荻上チキ『みらいめがね それでは息がつまるので』を読みました

装丁が、すっごい可愛い。

表のカバーを取るとこんな感じ

チキさんのエッセイ(暮しの手帳)+イラストはヨシタケシンスケさん

帯の裏に描かれたイラスト。うん、まさにそういう本だった。
荻上チキさんのファンである。ラジオをたまに聞くとすごく興味深いテーマをいつも的確に紹介してらして、とにかく司会をやらせても、ちょっと早口な感じで天才的なキレ味だし、若いけど頭いいんだなぁってずっと思ってたし、今でもそう思っている。こんな若くて、未来も明るくて、認められて成功している頭のいい若者は、きっと悩みなんかないんじゃないかな…と。

だから彼が「うつ」をわずらっていた、という話をどっかから聞いた時はびっくりした。そうか、チキさんも大変なんだ、と。でもそれ以上深いことは知らなかった。チキさんの本は何冊かあるが、SYNODOS以外はちゃんと読んだことがない。だからこの本を読んで初めてチキさんご自身のいろんな悩みとか生活とか、お子さんが二人いらっしゃることとか、その子たちの学校の問題とか、離婚のこととかいろいろ知って、ちょっとびっくりしている。チキさんって、そういった生活は、なんか要領よくソツなくこなし、余計なことを考えずに仕事に没頭し、それで大成功して安定しているようなタイプかと思っていたから。

文章は軽快でとても読みやすい。あっという間に読めちゃうポップな本だ。「暮しの手帖」での連載をまとめたものだそうだ。確かに「暮らしの手帖」のごとく上質な文章で、読み手をひきつけて離さない。

それにしても、休暇がそのまま仕事のインプット時間になってしまうところも、なんかチキさんって私と似てるな、って思った。…なーんて偉そうですが。でも、いわゆる知りたいという知識欲の囚われ人みたいなところは私も一緒だ。この世の中「知りたい」と思うことにこたえる情報量は、とにかくあふれまくっている。なんでもググって確認したくなる。だから知識欲の囚われ人は、もう最速でバタフライで情報の海をおよぎまくりだ。なんか意味のない時間をすごすのがいやなのだ。だからついつい南の島とか海外にホリディに行くと言う友達に「興味ないわぁ〜、そんなとこ行っても役にたたないでしょ」とか言って嫌われるのであるが、チキさんもそんな感じなのか?(笑) こういう人にとって家族を持つことは正直大変な足かせとなる。だって時間がいくらあっても足りないのだから。というか、家族を「足かせ」って言っちゃうところが、また私なんであるのだが…

それにしても「うつ」とか心の病はつらいよね。身体だけの不調はまだ切って貼ったり、薬飲んだりでかなり効果的な治し方があるのだが、心の方はなかなかやっかいだとは思う。私も自分の人生を振り返って思えば自分自身が「うつ」にならなかったのは、すれすれのところだったよなと思う。実際311のあと部屋を片付けられなくて、ついに引越しを決意するまでは、軽い鬱状態だったのだろうと今ならわかる。片付けられなくて、生活導線だけは確保した部屋に半年ほどそのまま住んでいた。これではいけない、と11月に引越しを思い立って実行した。そこからは、割とちゃんと生活できるようになったが。あの時、引越しは必須であった。あのまま同じ部屋にいるのは、考えられなかった。それに、気付いたら、15年以上も同じ部屋にいたことが発覚した。生活を変えないとだめだ、と思ったのだ。最近においては、治療で入院していた時など、今思えば「うつ」っぽかったのは事実だ。入院している間は、顔を洗うのも面倒で、髪もボサボサなままボーーーっ1日すごしていた。今思えば、たくさん本が読めたのに、ずっとYou Tubeをボケッと見ていた。ゲームもいっぱいした。あれも、もしかしたらちょっとした「うつ」だったのだと今ならわかる。とはいえ正式な病気になるまでいたらなかったのは、私がチキさんと違って不真面目な人間だからこそだ。「ま、なんとかなるわ」みたいな気楽なところや、子供がいない独り身だから自分さえ食えれば、どーでもいいや、ということも大きい。チキさんのように生放送番組をかかえ、小さな子供もいて、責任も重いと、その重圧だけでなんとかなっちゃいそうだもの…しかも真面目な方だし。

…とまぁ、この本を読みながらいろいろ考えた。本当に人間というのは、面倒くさい、要領の悪い生き物なのだよな、と。

「呪いの言葉に向きあう」という章がとくに好きだったので、簡単に紹介すると、人との会話、コミュニケーションについて、たとえば飲み会とかで「好きなミュージシャンは?」「好きな映画は?」などという話題は、知識のマウンティング合戦になりかねないこととか、人の悪口を言えば、それは自分にそのまま跳ね返ってくることとか、何かを褒めるのに何かを嫌いになる必要はないとか… とにかく響く言葉がたくさん出てくる。

もっと気楽に生きようよ、というのは、そのまんまチキさんが一番自分に言いたいことの1つなのかもしれない、と思う。この本はチキさんが自分に向けて書いた本なのかもね。だから人の心に届くんだろうな、と思った。またそれぞれのコラムの最後にのっているヨシタケシンスケさんのイラスト漫画も味があって、とても楽しい。クスリと一人で笑ってしまったり(笑)。チキさん、応援してます、またラジオを聞きます。ずっと私たちのそばにいてくださいね。