ICE STATION講座 第13回:五十嵐正さん(2)

さて、好評いただいておりますICE STATION講座。現在は、伝統音楽ファンの方もよくご存知の五十嵐正さんにお話をうかがっております。第1回目に引続き、2回目のはじまり、はじまり…

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のざき「ピーターについては、どうですか? これ(R.E.M.の本)読むとピーターってリード・ギターの人ではないじゃない? それがいいよね」 

五十嵐「オレ、98年に「R.E.M.語録(原題:R.E.M. in their own words)」って訳したの知ってる?」

 のざき「えっ、何それ,知らない!!」

 五十嵐「もう何年も前に絶版だが…」 

のざき「でもアマゾンで中古であるんじゃない?」 

五十嵐先生翻訳の「R.E.M.語録」。ググったら、なんとアマゾンで現在高値更新中。



のざき「全然知らなかった! みんな仕事しているなぁ」(と失礼な野崎) 

五十嵐「この本に引用されているピーターの発言で、ギターの話なんだけどさ、例えばライヴとかだと最前列のピーター側で一生懸命ピーターの手元をみている男の子とかいるんだよ。なんとかテクニックを盗みとろうとして。だけどピーターは“ごめんよ、みんな。 CとD、Gだけなんだ”っての。いいだろ?!(笑)」 

のざき「(爆笑)ピーター、かっこいい!!」

 そういえば最近音楽雑誌にこんな記事も「もっとも充分な評価を受けていないロック・ギタリスト10名」

五十嵐「(ピーターは)いわゆるテクニカルなギタリストではないからね。まあ、もう長くやっているから上手くなってはいるけど…。でもR.E.M.のいいところは、ピーターとスタイプがミュージシャンらしいミュージシャンではないところなんだよ。それに対してビルとマイクのリズム・セクションはバンド経験がたくさんあって、いわゆるバンドマンらしいバンドマンだった。そのバランスが非常に良かった。ビルとマイクは若い時からカヴァー・バンドでオールマンやったりブルーズを演奏したりもしていた。南部出身だからね。一方でスタイプは、パティ・スミスとか聞いて“これならオレも歌えるか?!”って……そんな感じだからさ」

のざき「なるほどね。あとタッドに是非語ってほしいのは、R.E.M.の社会的な活動の面。確か、トランプに反対するアーティスト100曲みたいなキャンペーンに、R.E.M.も曲を提供していたでしょう あとマイクのTiwtterもほとんどアンチ・トランプ発言で埋められてて、あんまり仕事…というか告知の話とかしてない。せいぜい自分のやったインタビューをRTするくらいで」 

五十嵐「オレがピーターにインタビューした時はちょうど2000年のゴアとブッシュの揉めた選挙の直後だった。あの時もゴアが総投票数では勝っていたのに、ブッシュが大統領になっちゃったんで、多くのミュージシャンがいろいろ発言していたけど、インタビューで印象に残ったのは、共和党のブッシュになって、社会保障とかの予算が切り捨てられていくだろうから、“僕らがこれまで以上にチャリティに力を入れ、もっとベネフィット・ショウをやって、その目的のためにお金を寄付して、政府がやらない分を埋め合わせる努力をすることが必要だ”とね。そういったことを言ってたね。自分たちのできることに関して、具体的で素晴らしいなと思った。 88年に『Green』出した時も、ちょうどデュカキスがブッシュ(父)に負けた時で… あの時もがっくりしていてもしょうがないので、励ますような意味で明るいトーンのアルバムを作ったって話だったな。結局のところ音楽で出来ること、出来ないことってあるから、でも、今回の選挙は難しいねー(と、ひたすらトランプ批判、選挙結果分析など、あれこれ)そんな中でミュージシャンが何を歌うか…だよね。(そしてトランプ話は続く)。今や世界は、安倍・プーチン・トランプの悪の枢軸だからね!」

 のざき「でも良い音楽が出てきそう」 

五十嵐「いや、オレは音楽がたるくても平和な世界がいいよ…」 

のざき「まったくですな。でもジョージアなんて、めっちゃ保守的なエリアだけど実際はどうなんでしょうね」」 

五十嵐「実はアセンズはジョージア州でもカレッジ・タウンだからリベラル寄りなんだよ。5万人のうち2万人とかが学生なんだよ。テキサス州でオースティンだけがリベラルなのと一緒」

 のざき「ふーん。アメリカは分断されているなぁ」 

五十嵐「やっぱり大学とかアート系の学校とか、ミュージシャンとか。そういう人たちが多いと、リベラル寄りになるよね。でもそれは“点”だから!」 

のざき「で、“面”のところは全部、自民党っていうか、保守ってことか…。日本と一緒だね。しかしミュージシャン、あれだけ頑張ったのにな…」 

五十嵐「でも、今回はあまりミュージシャンは動かなかったでしょ、ここ数回の選挙と比べると。一番ミュージシャンが動いたのは、大挙して「Vote For Change」ツアーをやった04年だったよね。それこそスプリングスティーンとR.E.M.が一緒にツアーしたわけだから。イラク戦争が切実だったからねえ。今回の問題は、そもそも誰もトランプなんて勝たないと思っていたでしょ。みんな賭けを外したからね。しかしNever Trumpって言ってた共和党の連中はいったいどこに行ったのかね!? オレはそれを声を大にして聞きたいよ」

のざき「ピーターなんかはバンドの中においては、政治に興味なかった方みたいだね」 

五十嵐「ミュージシャンは何か発言すれば、叩かれるからね。発言する時に、相当な覚悟はいるよね。それは分かる。スタイプとかマイクは、覚悟してやっているんだけど… ピーターはそれよりも音楽をやっていたいんだよ。今も誰かが発言すると…批判コメントがすごいわけよ。もう本当にすごいからさ。特にネット時代になって、個人が個人に直接絡むようになった。そういや、リッキー・リー(・ジョーンズ)もはっきり意見を言う人なんだけど、Facebookを最初パーソナル・アカウントで始めちゃって、その後人数が増えてきていわゆるFacebookページ作ってね。みんななるべくそっちに行ってくれ、パーソナル・アカウントはもう消すからって説明してるんだけど…それでもそこにトランプの支持者とかがわざわざやってきてイヤなコメントを書き込むわけよ。で、彼女も“あなたの意見は尊重するから、お願いだから私のアカウントにまで来てやるのは止めてくれないか”って言ってんだよ。そしたら、またそこに噛み付く奴もいる。ホントびっくりするよ」 

のざき「発言するのはホントにリスクが高いってことなんだよね…。いやな世の中になっちゃったよな」 

五十嵐「でも、R.E.M.はあんなにビッグなバンドになったのに、筋を通し続けたバンドだったからね。パール・ジャムとかも“R.E.Mのようにやればいい”って見習ったわけだからさ。社会的な発言もしつつ、レコードをたくさん売る人気バンドっていうは、多くのバンドの生き方のお手本になったよね」

「しかし、今度再発される『OUT OF TIME』ってワーナー時代の作品でしょ。バンドが原盤持っているのは知っているけど、今度ユニヴァーサルから出るって聞いてびっくりしちゃった。だってワーナーはものすごい金額払ってR.E.M.を獲得したわけだから」

のざき「でも桁違いに売れてるわけだし、絶対にワーナーもリクープしてるよ」 

五十嵐「いや、96年に契約更新したときに、史上最高の契約金を払ったの。印税率なども破格に良い条件で。ちょうどプリンスと揉めていた時期でもあったんで、やっぱりレーベルのイメージを担保するために良いアーティストを抑えておく、って事もあったんだろうと想像するね。CBS~ソニーが、売れていない時期があってもボブ・ディランをずっと抱えてきたのも、やっぱりそういう理由だと思う。R.E.M.も同じことだよ。ワーナーがそれだけ払った、っていうのは、言わば、レーベルの格を上げてくれるアーティストだったということだよね。若いバンドは尊敬するバンドと同じレーベルのレコードを出したいじゃん。スプリングスティーンだって、自分のデビュー・アルバムのレーベルがディランと同じCBSコロムビアで感激したと言ってたからね」 

のざき「本読んでるとね、今さらながら面白いわ、R.E.M.。この前来た時も結構勉強したと思うのだけど、すっかり忘れちゃってたわ。でもあの時はロビン・ヒッチコックがいたからね」 

五十嵐「ロビン、Instagramによると、猫を飼い始めたみたいだよね…。ところで、今回彼らは、どういう曲を今回やるの?」 

のざき「それ結構一生懸命ツイートしてんだけど、多くの人に伝わってないのよね。よく聞かれるんだわー。ノルウェーの第1回ICE STATIONでのセットリストがあるから、それを紹介してはいるのだけど…」 

五十嵐「R.E.M.ファンの中ではピーターがどのくらい歌うのかって話題になってるぞ」 

のざき「歌うよ。今回カートが来ているのは、どうやらそのためらしいんだ。事情はよく分からないんだけど、ミニー(ミシェル・ノアク)はそう言ってた。私はピーターとスコットが来れば、あとは誰でも良かったんだけどね」 

五十嵐「とはいえ、ピーター・バックとマイク・ミルズの両方が来るってすごいことだよ。そもそもベースボール・プロジェクトにマイクが入ったのも、ピーターがバンドを休むようになってからだからね。2人とも揃って来る、っていうのはすごい。アンコールはR.E.M.か、ドリーム・シンジケートの曲だろうしね」

 のざき「マイクが歌ってる『OUT OF TIME』に入ってる《NEAR WILD HEAVEN》やってほしいんだけどなー。どうかなー。もっと本音を言えばアンコールはグリーンランド人とやってほしいんだけど…」

 五十嵐「グリーンランド人はR.E.M.を知ってるの?」 

のざき「奴らも(グリーンランドに唯一ある)レコード屋勤務だからね。当然大ヒーローだから、もう狂喜乱舞ですよ。もう国を挙げて自分の国のバンドが、世界のロック・スターと一緒にやるのを楽しみにしている。でも彼らには積極性が全然ないんだよな。ボーーッとしているっていうか、なんていうか。それが彼らのいいところでもあるのだけど。アンコール一緒にやりたかったら、自分から提案しなさい、って私は言ってんのよ。彼らに言わせると“向こうに選んでもらって”とかユルい事、言ってるから。そんな事言ってたら、何も進まないよ、このままだとナヌーク1時間やるしょ、セット変えるでしょ、アメリカ人1時間やるでしょ、で、アメリカ人だけでアンコールやって終わるよ、って」

 五十嵐「そうだろうねぇ」

 のざき「とにかくこれは私があなたたちに与えて上げられる最大で最後のチャンスだから自分でなんとかしなさい、って言っての」 

五十嵐「そうだよな。自分たちで練習してきて、キーはこれでいいんでしょうか、とか自分から言わないとダメだよな」 

のざき「おっしゃる通り! 確かに(グリーンランドは)大変な国だとは思っているけど、私は必要以上の同情は絶対にしないし、あの子たちのためにならない。厳しくいかないと。あ、そうそう、ピーターはたぶん“PLAY HOUSE”って歌を歌うように思う。ノルウェーのICE STATIONではそれを歌っていた。実はノルウェーでやった時のドキュメンタリー映像があるんだよ。1時間くらいのやつで、まだ公には見せられないのだけど。のちほどタッド先生にはシークレット・リンクを送ります。基本的にはミニーのストーリーなんだけど、サーミのミュージシャンとアメリカ人たちが共演したりして、すごく面白い。ピーターとかめっちゃ楽しそうだよ。“サイケデリック!”とか言っちゃてさ。でも一番活躍しているのは、やはりジョン・ポール・ジョーンズ先生。マンドリン弾かせても、ペダル弾かせても、最高にクール」 (ノルウェーのICE STATIONのドキュメンタリー映画についてはこちらに紹介を描きました

五十嵐「今回日本ではミシェルの展示とかあるんだっけ」 

のざき「7日から12日までタンバリン・ギャラリーで。随分前にカメラマンの石田昌隆さんが写真展やったところ。で、この後のICE STATIONはすごいんだ。次は白夜の北極で何かやるらしくSUN STATIONって呼ばれているプロジェクトがもうミニーの下で動きだしてる。あとミニーの家の1階でサーミのアーティストが録音したりとか…。今後もいろいろあるみたいよ」 

五十嵐「楽しみだよね。そうそうツアーだけど、オレは京都にも行こうと思ってるよ」

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ICE STATION、開催までもうすぐ。渋谷と京都で公演があります。

2月7日 京都 磔磔
2月9日 渋谷 WWW
2月10日 渋谷 WWW
詳細はこちら http://www.mplant.com/icestation

with ナヌーク、カート・ブロック、ピーター・バック、スコット・マッコイ、マイク・ミルズ、リンダ・ピットモン、スティーブ・ウイン


PS
こちらは五十嵐正さんのすばらしい著作の数々。特に「ヴォイセズ・オブ・アイルランド」「アコースティック・ギター・ディスクガイド」にはTHE MUSIC PLANTのアーティストのインタビューも多数紹介されていますよ。