許すことの大切さ。それはハードなことだけど。

また観ちゃったよ、この映画。




しかしこの字幕上手いなー。1:18の「ライアン・エアーでは何でも有料なのよね」 というセリフを「気前のいい航空会社ね」と訳したところとか(ライアン・エアーとかヨーロッパ出張した事ない人は知らないでしょう)、1:39ごろの「Because of the size of the portions 食べものの一人分の量が多い」みたいなところを「だってアメリカ育ちよ」とかするところとか。少ない文字数で、適格。

実は新規クライアントさんにアイルランドのことを知ってもらうため、いくつかアイルランド映画を紹介したのだが、それを調べるにあたって、あれこれ自分のブログを見直してみたらまた観たくなったのだ。いや〜この映画、ホントにいいね。(以前書いた感想ブログはこちら

まぁ,アイルランド・ファンでこの映画を観ていない人はいないと思うけど、あらためて紹介すると過去アイルランドでは、未婚の女の子が妊娠すると強制的にカトリック教会が運営する収容施設(だいたいは洗濯/ランドリー屋だった)に入れられ、子供は取り上げられ、そのうちの一部はなんとアメリカに売られていたのだ、という話。(50年前の話といっても、最後のカトリック洗濯屋は96年まで存在していたというのだから驚きだ)

フェノミーナは主婦だが、50年前にそんな風にして生き別れた息子のことを娘に告白。娘はこの話をジャーナリストのマーティン・シックススミスに持ち込む。最近BBCをクビになったばかりのマーティンは、普段ロシア専門で「ヒューマン・インタレスト」はやらない主義だったがフェノミーナの話に惹かれ、調査を進める。アイルランド人の主婦のおばちゃんとオックスフォード卒業のエリート・ジャーナリストの笑えるロード・ムービー。結末は悲しいのだが、とても力強く、光を与えるものだ。最後フェノミーナが教会に与える「許し」Forgiveness。これが圧巻。道中二人がどんどん仲良くなっていくところが心を打つ。

主演のジュデイ・ディンチがとにかく可愛くて最高。彼女、アイリッシュをルーツにもつけど本来は医者の家庭に育ったお嬢さんで超セレブなのに、キュートなアイリッシュのおばちゃんを見事に演じ切った。

映画ではフェノミーナのノン・インテリ度が超・笑えるのだけど(いきなりセックスや生理現象に対して赤裸々な話をしたり、くだらないロマンス小説やテレビに夢中になったり/笑)、加えてBBC制作でイギリス人の俳優たちによって演じられていることもあって、試写で一緒にこの映画を観たプランクトンのK松くんは「アイルランド人の可愛いおばちゃんがあんなにバカにされているのが許せない」と映画を観てプリプリ怒っていたが(ホント、K松くんっていい奴!!)、確かにそんな部分もあるのかも。でも、このおばちゃんの太陽みたいな素敵なキャラクターに、インテリ・ジャーナリストが惹かれて行く様子がたまらないんだわ。ホント、この映画を観て、フェロミーナを好きにならない人はいないだろう。

太陽みたいで、正義感が強い。フォロミーナが強く怒るシーンが2ケ所あって、1つはアメリカでウェイトレスに横柄な態度をとるマーティンをしかるところ、そして最後クライマックスで修道女たちに自分の怒りをあらわにし「せめてあやまったらどうだ!」と詰め寄るマーティンに、おばちゃんが「これは私の問題」「私は許す」と言う。そのシーンのおばちゃんの強さと優しさは、多くの人に感動を呼ばずにはおれない。

ジャーナリスト役のスティーブ・クーガンも本当に最高。彼はコメディ畑の人らしいのだけど、ホントにいい。そしてこの歳の差コンビ!  演じているだけではなく、クーガンはこの映画の製作に深く係っておりプロデューサーも勤めている。この話をガーディアン新聞の記事で読み、惹かれ、フェロミーナに実際に会いにいったそうだ。スティーブが最初に訪ねてきた時の様子を聞かれた本物のフェロミーナさんは「素敵なジェントルマン。でも私が観る古いタイプのコメディとはちょっと違うのよね」なんて話している。

そしてクーガンは早い段階からジュデイに是非この映画に参加してほしいと話し、いろんな人を巻き込んでいったのだ。(あぁ,映画って、こういうプロセスが本当に感動的)

しかしこの映画、今あらためてあれこれ調べれば、制作陣、出演者陣がホントにフェロミーナに対して、尊敬の気持ちを抱いていたところが成功の秘訣だったのだと思う。脚本をスティーブと一緒に担当したジェフ・ポープによれば「フェロミーナに会った時、彼女は私は許す、別に教会の悪い面を告発したいのではない、とずっと話していた。一方彼女の娘のジュディは私は絶対に許せないとずっと怒りをあらわにしていた。この2つの対比を映画ではフェロミーナとジャーナリストのマーティンに移し替えたんだ」と話す。

ジョディ・リンチは、撮影前に何度も本物のフェロミーナに会いランチをしたそうで「彼女の話を小さくしてはいけないが、オーバーに語りすぎてもいけない。私たちはこの物語を多くの人に知ってもらう責任がある」と強く語る。そして「彼女のユーモアのセンスには本当に感服してしまった」とも。

また監督のスティーブン・フリアーズには、彼らよりうんと後にこの企画に参加したらしく、この企画をクーガンに持ち込まれ「僕はユダヤ人だし、これは僕の世界の話ではない。しかしながら本当に素晴らしい話だ」と言ったそう。そしてクーガンは「彼の映像作品は1つ1つがかなり異なるものだ。本当にエゴがない監督で脚本に奉仕する姿勢が本当に素晴らしかった」と絶賛する。

ただ長さやこのシーンが必要なのか的なことについては監督はウルサかったらしく,最初上のトレイラーでも流れる(1:47くらい)、マーティンが「僕は彼と会ってた」「Helloか、Hiとか言ったかも」みたいなところ。最初フリアーズは脚本でこのシーンを読んで「このシーンいらないんじゃないか」って言ったんだって。でも撮影したら、涙ぐんじゃって「うわー こんなになるなんて思わなかった!」って偉い感動したんだって。そしてこのシーンは予告編にも取り入れられることになったんだから、すごい。

ふふふ、分かる、だって、このシーンの無邪気なジュディ・ディンチと思いのほかイノセントな反応を見せるスティーブ・クーガンが最高だもんね。これは俳優の熱意が監督を説得した例だよね,絶対に!

ホントに俳優陣にプレッシャーを与えない監督さんで、俳優それぞれの個性やパワーを充分にいかす人らしい。フリアーズとの映画は4回目だというジュディいわく「カット!ってかかって、“もう1回やりたい?”とかこっちに聞くのだけど、それって監督がもう1回やってほしいって意味なのよね。絶対に自分から“もう1回やれ”とは言わないの」と話す。ちょっと是枝監督みたい(笑)
 
それにしても良い映画。最後の力強いフェロミーナの「Sister Hildegard, I want you to know that I forgive you」のひと言は圧巻です。「すごく辛い、辛いけど、人を恨みたくないの」とも。でもフェロミーナ、ここで自分の代わりに爆発してくれたマーティンに絶対に固い友情を感じてますよね。そういうのがひしひしと伝わる。本当に素晴らしい。パワフルな作品です。

まだ観てない人は絶対に観てね〜。DVDも売ってるけどAMAZONプライムでも観れます。



さて次回ウチのアイルランドものというと、こちらのバンド。東京公演以外は、まだまだチケット頑張って売らなくちゃ〜  詳細はこちら



PS
こちらのリアルなフェノミーナさんとマーティンがLATE LATE SHOWに出た時のと映像。2,000人の子供が売られていた、と。当時ですら、こんなのは非合法だった。が、カトリック教会は「彼らは孤児だ」としていた。孤児じゃないのに。お母さんがいるのに。