽しそうだよなー オレも楽しく行こう。
我らが大倉センセイの番組でも、この本を番組で取り上げている。
そして高野さんと角幡さんが出ているラジオ発見! DJの人はともかく、ホステス役の女子がまったく探検というものを理解していないのが笑える。質問が幼稚すぎるよ…ちゃんと本読んでからのぞんだのか、この番組に?(笑)
ま、でも電波媒体なんて、そのくらいのでいいのか。視聴者はゼロからこの話を聞くわけだから…。しかし世の中で探検というものは、あまり理解されないのさ。それでいい。分る奴さえ分ってくれれば。(まるで自分ももう探検家側の気分!)
それにしても高野さん… 人生楽しそうだよなー オレも楽しく行こう。