やられた…ケン・ローチ「わたしは、ダニエル・ブレイク」観ました。超おすすめです!



「ラ・ラ・ランド」が最高の作品か最低の作品かというネット上の議論がすごいので、早急に自分も観てそれに参戦しようと思っていたのだが(笑)いや、それより前に観なきゃいけない映画があるでしょ。

ってなわけで、行ってきました。ケン・ローチ新作「わたしは、ダニエル・ブレイク(I, Daniel Blake)」

やられた… ケン・ローチはやはりケン・ローチだった。御年80歳。こんなにストイックでパワフルな映画をつくるなんて… やるなぁ! 「天使の分け前」「ジミー、野を駆ける伝説」も最高だったが、これはホントに何かを伝えたくて表現している人にしか出来ない作品だと思った。正直、ストーリーは超シンプルで複雑さがあまり感じられず、映画としては結構プリミティブな方だと思う。なんとなく始まりの時点で、終わり方も想像出来てしまう。そんな話だ。

でも、なんというか、もう始まったところから、英語のアクセントに悶絶。ケン・ローチ・ワールド全開だ。主演の俳優さんがとにかくいい。本職はコメディアンだそうで、脚本や演出も手がける多彩な人なのだが、とにかくリアルなのだ。こういうおじさん、もしかしたらあなたの近くにもいませんか? 驚くことにこの俳優さん、映画出演は初めてなんだって。隣人の若者の交流とか、お決まりの回答しかよこさない合理主義の公務員たちとの戦いとか、システムの外に取り残された正義感にあふれる男性を演じるのだが、これがもうなんというか超リアルで超適役なのだ。

そして私たちは気付く。ここで描かれていることは英国だけでも日本だけでもなく世界中で間違いなく起こっていることだ、と。彼らは真面目に働いてきた。今,欲しいのはただただ人間扱いして欲しい、それだけの事なのに、私たちの社会はそれすらも出来ていない。

ケン・ローチ監督お得意のリアリズムも真骨頂。この問題に対しても何度も何度も取材を重ね、脚本に取り入れた。例えばケイティが空腹に我慢が出来ず缶詰を開けてしまうシーンは監督がエジンバラで聞いた実話だそうだ。ケイティ役の彼女もめっちゃ良かったし… そうそう、公務員として働きながらも親身になるあまり上司に起こられる相談員の女性の押さえた演技も良かった。彼女のなんとかしよう、という気持ちもビシバシ伝わってくる。

この映画を見終わったあと次の場所に移動しつつ電車の中で映画の感想をTwitter検索していたのだが、人の感想を読みながら、またまた泣けてしかたなかった。

この映画の配給会社が、映画を観た人たちがケイティやダニエルをサポート出来るようにチャリティをスタートさせた。「ダニエル・ブレイク基金」 この会社が上映権を持つ30年の間、ずっとこの映画を見た人から50円ずつ寄附をする、というものだ。でもこれに対する監督の言葉がいい。「彼らは良くやってくれたと思う。So well done to them but ...でもチャリティは不公正を隠してしまうものでもある。不公正の是正が最終目標であることを忘れてはいけない」いや、最高だわ、ケン・ローチ。

音楽は社会を変えられるか…ってテーマで映画を宣伝したこともあったけど(笑)、いや、少なくともケン・ローチは本当に映画で人々に伝えようと思っている。そして社会を変えたいと思っている。そういう自分の作品を信じている。 これはそういうパワフルな映画なのだ。私はこういう映画が大好きだ。

しかし「ジミー〜」が比較的さわやかな未来ある終わり方で、「天使の分け前」がコメディだったこともあって油断しておった…。「やった! 新作!」と出かけていった自分が甘かったわ… ただただやられた。

字幕に1カ所指摘が。いわゆる貧困層の典型的なメニューである「スパゲッティ・オン・トースト」とケイティが言っている箇所が「スパゲッティ・トマトソース」と訳されていたような気がする。見間違いだったらすみません。

とにかく絶対に観てください。 素晴らしいです。