さて、この秋、ライコー・フェリックスの公演で、お世話になる田中泯さん。まったくもって勉強不足な私は田中泯さんのことを必死で勉強中。知れば知るほど深みにハマる…(笑)
で、この本ですよ。うーん、なんというかこの本は読むの時間がかかった。でもそれは良い意味でのことで、お二人の話すことを1つ1つじっくりかみしめないと、先に読み進められないからだ。だからなんだか、とってもじっくり読みました。そして、それは、とても有意義な時間だった。
対談本だから、分かりやすい面もあり、いや対談本だから響き合っている2人が共鳴しあってる事が、読者であるこちらでは簡単には掴めなかったり…等々、いろいろあるんだけど、この化学反応はこのスゴイお2人でないと不可能なことなので、やっぱりスゴイと思ったのでした。(ホント語彙がなさすぎる駄目な自分、反省/笑)
それにしても私はこういう文化というか、いろんなことを知らなすぎる。泯さんは、そんなわけで今、とっても勉強中なんだけど、松岡さんの名前は初めて知った…という、このバカものぶり(笑) でも知らないことを知ったかぶりする人が多い音楽/芸術業界はキラいなんだよね… なので知らない事ははっきり知らないって言う事にしてるんだ。じゃないと、返って失礼だと思うし。それにしても泯さんの世界は哲学的とでもいうのかな… いろいろ響きまくりました。この本の中にとにかく響く箇所が何カ所もあるんだけど、たとえば数カ所紹介すると…
例えば松岡さんから「土方さん(泯さんの師匠)からは戦争の話は一度も聞いた事がなかった」とふられると、泯さんが「なかった。僕は『地を這う前衛』の中で「土方巽に風景を見なかった」ということを繰り返し書いたんです。「風景を見た」と思ってしまったら、時代論や世代論のワナにはまるとおもってた」(これ、めっちゃ深い!! そして響いた)
「こういうことだと思うんです。私は「時代」に生まれてきたんだろうか、「私」として生まれてきたんだろうか。時代がこうだったから私はこうなったといってしまうのは、ぼくにとっては風景なんですね。それは絶対に言いたくない」(響く、響く、響く!)
(観客の感想について)「質問というより“私はこう思いました”“あなたの踊りをこう見ました”と主張したいという人がすごく多いなと思った」「ぼくはその意見のすべてに“あなたは正しい”って言ってやりましたよ」
(足の裏から得られる感覚について)「ぼくたちの足というものは、そういう場所でかつて踊っていたという古代からの感覚のなかに相変わらず生きているんじゃないかと思いましたね」「クラシックバレエで、トウシューズというものを履きますね。あれについてぼくはこれからじっくり考えてみたいなと思っている」「美の方に先走って、何かの試みではあったのだろうけど、“踊り”という点から考えると、決定的に捨てたものがあるはずじゃないかと思いますね。あれを“踊り”と呼ぶかどうかということから、ぼくにはなんか引っかかっていますね」
(アニー・リーボヴィッツの撮影について)「シャッター音そのものは好きですよ」「たいていは“遅いな”と思う」(こいつは「早いな」と思った人います?という質問に)「アニー・リーボヴィッツとか」「アニーが撮る前に、スーザン・ソンタグがアドバイスしていたらしいんだね。田中泯にポーズをつけてはいけない」(←くーーー、すごい女芸術家同志のかっこよすぎる会話!)
「カラダってのはやっぱりすごいんですよ。ぼくは細胞たちのギルドの結束力によってささえられているというのかな、そういうカラダのなかにたまたま居候させてもらっているというかな。そういう私の居場所のようなものとしてカラダのことを捉えているところはありますね。それによって“命”というものを自覚する」(これって、自分の身体や健康を大自然とする私の考え方にも似てる)
…ね、読むのに時間がかかるでしょう?(笑)なんていうか、文字ずらは読めてなんとなく理解してても、じっくり噛み締めたくなるのよ。これはそういう本だった。
私たちはとにかく日々、周りの事に振り回されている。でもふとこんな風に思考を飛ばしてみたら,その振り回すいろんな事が本当は小さい事だってことに気づくだろう…。なんというか、こんな風に考えながら生きていたら、一体どんな風に世界は私たちの目に映るようになるんだろうか。泯さんの観ている世界を私たちも観てみたい。そう思って、私たちは泯さんの踊りを観るんだと思う… いや、泯さんの世界は観る…っていうより、体験する、って言った方が近いわけなのだけど…。
「勉強」と思って何度か観客としてうかがったplan-Bでの泯さん、そして石原淋さんのダンスは圧倒的だった。こんなに自分の普段みてる世界と切り離されるなんて… ちょっと思考が飛ぶ感じ? 上手く言えないけど、とにかく自分の身体の中の細胞が元気になる感じ。こんなすごい泯さんの世界を教えてくれたフェリックスに感謝。
うーん、この本、もう1度読まないと、これだけの世界観を自分のものにすることは出来ないかもしれない… いや、自分のものにするなんて偉すぎるな。ちょっとだけ実感するというか、なんというか。自分の中に入れて行くというか、なんというか。とにかく2回目に読む時は、じっくり温泉に1週間つかって、日々の面倒から解放されながら、じっくり読みたい…と思った。なーんて、こんな事言っているうちはダメか(笑)
いずれにしても、ホントにこの仕事は面白い。こういう新しい世界を知ることが本当に楽しく、どんどん深みにはまっていく。泯さんとフェリックスのステージが本当に楽しみだ。今でも信じられない。ウチがこういうすごい公演を主催する、ということに!
ライコー・フェリックスと田中泯さんの公演、11月8日(木)です。詳細はこちら。もちろん、このちらしの「地を這う前衛」は泯さんの言葉からいただきました。泯さんの本はもう1冊読んだので、そちらもまたご紹介していきたいと思います。