映画「沈黙」を観ました。神様は本当にいる。



観ましたよ。ついに観ました。すごい作品でした。遠藤周作の原作はすさまじいまでの傑作ですが…それを映画化した話題のスコセッシ映画「沈黙」

2時間40分の長編。長いのがナンかなーと思いながら行ったけど、最初にそれを覚悟したら長さは気にならなかった。とにかく原作に忠実にエピソードが綴られていった。

迫害されていたキリシタンの物語。先に日本に渡り転んだ(宗教を諦めた)先輩神父を探しに2人の神父が海を渡る。そこで見た物は想像を絶する逃亡生活。ものすごい拷問を与えられながらも、決して改宗しない隠れキリシタンの村人たち。すさまじい状況下、なぜこれほどまでに我々がの神は「沈黙」をつらぬいているのだろうか…という物語。そしてこの本の最後では、それに対する明確な回答が得られる。(…と私は思う)

神様はほんとにいるのか…という単純な興味から、この本を高校生の時に読み(国語の授業で一部が紹介されたという事も大きい)、大変な衝撃を受けた。中学〜高校とほんとに本を読まない子供だったので、『沈黙」は唯一私が読んだ本だったかもしれない。そのくらい思い入れのある原作だ。

俳優は全員素晴らしいです。アンドリュー・ガーフィールドは良かったし、特に日本人俳優さんたちが素晴らしかった。通訳の浅野忠信には落ち着いた格好良さがあり、多くの人が褒めているキチジロー役の窪塚洋介は圧巻だし(が、原作みたいに、もっとたくさんセリフをたくさんあっても良かった…っていうか、映画が長いと文句を言う割によく言うよね、私も…セリフがほとんど英語だったから難しかったのかな…)、塚本晋也も圧巻。イッセー尾形は私が想像してたイノウエとは、だいぶイメージが違ったけど(もっと優しいソフトでかつ冷酷な感じのイノウエを想像していた。映画ではユーモアな部分が強調されていた。でもイッセー尾形だもんな、そうだろうな)、あんな感じでも別に良かったと思う。リアム・ニーソンがまったくもって物足りなかったけど、あのセリフと出演量じゃ、しょうがないか…。もっとフェレイラとロドリゴの対話の部分が丁寧に重厚に描かれていれば良かったと思うのだが、あれじゃ短かったな…。あ、また長いって文句言ってるのに、こんなこと言ってるよ(笑)

原作にあるエピソードをすべて入れこもうとして、どうも平らになってしまった感はある。例えばキチジローが「私たち弱いものはいったいどうしたらいいんですか? パードレみたいに強い人はいいんです、私たち弱いものはどうしたらいいんですか」みたいな事を言ってロドリゴにからむシーンとか、フェレイラの「今、ここにいるのがお前でなくキリストなら……(沈黙)明らかに転んだだろう」ズッシーーーーン みたいなところはもっとゆっくり重厚に描いてほしかったかも。あと原作では最後ロドリゴが転ぶシーンにフェレイラはもっと重要な役割を演じていなかったか?

あと原作だともっと「神は存在しないのか?」「どうして黙っているのか」ってのを何度も何度も問うことになっていたと記憶しているんだけど、その「問い」みたいなものがあまり感じられなかったように感じた。それより現状の凄まじさが凄まじすぎて、いったい自分はどうしたらいいんだろう、って事に終始していたような気がする。でも原作では、あの「問い」が、どんなシーンでもまとわりつき、最後の最後に踏んだ瞬間「神様いたよ!! ここに! 今、わかった!」みたいな爽快感があったと思うのだが… オレのあの解釈は間違っていたのだろうか。でもこの物語を映像で追っていれば、映画になったスコセッシの解釈の方が自然ではあるな…と思った。実際あの極限状態じゃ「神様いる/いない」とか、現実離れした牧歌的なこと言ってられん、ってのはよ〜く分かる。スコセッシの「沈黙」では、日本人の信者たちいは神様みたいな絶対神は存在しないと、すでに了承しているような気すらする。その了解の上で自分が救われることを望んでいるようにも思える。遠藤の「沈黙」では、もっと信者たちは単純に「神さまはいるんですかね?」と言っていたように記憶している。(違うかもしれない)

しかし、いろいろ思うところはあれど、この本の、私が好きなシーンたちがきちんと映像化されているのには非常に好感を持った。イシグロ原作の映画を見ても『朗読者」みたいな大好きな本が原作の映画を見ても、原作で一番私が好きだったシーンは大抵抜け落ちている事が多いからだ。自分の解釈というか、感動のツボは、人々と違うのだろうか?(だからウチにはヒットが出ない)…と思うことが多い私にとっては、非常に嬉しい映画であったとは言える。

もしかしたらスコセッシもそういう事は意識したのかもしれない。この本は思い入れが強い過去からの読者も多いだろうし、1つ1つのエピソードもドラマチックだから、ちゃんと入れておこう、と。一緒に日本に来た牧師が海で処刑される信者を追って殉職するシーンや(あれは本の中でも圧巻である。でもあんな風に棒でつつくよりは、もっと波間に彼の頭が消えて行く…そんなイメージだったのだが)、キチジローを囲む多くのエピソードは原作でも大変ドラマチックなシーンで、それらがきちんと描かれているのには感心した。でも井上に始めて会うあのシーンも、あんな明るい太陽の下でだったんだ、とか。とにかくもう記憶と違う部分が多すぎた。そして自分が完璧に忘れていた、かなりの重要エピソード(川で水を飲むシーン)も映画ではくっきり描かれており、それもショックだった。オレの記憶、まったく当てにならないやん…?!(笑)

そして本よりもかなり明確なエンディングも…ちょっと抵抗があった。が、映画にするのであれば、あぁいうエンディングでなければいけなかったのだろう、とさえ思わせるスコセッシの腕はすごい。でも、それにしても踏み絵から聞こえる神様の声は「神様の声」ではなくロドリゴの自分の声であって欲しかったかも…な。神「踏んでいい」じゃなくって、ロドリゴ「踏んでいい、と神は言った」みたいな…さ。うーん、難しい。でも原作をまったく知らない人がこの映画を観たら、どう思うんだろうね。

原作はほんとに好きで何度も何度も読んでいたのだが、あの最後の漢文みたいな部分は私はあまり好きじゃないし、いろんな意味で本文のドラマチックさと比較したらさほど重要ではないと思うので、映画にするんだったら、本文の終わり=映画の終わりで良かったようにも思う。私が映画の制作者だったら、そうする。転んだあとのロドリゴの生活はなんとなく想像がつくし…。すでにこれだけ映画が長くなっているというのに、最後の部分は、スコセッシ監督は重要だと思っているのだろうか。もしくは私が面倒くさいから(難しいし)1度目を通しただけで深く読み込むのを諦めてしまった、あそこの部分にもっと私の知らない重要な何かがあるんだろうか? うーん、もう一度読まないと駄目だな。

ただ映画の感想をネットでググっていたら「人の考え方は変えられない」みたいな妙に単純な感想を書いていた人もいて… うーん、そういうことじゃないだろう、とも思ったりもした。これはロドリゴ個人の信仰心だけの話ではない。そうではなく、神様がいるかいないか、それを問う話じゃなかったのか? 何はともあれネットをググるとホントに大量の映画の感想が出て来て、うん、やはり語りたくなる映画なんだな、とは思う。

とにかく間違いなくスコセッシが原作に対して愛情をもって制作しているのは事実だ。それは素晴らしいと思う。私もこの原作を何よりも愛した読者の1人だ。おかげで自分の中で好きなシーンから、好きなセリフから、何から何までがっつり感想が固まってしまっている。

単純に言ってしまえば、私はこの本を読んで「神様(宗教)は、人間を許すために存在している(そうあるべきだ)」という確信を掴んだ。いろんな解釈があっていいと思うが、私はそう信じているし、あの本が好きな人の多くはきっとそう思っているだろう。

あと、一番残念だったのは、自分があれこれ考えて原作のこと思い出しながら見ていたので、おどろくほど映画に入りこめなかったことだ。あれだけドラマチックな映画なのに、もったいない。もう一度見ないとダメだな、こりゃ。

それから、まったく話はかわるが何度も出て来た「日本は沼地(Swamp)だからキリスト教は根づかない」というセリフ。外国文化を紹介することを生業にしている自分にとってはいたく響いた。日本流にアレンジしないと根付かない。宗教すら、そうなのだ。音楽だってきっとそうなんだろうな…。確かに多くの人が期待する「こうあってほしい」というアイルランドや北欧を再現するのは気持ちがいいことだろうけれど… うーーーん(笑)

PS
あと長崎でロケができずに台湾ロケになっちゃったのがもったいなかったね。なんで長崎だめだったのかな… 台湾関係のクレジットがエンドロールに誇らし気にたくさん流れてきて、ホントに残念に思った。

PPS
で、ここまで書いて気付いた。「沈黙」ってなんか角幡唯介さんの「雪男」本の話に似ているかも! あの本を読むと分かるんだよ、雪男は絶対にいるって!(笑)

PPPS
しかしここんとこ,全然映画を観れてない! ホントに忙しい。試写状がたくさん無駄になっていく… やばい。ちゃんと観て感想書かないと、もう案内もらえなくなっちゃう! スコセッシの「沈黙」は昔お世話になった方も係っているので、もっと褒めないといけなかったかな…と思いつつ。自分のお金で行ったんだし、正直な感想を書きました。でもこの映画、すごいよ。素晴らしいことは事実です。絶対に観に行って、いろいろ考えてみて。

PPPPS
このブログを読んだ方からカトリックなので牧師ではなく神父では、という指摘あり。訂正しました(2017.1.27 0:04時点)

PPPPPS
結局、映画を観たあと本を再読しました。こちら!

映画もすごいけど,本はもっとすごいぜよ。必読。私の人生の本NO.1。