田中泯『僕はずっと裸だった』を読みました

昨年招聘したライコー・フェリックスのおかげで田中泯さんのことを勉強した。その時に読んだ本です。まだ紹介してなかったよね。

「地を這う前衛」のダンサー田中泯さん。初めて田中さんの名前を聞いた時は、まったく分からなかった大馬鹿者の私だが、この共演の話を友達にすると「えっ、のっちさん知らないんですか? キムタクのお父さんですよ!」と驚かれる。

何かのドラマでキムタクのお父さんの役をつとめたらしい。一方で芸術やアートに詳しい友人たちも「おおおっっ、すごいねぇ」と驚いてくれる。『たそがれ清兵衛』がすごいから見てみろ、と言われ今やYou Tubeに数百円払ってレンタルビデオ屋に行かなくても、映画は気楽に見られるから良い。早速観てみた。なるほどこれはかっこいい。

…とまぁ、そんな具合だ。自分は本当に物を知らなすぎる。常に勉強、勉強の連続だ。それが日本を代表するダンサーの田中泯さんの登場ということで、当初かなりビビっていたが、さすが成功されている方は違うんだ。私のような下っ端プロデューサーにもとても協力的で、おかげ様でとても良い公演が作れたと思う。田中泯さん、石原さん、ありがとうございました! またやりたいなぁ!!!

でも私がはっきり過去に見たもので泯さんを覚えているものが1つある。それは大好きなNHKドラマ「ハゲタカ」での「職人的技術屋」のレンズ職人さんの役だ。眼光するどく、顔や表情やいろんなことを妙にクリアに覚えている。(ちなみに「ハゲタカ」は普段滅多にドラマを見ない私が何故見たのか記憶にない)あのすごいおじさんと自分がこれから共演できるかもしれない田中泯さんの存在を知ったときは、正直ふるえた。すごい!と。

それって、名前を覚えているよりすごいことだと思いませんか? 名前わからないのに強烈に演技は覚えているって。その後、田中泯さんの俳優としての活動をなんどかみるにいたったが、どれも強烈。どれもセリフ少なめ(笑)。そして圧倒的な存在感というのは変わらない。どこかで読んだインタビュー記事によれば「自分が共感できる生き方をしている人」「自分でもそうなったかもしれない可能性があった人」以外の役は断っているそうだ。素晴らしいね。

しかしウチのアーティストはみんなすごい。ウチのアーティストがいろんな人をひっぱってきてくれるおかげで、私は世界のいろんなすごい事を知ることが出来る。

というわけで、当然この本も共演が決まってからというものの購入して、さっそく読み始めた。

この本は泯さんファンなら、いや、ファンでなくても読み応えのある1冊だ。山梨日日新聞に連載していたエッセイをまとめたものだという。まず思ったのは、これはちゃんと本にが書いているな、ということ。当然のことのようだが、普通このテの作品はゴーストライター(とまでは言わないけど、いわゆる「プロの」ライターの人が話を聞いて起こすことが多い)が書くことが多いからだ。でも海外から原稿を入れたり、あれこれ記述がありとてもリアル。まるで泯さんとお話ししているような気分にもなる。というか、言葉の選び方がすごくいい。独特の言い回しがあって、それがとっても泯さんなのだ。

特に子供の時、はじめて立ち上がった時の感覚を取り戻したいと内なるものを追求して行く下りがいい。足の裏の感覚。そして重心の感覚。そして土方巽という人。私は舞踏の世界はまったく分からないのだが、そして泯さんがそういった社会から1人抜け出して農業に打ち込むところなど、これって私がいつも思っている自分の身体は大自然の一部っていう考え方にぴったり一致するのであった。そこがまた心地よい。

それにしてもかっこいいんだわ。こんな風にピュアに生きたいと、誰もが思うのはホントに分かるよね。

とにかくお薦め。



あとDVDを少し紹介しておきます。『たそがれ清兵衛』そして、NHKでやってた『ハゲタカ』。大森南朋主役大抜擢のすごいドラマ。最高だった。このドラマは演出がすごい。めっちゃ暗いのだが光の演出が独特だ。あと映画『羊の木』も良かった。田中泯さんの役は元殺人犯なんだけど、最後、田中泯さんの映画で物語全体がぐっとゆるむ。あの瞬間がいい。そしてその笑顔をいつまでもいつまでも覚えている。そしてインドエネシアでのドキュメンタリー。圧巻です。



ライコー・フェリックス。元気かなぁ。本当にすごいフィドルだった。また一緒に仕事したいが、なかなか難しい。でも一度呼べた奇跡に感謝しよう。すごい人を呼んだもんだ…