bar clear all


2016年6月17日金曜日

探検文学の金字塔、高野秀行「西南シルクロードは密林に消える」読みました

おもしろい。本当に心から面白い本だった。最初の1ページから、最後の1ページまで、本当にわくわくドキドキ、最高に楽しんで読めた。

高野秀行さんのファンは、これを最高傑作にあげる人が多いけど、何故なのか分かったような気がする。確かに私もこれが一番好きかも。

高野秀行さんは今、もっとも注目されているノンフィクション作家である。最近出た納豆本も大ヒットに。いよいよ時代が高野さんに追いついたのかもしれない。早稲田大学探検部出身で、語学の天才で何カ国語もしゃべれて、探検部時代の探検を書いた「幻獣ムベンベを追え」をはじめ、多くの名作を生み出した。近年ではソマリアの知られざる現状を描いた「謎の独立王国ソマリランド」も大変面白かった。

どちらかというと高野さんの探検は珍獣発見とか、納豆とか、ソマリア見たいな誰も知らない(興味を持たない)そして誰も行かないところとか、そういう探検が多いのだが、「西南シルクロード」は割と正統な探検に近い。ジャングルを抜けて、反政府ゲリラに運ばれながら(「運ばれながら」ってのが大事)、国境を越えて(これがなんと無断で)、そしてなんと言っても、ちゃんと目的地まで地上移動で踏破している。

なんという探検だろう。探検家はすごい。納豆本にも書いたけど、これは登山家には出来ない仕事だ(もちろん登山家さんは登山家さんですごいんですよ)、そして研究者にも出来ない仕事だ(もちろん研究者は研究者ですごいんですよ)。このやっぱりあくまで「探検家」だってポジションがホントに素晴らしいと思う。

そして本人も本のエンディングで書いているし角幡さんもどこかで書いていたが、この「運ばれて行く」感が高野さん独自のものなのだ。高野さん、すっかり現地にとけ込んじゃうんだもの。実際,見た目もすっかりカチン人になっちゃってたらしいけど…(ほんとにそういう記述には大爆笑)

それにしても、わかる。この本が角幡さんに「新聞記者なんかやってる場合ではない」と思わせた、すごい本ってことが。そして、すごい、すごい、すごい内容なのに、読んでいて笑いが止まらない。時々電車の中で読んでても、ぶっと吹き出してしまうほどだ。そこがホントにすごいと思う。1つには、高野さんがいろいろ自分に起こる災難を自虐的に面白おかしく書くからなのだが、そこに加えて現地人へのキャラクター描写やニックネームの付け方とかが、最高だからだろう。ホントに抜群のセンスだ。なんか高野さんの場合、人を見つめる視線に愛情があるんだよね。「親指姫」とか「エピキュリ大尉」とか、妙なニックネームつけちゃうし。かと思うと同行した仲良しのカメラマンさん(途中帰国しちゃったけど)は、ずっと「森清(もりきよし)」ってフルネームだし(笑) 

角幡さんの本が自分の内側へ内側へ何かを突き詰めていくような内容なのに対して、高野さんの本はホントに、なんというかオープンなのだ。出会った人たちとの心の交流みたいな事は、角幡さんの本には滅多に出てこない。よく仕事で嫌な相手を見つけたら、心の中で変なニックネームをつけてユーモアで乗り越えろって言うけど……いや、高野さん、すごい。ユーモアにあふれるこの文体で、本当に楽しく読者を一緒に旅に運んでくれる。っていうか、私たち読者はいいのだ。安全なところでこの本を読んでいるわけだから。これを…本当に実行しちゃってる高野さん、すごい。ホントにすごい!

そんな本の中で、時々「文明という重力にさからう」とか、もう響きまくる名言があちこちにちりばめられているから、この本はあなどれないのだ。角幡本もそうだけど、探検家は何かを見つけに行って、そこで当初の目的ではない、別の真実に近い何かに出会う。うーん、この「西南シルクロード」、蛍光ペンもってもう一度読んでみようと思う。ホントにすごい本だよ。

そして重要なのは、こういう本を書く事によって「西南シルクロード」というものがどういうものか、ということを、おそらくどんな研究本よりも分かりやすく,実感として伝えてくれているのだ。「難民」とか「部族」とか「ゲリラ」とか「民族」とか「文化の違い」とか、そういうのが、新聞記事とかジャーナリストの人が書くレポートとか研究者が書く本とかよりも、うんと実感として掴める感じがするのだ、高野さんの本読んでると。

そして最後に書かれた「旅の記憶」。あぁ、もうホントにすごいよ。旅の記憶は絶対になくならない。人々が生きて、そして同じ時間を共有することがある限り。

それにしても、ものすごい事の連続で、そんな中で高野さんも「絶対になんとかなる」とか100%思ってないよ。いつだって小心者で、ビクビク恐がりながら、眠れない夜もあるし、お腹こわしたり、気絶したり、身体が動かなくなったり、「なぜこんなところにいるんだろう」って、きっと何度も思ったに違いないよ。……でもなんとかなってしまうのがホントにすごい。きっと、こういう経験値を重ねて、人は探検家になる=真実に一歩近づくのだ。あなたも私も…というか、誰もがこんな旅をしてみたいと思っている。誰にでも出来る事じゃないけど。

うーむ、これが名作「西南シルクロード」か。本当にすごい。最高にすごい。唸るばかりである。



PS
今,続いて「イスラム飲酒紀行」ってのを読み始めたのだが、これがまた死ぬほど面白い。っていうか、おそらくギャグ度、おもしろ度では、高野本の中でピカイチかも。やばい。