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2016年2月19日金曜日

「冒険歌手」を読みました、うーん、これは何とも…

うーん、探検本を読み広げるのもいい加減にしないと。グリーンランドの仕事の資料という言い訳であれこれ読みあさっているのだが、最近はすっかり探検を追求するようになってしまい、ソマリアとかチベットとかにまでその域を広げているので、ホントにきりがない。もう本を買うのは辞めようと思っていたのに、後書きをあの高野秀行さんが書いていて、最後に角幡唯介さんとの対談がついているとくれば… 私が読まないわけにはいかない。というわけでポチリ。

で、すいすい読めます。ストレスなく。でも…正直こういう本は…好きではない。確かにハラハラする冒険だから「どうなっちゃうんだろ」という理由ですいすい読み進めることはできる。でも、まったく深みがないというかなんというか。そしてそれは本人が一番分かっていると思う。これは女にしか出来ない旅だ。2001年、15年前の冒険の話。

この冒険の隊長がとにかくすごい。そして読み終わったあと私が思ったことは「探検業界にもいるんだ、こういういい加減な人…」ということだ。藤原一孝隊長。当時45歳。これに峠さん、学生時代の角幡さん(ユースケという名前で登場する)という3人で、ニューギニアにヨットで渡り(!?)そこで山も登ってくる、という。峠さんは30歳ちょっと「自分は恵まれすぎている」と考え苦労を体験したくなり(これは気持ちは分かる。生きている感覚を得たいと思ったのだろう)雑誌にのった広告を見てこの冒険に素人なのに参加することを決意した。

隊長はしかしカリスマ的な才能を発揮するものの、最低の男だ。貴重な食べ物を勝手に食べてしまったり、峠さんをどなりつけたり、ひどい奴なことこのうえない。まったく甘えるにもほどがある! 音楽業界にもいる。口ばっかりで、勢いばっかりの無責任野郎。すぐ人からお金を借りる。そしてそれを返そうともしない。約束を守らない。言った事をやらない。そして金銭問題。いい歳をして、貧乏くさいことこのうえない…など、読んでいてホントに嫌になった。どの業界にもいるんだよな、こういう人。犬探しなど、もっての他だ。こういう大人には絶対になりたくないと思う。

しかし、そういう人は得てして、ものすごく人間的にチャーミングなのだ。そして真面目に真剣にやっている凡人に比べ、見ていてめちゃくちゃ面白い。(これはちょっとサイコパス的要素もあると思う。これについてはまた別に書こうと思うのだが)

そしてそこにはだいたいそれを助長させる献身的な女の存在があるのだ。この冒険の場合、それが峠さんだ。峠さんにも悪いところがいっぱいある。

そして2人には絶対に男女の関係があるに違いないのだが、それをはっきりさせないのも、なんか違うと思う。そういう意味では脱ぎっぷりが足りない…というか。でも反対に生理現象(ウンコとか、おしっことか)については赤裸裸に書かれており、そればかりがすごく印象に残る結果となっている。

それにしても、隊長… こういう人は、悪気がないのにお金を返せなかったり人を裏切ったりする。寄附とか無責任に募って応援してくれた人の信用を失ったりする。が、悪気はまったくないのだ。それが一番たちが悪い。

いすれにしても内容がない本だった…この本で読むべきところがあるとすれば、高野さんの素晴らしい後書きだ。ホントに高野さんは何に対しても愛情をもって接することが出来る素晴らしい人だよね。この本との距離の取り方も非常に上手い。そして文章がホントに上手い。そして帯などに書かれている推薦コメント。

 「これは日本冒険界の奇書中の奇書である」高野秀行

これは後書きから抜き出した1文であると思われるが、さすがだ。しかし高野ファンを自認する私であれば気付くべきだった。普段の高野さんの、本当に素晴らしい本を推薦するコメントを読んでいる者なら、もっとピンとこなくてはいけなかった。このコメントを読んだときに気づくべきだった。普段のブログやTwitterの文章などで高野さんが本当に心から推薦する本に、高野さんはこんな風には書かない。

一方で角幡さんの帯コメントは、おそらく対談の言葉からひっぱったこの一文となっている。「僕にとっては、この旅は挫折だったんですよ」角幡唯介…という言葉。これも、すっごい分かるような気がする。普段、良い本をたくさん推薦してくれている角幡さんだ。

そしてさらに良く読めば、帯キャッチのコメントも各氏「感嘆」だ。呆れている、と言ってもいい。「絶賛」ではない。

各氏「感嘆」
そして角幡さんと峠さんの対談は、正直必読というほどのものではなかった。内容は面白いのだが、そもそもこの対談は文章が非常に読みにくい。この対談を起した人はどういう人だったのだろうか。編集部の誰かなのであろうか。(例えば高野さんと角幡さんの対談本などと比べたら読みにくいこと雲泥の差だ。もちろんあちらは対談がメイン、こちらの対談は付録という位置なのだが…)

音楽についても、私は基本楽器や歌が上手くない人の音楽は聞くに値しないと考えている。そりゃー、楽器が下手な人、歌が下手な人の音楽が、聴く人の心を打つことはあるだろう。どんなくだらない音楽でも存在価値はある。それは表現活動なのだから。だが好みの問題で言わせてもらえるのなら、私はそれらを好きにはなれない。それと同じで、この対談は非常に読みにくく好きになれない。

と、ひどいことを書きましたが……女は女に厳しいのだ。冒頭にも書いたけど,そういう人たちはだいたい魅力的で、人に迷惑をかけながら、自分のやりたいことを実現してしまう。それが凡人には悔しいのだ。とにかく自分の近くにはいてほしくない人たちだ。あぁ、ホントに私って心が狭い。でもこんなにしてまで冒険をしたいと思わない。この旅が終わったあと角幡さんが単独行じゃないとダメだと思ったのは正しいと思う。こんな大人になったら終わりだ。

ちなみにこの旅の後の後日談も収録されているのだが、帰国した峠さんは借金を返すべく頑張る(当然だ)。が、隊長は仕事もせず、峠さんのヒモ状態。そしてまたニューギニアに1人で犬を探しに行ってしまう。峠さんのお金で… ありえない。そして峠さんは隊長と別れた後もヘンな男に係って、自分の財産を失う。現在は民間療法の医師?か何かと結婚してるらしい。まぁ、幸せならいいと思うけど。

いずれにしても本とか文学とか言えるレベルのものではない。エピソードがおもしろいから、とりあえずすいすい読み進めるが、何も考えていないことこの上ない。言っちゃえば「子宮で冒険」みたいなことか。確かに冒険はものすごいと思う。が、これだったら私は普通の人間社会でまっとうに真剣に生きている人の本を読んで感動したいと思う。

厳しいかな。でも女は女に対して厳しいのだ。しかし少なくともこういう本を出したところで、冒険や探検といった行為に、世間の理解が深まるとはとても思えない。

このあと女性探検家の本がたくさん控えているので、お楽しみに(って誰も楽しみにしてくれないと思うが)。よってリンクは角幡さんのこの名作だけにしておきます。生きているとは何か、冒険とは何か。本当にすごい本だと思う。本を読むならこういう本を読まないとダメだ。



PS
いや〜 探検はそもそも女には無理なんじゃないか、とも思えてきた。引いては人生を深く考えるのは女はダメなんじゃないか…とも思えてきた。しかしこの峠さんが悪い、というのではない。峠さんはこういう生き方しか出来ない人なのだと思うし、これはこれでいいのだ。が、問題はそれを助長する周りの存在だ。これを、この形態で本として出す、ということだ。

PPS
角幡さんがブログでこの本のことを紹介している。こちら。