「泣いて!笑って!チャップリンの知られざる魅力」第1弾にお邪魔しました

さて今日は、この春行なわれる墨田トリフォニーホールの「生オケシネマ:街の灯」に先立ち前島秀国さんがチャップリンの魅力を存分に紹介してくださる企画「泣いて!笑って!チャップリンの知られざる魅力」というトークショウにお邪魔してきました。

以下は私がメモった事で、もしかしたら前島さんのお話に対する理解に間違いがあることがあるかもしれません。ご指摘ある方,是非。

まず前島さん的チャップリン初心者にお薦めの名ギャグシーンをご紹介。

今回生オケシネマで上映される「街の灯(City Lights)」(1931年)のボクシングのギャグ。戦いたくないのにボクシングの試合に出場させられるチャップリン。コミカルな動きが笑えます。



そして「黄金狂時代(Gold Rush)」(1925年)の雪山のシーン。小屋ごと崖から落ちそうになるシーン。(動画が見つけられなかったので画像を貼っておきます)












そして前回上映になった「モダン・タイムズ(Modern Times)」(1936年)の昼食のシーン。


音楽もすべてチャップリンが書いていて、とても素晴らしい。「モダン・タイムズ」で有名なのはこのエンディングのシーンですね♡ 何度見ても泣けるわ…


ここのところ…間違いなく彼女に「スマイル(笑って)」って言ってますよね!







そして「独裁者(The Great Dictator)」(1940年)これはヒットラーがまだ生きている頃に作られた有名な映画。有名なスピーチシーンにはデタラメなドイツ語が使われている。これが爆笑もの。このドイツ語、すべてデタラメ。でもちゃんとドイツ語に聞こえる(これってのちのタモリさんの外国語ギャグにも通じるのかな…)
     それにしても言葉、セリフに頼らないで内容をここまで伝えているのが本当に素晴らしい。セリフに頼らないで内容を伝えてしまうのがチャップリンの真骨頂!

そしてこちらが有名な「(ヒットラーのそっくりさん)床屋のスピーチ」
 
これほど政治色の強い映画はない。前島さんによれば、この映画をヒットラー自身も2回見ているのだそうですよ。すごいね。なおご本人の反応については伝えられていない。

続いては「殺人狂時代(Mosieur Verdoux)」(1947年)
お金持ちの未亡人ばかりを狙った、保険金目当ての殺人者の物語。


青髭伝説(フランスの童話にあるシリアルキラーの伝説)にヒントを得たといわれているこの話。捕まってギロチンにかけられる時の、チャップリンの最後のセリフがイカしている。「戦争も争いもビジネスじゃないか」「1人殺すのは犯罪、でも100万人殺せば英雄」という強烈な皮肉。One murder makes a villain.  Millions a hero.  これも非常に政治色の強い映画で、チャップリンはアメリカで共産主義者の疑いをかけられ国外追放に。

チャップリンは、とにかくパントマイムの天才だった。自分でスタジオや現像室までも持っていて何度も撮り直しできる状況だったからとにかく完璧主義に拍車がかかったようだ。
子供のころはとても貧しかったチャップリン。お父さんが亡くなりお母さんは精神病院へ。残された兄弟はとても貧しかった。そんな子供時代を反映した(?)映画。「キッド(The Kid)」(1921年)これはコメディではなくドラマ色が強い。

「犬の生活(A dog's life)」(1918年)なども貧しかったころの生活を描いている。チャップリンはすごく貧しかったけど、芸人になりミュージックホールで稼ぐようになる。そしてアメリカ公演をしたさいに映画関係者にスカウトされ映画の道へと進んだ。ちなみに芸人時代によくやっていたのが「ライムライト(Limelight)」で再現されていた「のみのサーカス」のギャグ。

あ〜いかん、「ライムライト」好きなんだよなぁ!! 一番好きな映画の1つかも…これも貼っちゃおう。


実際のチャップリンだけど、女性問題が多い人で、4回結婚を経験。酒場のダンスガールに惚れるなど、とても惚れっぽい。男はつらいよ、にも通じる人。

さて、この映画はご存知ですか?

ロバート・ダウニーjrがチャプリンを演じたチャップリンの伝記映画。ここでもミラ・ジョコヴィッチ演じるティーンの女性と恋に落ちるわけで、チャップリンが結婚した女性はすべて20歳以下だったことからロリコン疑惑もあったようだ。

★ ★ ★

さて、ここからは休憩を挟んで後半戦。「街の灯」以降、自分の映画はすべて自分で作曲するというチャップリン。ミュージシャンとしての才能もあり、ピアノ、ヴァイオリン、チェロなども演奏できたらしい。でも楽譜はダメで、もっぱらアシスタントに書いてもらっていた様子。

いずれにしてもチャップリンの映画は、トーキーの初期で音が非常に悪かった。だいたい35人編成のジャズバンド的なオーケストラを使い、残念ながら音は現在のAMラジオより悪い。生誕100周年の時に、生オケでチャップリンの映画を観るという企画が始まり、これが大ヒット。東京では「街の灯」と「キッド」を上映。そして去年「モダンタイムズ」がすみだトリフォニーホールで上映された。なんといっても、この10年で一番大きく変わったこと。それは映画がデジタルリマスターになったこと。映画として良いものを見せたい。そして音楽はチャップリンが書いたものを忠実に再現したい。この2つの希望がかなった夢の企画が生オケ・シネなのだ。

ここで、オリジナルの映画からの音をブルーレイから再現。そして音を良くしたものと聞き比べ。有名な「街の灯」の銅像のシーンから。



このシーンではギャグとしての音楽が最大限に活かされている。アメリカ国歌が流れるとみんなかしこまる。この繊細かつ大胆な変化が見物。とにかく生オケとなれば、この映像とのタイミングがずれないように合わせるのが本当に大変!! この生オケシネマに行かれる方は、このシーンは注目ですよ。

しかしセリフもないのに、バンコク共通の笑いを誘うチャップリンは本当にすごい!
そして、私がYou Tubeで見つけたこの映像… 前島さんが今日紹介したのもこの映像だと思う(笑) オーケストラの臨場感、そして会場の笑いが楽しい!!(笑)同じく銅像のシーンです。


万国共通の笑い。それを今のニ十世紀の今日、体験してみよう、ということ。コンサートを黙って聞くのではなく、笑って聞いてほしい。家でおとなしく見ているのとは違う。生オケシネマの体験はそんな素晴らしいものなのです。

特に前述のボクシングのところなど生オケで比較してみるとフルートとピッコロの蝶が舞うような感じがよく表現されている。そして女性になでてもらうシーンはハープを使うとか。とにかくチャップリンの映画では、音楽がとても重要なのです。

さて「街の灯」(1931年)はチャップリン演じる放浪者が目の見えない花売りの娘を援助する物語ですが…


この出会いのシーン最高に素敵! でも実はこのシーンは映画史上もっとも問題のあるシーンとされていて、なんと342回も撮り直した!!!?というすごいシーンなのである。なんと1年以上もかけての撮り直し…。完璧主義者のチャップリンのすごい記録である。ちなみにこの出会いの場面のインスピレーションになったのは、前島さんによると1920年代からあったRaquel Mellerという人のシャンソンなんだって! へぇ〜


日本語版もあり、「すみれ」ということから宝塚がレビューで使うことも多かったようだ。チャップリンがこの歌手に惚れ込み、主演女優にして映画を作りたいと思ったのが、この映画制作のきっかけだったらしい。

最終的に彼女には断られ、今度は手あかのついていない素人を使おうとした。 が、まったく演技経験のない新米女優さんは目の見えない様子をうまく表現できない。撮影は難航したようだ。ちなみにメイキングの映像も残っているそうで…



前島さんが紹介してた映像を私もYou tubeで、見つけた! すごい。いずれにしても、この有名なシーンは1曲のシャンソンから生まれているわけで、「街の灯」において音楽はとても重要だと断言して良いでしょう。

さて今回生オケ・シネマで指揮をするティモシー・ブロック氏は、チャップリンの音楽の世界的権威。チャップリンの楽譜は、70年前のジャズバンド用なので、とても演奏しずらいのだけど、それを復元し、楽譜を整備したのが、このティモシー氏。前島さんは以前ウィーンで彼の「偽牧師」の演奏を見てとても感銘を受けた、とのこと。映画の出演者の繊細な息づかいが、音楽でさらにヴィヴィドに表現されている。生オケで映像を見ると、チャップリンが伝えようとしていたことの繊細な部分まで分かる!

さてここで、ティモシー・ブロックさんのインタビュー映像の紹介。ティモシー氏の話によると、とにかく一般の人たちはチャップリンをコメディアン&映画監督という形で認識し、作曲や音楽の演奏をやってたことを知らないことが多い。でも彼の映画において、彼がいかに音楽を重用視していたかは誰もが分かると思う。彼の生活は、子供の頃から音楽に囲まれていた。楽譜は読めなかったけれど音楽が大好きで、楽器はとても上手かった。「チャップリンが俳優になったことで、音楽業界は重要な音楽家を1人失った、と言って良いだろう」

チャップリン財団の遺族たちに「モダンタイムズ」の楽譜が、なんとかならないかと相談を持ちかけられた。そこで、オリジナルのスコアをオーケストラの生演奏用に復元しよう、と試みた。(ここでチャップリンのオリジナルスコアの映像が!)

「どうやら赤鉛筆がチャップリンのメモのようである」とティモシー氏。 またチャップリンはものすごいメモ魔で、アシスタントが書いた楽譜の上にデカい自分のメモをがつんと貼付けちゃう(笑)それはランドリーのレシートだったり、レストランの伝票の裏だったりもしたそうだ。342回の撮影同様、音楽に対する指示も大変細かく,完璧主義者だった。


とにかく前島さんいわく、チャップリンの映画を振るのにこれ以上のベストな指揮者はいないので、この機会を決して逃してはほしくない、とのこと。そして「街の灯」はけっしてノスタルジーだけではなく現代にも通じる重要なメッセージを運んでいるんだよ、とも。

1つは目の見えない少女が主人公だということ。弱者にたいする温かい眼差しは現代においてもとても重要。なので今回は、なんとバリヤフリー上映をやるそうです。目の見えない人でも楽しめるように画面の説明をいれたナレーション入りの解説をワイヤレスのイヤホンで飛ばすんだって(すごい!)。これは映画上映では始めての試みで、セリフがないサイレント映画だから出来ることでもある。 ふむ。

最後にチャップリンの影響力ということで… いろんなコメディの元ネタになっている事が多いので、その例を紹介しましょう、と前島さん。

この相手と鏡のように向かいあうシーン。チャップリンの「The Floorwalker(替玉)」(1916年)のシーン(12:27くらいから見てください。面白いですよ!!)


これを元ネタにした後の時代の名ギャグ。マルクス兄弟の「我が輩はカモである(Duck Soup)」 (1933年)


こちらは志村けんさんと沢田研二さん(ジュリーすごい!/笑)


というわけで、チャップリンの生オケ・シネマ「街の灯」昼/夜2回公演だけど、昼の方がもう売り切れそうなんだって。通常こういったオケのコンサートは、チケットが1万円以上する。それが6,000円という破格の値段で体験できる!! これは必見!! 5/27(土)お忘れなく! 詳細/チケットのお求めはこちらまで



というわけで、とても興味深いお話でした。前島さん、プランクトンの皆さん、Li-Poさん、ありがとうございました&おつかれ様でした! 本当に上映が楽しみです〜


PS
ところで私の大好きなフラハティの「極北のナヌーク」これもティモシー・ブロックさんのスコアで見つけた! すごい!! ますます映画がヴィヴィドに蘇る。