グリーンランドから帰って来た。昨日はもう急ぎで足りなくなった公演チケットを北とぴあに届けたり、緊急の仕事を片付けたりするのに忙しく、今日になって、やっと洗濯機を2回回して、部屋を掃除して、冷蔵庫にあれこれ詰めて、やっとホッとしたところ。で、「おつかれ様でした〜」とか「エイプリルフールから長かったですね〜」とか「これから心がポッカリでしょう」とか、あちこちからねぎらいの声をかけてもらう。
いや、いや、いや、いや! 実はこれは終わりではない。ここからいよいよ私の壮大なプロジェクトが始るんです! 久々に熱く語るので、すみませんが、ちょっとおつきあいください。出張から戻るとたいだい大きなエネルギーを与えられ、やる気満々になることが多いんだけど、今回はまた格別。こんなに濃い出張は本当に久しぶりだった。
このブログを読んでくれている方なら、もうお分かりのように、今回の出張は、ウチの新しいアーティスト、ナヌークに彼らの国で会うためだった。
昨年3月にたまたまデンマーク大使館さんからの紹介で彼らと出会って、私はすっかり彼らの音楽と、音楽に対する真摯な姿勢に私は夢中になってしまったのだ。
グリーンランドで見た音楽フェスティバル |
バンドとの出会いは恋愛に非常によく似ている。ナヌークは、クリスチャン・エルスナーとフレデリック・エルスナーの兄弟のソングライターを中心としたバンドだが、音楽はグリーンランド語100%の歌詞と、シンプルで妙にオールドスクールなエフェクター使い(初期のU2みたいだ)、1つの楽曲の中で何度も行われるリズムチェンジ、兄弟の息のあったハーモニーが特徴だ。昨年O-WESTでやったショウケース公演は素晴らしかったが、実はこのバンドと決定的に恋に落ちる瞬間は、その翌日にやってきた。
翌日はいわゆるプレス。媒体取材日で、ラジオから雑誌まで、彼らは国の代表として非常にがんばってくれたが、インタビュー中に音楽評論家の松山晋也さんが、こんなことを彼らに聞いたのだ。「グリーンランド語で歌っていて、他の国の人に通じると思いますか」と。
そしたら普段はとてもシャイなクリスチャンが速攻で答えた。「絶対に通じる」、と。この答えを聞いた時、私はこのバンドと恋に落ちた…♡ このバンドは私のバンドだと確信したのだった。こういう瞬間って、どのバンドともあるんだけど、本当に意外な瞬間にやってくるのだわ、いつも。
ちなみにヴェーセンとの出会いの決定的瞬間は、その前年に来日したアンビョルグ・リーエンのひと言だった。ラウーとの決定的瞬間は、その前年に無印良品の仕事でレコーディング・スタジオにやってきたマーティン・グリーンが履いていたブーツだった。…と、このようにバンドとの恋愛はホントに本人しか理解できない、いや本人すら理解できない…ある日突然やってくる。この辺は長くなるので、また今度書くが、とにかく出会いって、いつもホントに不思議なのである。
そしてナヌークがすごかったのは、そこからの展開だ。昨年3月の来日の後、6月に彼らを訪ねてノルウェーの僻地での音楽フェスティバルに行こうと計画していたら、詳しい経緯は省くが、それはあれよあれよという間に某所からの招待旅行になってしまった。結果、私は幸運にも3カ所の北欧のフェスティバルを取材が出来、さらに私はジャーナリストの仕事も得て、憧れの音楽雑誌に記事を2つも書かせてもらった。こういう風に、持ってるバンドは、私までもさらに先へと進めてくれる奇跡を与えてくれる。こういう縁というか、運みたいな事が、実はこの仕事においてもっとも大事なのだ。いや、それはどんな仕事でも一緒だと思うのだけど。
思えば私の最初のライブ制作はケンソーだったが、あの時ものケンソーを手伝う人も私以外にいなかったし、私はライブハウスウのブッキングをした事すらなかった。が、結局ライブは成功しライブCDも制作できた。今の私がライブ制作でご飯を食べているのも、あの公演のおかげだ。そしてあの公演もケンソーでなければありえなかった。そんな風に「私の」バンドは、いつでも私を新しい領域に常に押し出してくれる。
ナヌークのクリスチャンが飼っているワンコ |
この2週間、エイプリルフールからの流れは、自分でやっていても面白かった。なんとかナヌークに対するこの気持ちをインパクトがある形で、ここを読んでくれているお客さんに伝えたかった。実際はもっと期間を短くしてシャープなやり方の方が良かったよね。そんな反省は次回に生かすとして、とにかく昨年夏の間から板橋の植村直己記念館とか、上野動物園でロケーションしまくり、バカな写真をブログに載せることで「あ、またバカなことやってる」と笑いを取りながらも、翌日本当にグリーンランドにいるという展開に持っていきたかったのだ。このアイディアを思いついた理由の1つに、グリーンランドの犬ぞりは4月がベストだという理由もあった。もちろんナヌークのライブがグリーンランドであったのも理由の1つだが。
いずれにせよ、彼らと真剣に仕事をするのであれば、その仕事を本格的に始める前にグリーンランドには絶対に一度行かねばならないと強く思っていた。これから私はこのバンドを新聞やラジオや第三者に売り込むにあたり、グリーンランドについて熱く語れる説得力を持たねばならない。
でも例えばアイルランド音楽を紹介していても、北欧の音楽を紹介していても、実は現地に行ったことがないのに、その文化を紹介する事を仕事にしている人は意外なほどに多い。反対に現地にしょっちゅう行っているのに、文化を紹介することをしない人も多い。つまり行くことがイコール仕事になるとも限らない。またしょっちゅう行ってる人が力強く語れるとは限らない。が、私には行かなくても語れるような器用な真似は絶対にできない。
そんな事を考えていたら、アイルランドに初めて行った頃を思い出した。91年の事だ。当時はアイルランドも情報が少なく、行くまではやはり何もわかってなかったことがたくさんあった。
今回の出張レポートの中では、犬ぞりの投稿が、1番インパクトあったみたいで、アクセス数を見ると1番多かったが、現地で私にとって一番重要だったのは、彼らのグリーンランドでの毎日を知ることだった。一緒に仕事をする相手の普段の生活環境や、物事が決まっていくペースなどを知ることはとても大事だ。ここがつかめてないと、こちらは訳もなくイライラしてしまう。そして彼らのペースやいろいろなことにこちらを合わせていかないと、一緒に仕事は出来ない。そしてそうすることが、この仕事の醍醐味であり、私なりの文化交流だと思っている。
仕事場にグリーンランドコーナーを作った |
ここからが本当のスタートだし、本当のイバラの道だ。思えばここ数年、自分は自分の予測範囲の中でしか仕事をしてこなかった。「これならお客さんに受けるだろう」という安全牌の中でしか仕事をしてなかった。それを人は「仕事」と呼ぶのかもしれない。でも、ナヌークは今まで私がやってきたどんな音楽ともまったく違う。ここ数年、ペッテリ・サリオラ、ウォリス・バードなど自分の真ん中のものとは違うものをやって、それらがどれも上手く育ち継続できる結果が生まれていることも、新しいことに着手するきっかけとなった。
とにかく頑張ろうと思う。50になってまだ自分の中にこんなパワーが残っているのかとちょっと自分でもびっくりしている。人はおそらく「無謀だ」「馬鹿だ」と言うだろう。そう言われた時は、答えよう。本当にその通りだ、と(笑)
そもそも今のところナヌークには「これは素晴らしい。私が絶対に応援します」みたいな音楽業界の偉い人が誰も付いていない。普段なら公に発表する前に音楽評論家の先生とか、媒体関係者に相談するんだけど、誰に相談してもナヌークは「難しいだろうね」と言われる。こんな案件は初めてだ(笑)。
おそらくこんな無茶をするのは、これで自分の仕事史上、最後かもしれない。でも、自分でも楽しみにしてるんだ。これからいったいどんな展開になるのか。
というわけでナヌークを、まずはプロモーションで来日させる事になりました。バンドではなくて、クリスチャンとフレデリックの2人です。実は11月にウチの20周年公演を作るのだけど、まずはこれに出演してもらいます。11/5、6。場所はduo MUSIC EXCHANGE(デカい)。他の出演者はもちろんもう内定しているのだが、これから発表予定。この辺の経緯も、また後で詳しく書きます。
自分の事ばかり書きすぎた…。とにかく私は今までにないとてつもない大きな新しいプロジェクトに着手しようとしている。どうぞこれからも、あきれずお付き合いください。
彼らの代表曲「AI AI」何度聞いてもホントに素敵な曲だと思う。
さて、その前にまずはフルックのツアーだ。 ツイッターではチラチラ言ってきたが、実はフルックの公演にはオープニング・アクトを仕込んである。自分でもすごいと思う、意外なアーティストだ。ソロ・シンガーだけど、絶対にお客さんにはびっくりしてもらえるはず。明日の深夜24時に発表する予定なので楽しみにしててください。
さてここから頭を切り替えて、フルックまではフルック一色で行きます! そしてこれが終わったら11月の20周年公演に向けてゴー!!!(笑)