新日本フィルの生オケ・シネマ:チャップリン「モダン・タイムス」に是非!





本日、新日本フィルの生オケ・シネマ:チャップリン「モダン・タイムス」の前ふりトークショウ「泣いて!笑って! チャップリンの知られざる魅力」がありまして、私もそれに参加してきました。が、なんと時間を間違えて2部から参加という…あぁ不覚!! でもすごく良かったので内容をまとめます。

ぜひもう行かれる予定にしている方も、ご覧いただければ幸いです。なおこれは野崎が録音もせずメモったものをベースにしているので、勘違い/誤解あれこれあるかもしれません。そもそも映画もチャップリンも良く知らないし…何かありましたら、それはすべて野崎の責任ですので、ご了承ください。また間違いを指摘してくださる方、歓迎です。

お話はサウンド&ヴィジュアル・ライターの前島秀国さん。

というわけで、すみません2部から。チャップリンの音楽について。

なんとチャップリンはビートルズがヒット曲をばんばん出してた時代に、This is my song(「伯爵夫人」A Countess from Hong Kong)を2週連続チャートインさせたとか…



そしてこちらも大ヒット。Bound for Texas(「偽牧師」The Pilgrim)より



「都会みたいなゴミゴミしたところじゃなくてテキサスに行きたいな」という音楽。これも作詞作曲チャップリン。歌うのはマット・モンローで、このころはまったくの無名。でも4年後007の「ロシアより愛をこめて」で大ブレイク。しかもこの曲はビートルズのジョージ・マーティンのプロデュース作。つまりジョージ・マーティンはビートルズでばんばんヒット曲を飛ばしながらも、当時こんな映画の仕事をしていた、というわけ。

そして1964年にはサーカスという作品で、曲、作詞、歌も手がけるチャップリン。79歳、これが最後のヴォーカル録音。



いいよねぇ〜これ!! 「Swing little Girl」「いつも上を見て漕ぎなさい、っていうメッセージの歌。下をみてたら虹を見つけられないよ」と。(歌詞もシンプルで素敵でいいねぇ〜、チャップリンは!!)

他にもライムライト「テリーのテーマ」なんかも大ヒットしている。これは泣けますよねぇ、ホント。

さて一方で、今回の指揮棒を振るカール・デイヴィスについて。映画音楽の作曲家でもあり、チャップリンの音楽の指揮者として有名。以前にも新日フィルで「町の灯」をやったことがある大ベテラン。一般の音楽ファンにはポール・マッカートニーの「リバプール・オラトリオ」の共作者として知られている。このドキュメンタリー、すごい面白い。特に実際作っているシーンが見られる、これ! すごい。2:23あたり以降に注目。



カール・デイヴィスは、いわゆるゴリゴリのクラシックの人ではなく、エンタティナーであり楽しい人。映画音楽をよく振っており、ポップス・オーケストラなんかとの共演も多い。ちなみにこちらはPROMSでのゴーストバスターズ。御大、自分で叫んじゃって、楽しい!



こちらはジェイムス・ボンドのテーマ。



例えばチャップリンの「街の灯」などは、もともとの映画のサウンド・トラックが非常に音が悪い。それを復元するのがカール・デイヴィスの仕事。まずはこのボクシングのシーンとか…(1:26くらいから見てください)



これが音楽がクリアだとフルートがちゃんと聞こえて軽やかな動きをフルートで表現しているのが分かる。ところが映画のサントラだと、まったく籠ってしまって、よく聞こえない。当時は音を録音する技術が今ほどなかったのだが、音楽がクリアだと、そのシーンにおけるギャグもさらに生きてくる。またロマンチックな少女とのシーンではハープが効果的に使われる。

ちなみに当時録音においては、オケは映像のスクリーンをみながら、みんなで笑いながら演奏していたそう。

「モダン・タイムス」において名曲「Smile」は5回出て来る。4回目まではそれぞれが夢、希望のシーン。最後の5回目だけは夢を失い,職を失い…というガックシ…のシーン。それでも諦めずに2人で行こう、というその意図もこめて再び「Smile」が使われる。

ちなみにこの曲のアレンジを担当したデヴィット・ラクシンとチャプリンの会話の記録によるとチャップリンはこの曲を「プッチーニみたいな曲にしよう」と言っていたのだそう。つまり元曲はこれ。



確かに和声とかが似ている。でも、それ以上に「ある晴れた日に(蝶々夫人)」と同様、「夢を見続けよう」というメッセージが「Smile」とちょっとつながりますね、と前島さん。なるほど。




とにかく「モダン・タイムス」のサントラも、「街の灯」ほどじゃないけど、音がよくない。当時は60人くらいでレコーディングしていたのだけど、マイクはたったの1本。

それなのに作曲に4ケ月半、録音に6週間かけているという尋常じゃない時間の掛け方だった。前島さんによると、現在のハリウッドでもこんなに時間をかけない。現在の日本の作品などは1日,2日で録音してしまう事もしばしば。そのくらいチャップリンは、音楽の細部の細部にこだわった。上は貴重なレコーディングの様子をとらえた写真。

例えば当時の指揮者のアフレッド・ニューマンなどは、あまりチャップリンが細部にうるさいので、途中で指揮者を降りてしまったほどだと言う。



ちなみにチャップリンは当日アメリカに亡命していたストラビンスキーやシェーンベルグ、アイスラーなどとも仲良しでこんな写真も残っている。左がチャップリン。真ん中がシェーンベルグ夫妻。

ちなみにシェーンベルグはチャップリンの音楽を聞いて「映画は素晴らしいけど音楽はダメ」と発言したらしい(笑)

いずれにしても、そんな風に音楽に細かい指示をまで出していたチャップリンだけど、当時の録音技術では、彼の望みを実現できなかった。そして、今、本来チャップリンが望んだ音楽で再現するのが、この生オケ・シネマのコンセプトだ、ということ。

実際生オケ・シネマにおいては、音と映像のシンクロが非常に難しく、指揮者はホントに映画を知り尽くしていないと上手くいかない。チャップリン財団の方であまりに各指揮者/オーケストラのクオリティが低いので、認める指揮者以外、こういう企画をやってはいけないこととなり、今、世界でチャップリンの生オケシネマを振れる指揮者は、たったの4名。カール・デイヴィスはその貴重な1人。だから現時点で、世界最高水準の演奏になることは間違いなし、ということなのだ。

生オケ・シネマはオーケストラもみんな泣いちゃうし、一緒に笑ったりしちゃう。そんな風にみんなで楽しく見て、体験するのが、映画本来の楽しみ方なんですよ、と前島さん。

うーん、なるほど! やっと生オケシネマの意味が理解できたような気がする。これはホントに楽しみ!

それにしてもこんなに巨大スクリーンで見れるんですよ。それもすごい。下はトリフォニー・ホールさんのfacebookページより、スクリーンテストの様子。


公演の詳細、チケットはこちら。私も2回目の回にお邪魔する予定にしております。

PS
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