ノンフィクションライター高野秀行さんの奥様である片山ゆかさんのツイートに爆笑。
そして昨日の杉江さんのツイートにも。内澤旬子さんの『着せる女』読了。スーツマジックの言語化と成果の数々、面白かった!なによりファッションの墓場の住人だった夫を大変身させてくれた、この企画に大感謝。夫は今も気を抜くとズルズルと墓場に戻ろうとするが、捜索不能なほど地中深く潜ることは少なくなった。成功体験って重要だ。— 片野ゆか・新刊『平成犬バカ編集部 』11月5日発売 (@yukadalma) February 22, 2020
高野秀行さんとお茶するも、まさかのファッション談義に!なんとお互いの服装を褒め合ってしまった。たぶん偏差値48くらいまでは進歩してるはず。完全に内澤さんの『着せる女』のおかげです。— 杉江由次 (@pride_of_urawa9) February 22, 2020
というわけで、この本である。いやー 笑った、笑った。こんなに楽しく読んだ本は久しぶりだ。爆笑につぐ爆笑で、一人で夜、読んでいて声を出して笑ったことが何度もあった。
いや、私も服については、人のことは笑えないのである。おしゃれ偏差値、私も35くらいじゃないだろうか。いい年をして、本当にいっつもみっともない格好をしている。出版業界もひどいが、音楽業界もひどい。先日も数年前の後輩の結婚式披露宴の写真を見て愕然。ほんと私ったら垢抜けないわ…。なんとかしないとなぁと自分でも反省したのであった。
いや、わかってるのだ。確かどっかでも読んだことがある。年を40超えても垢抜けない人は一度プロの人に見てもらった方がいい、って。わかっちゃいるのだ。でもね、やっぱりファッションや見た目に気を使うなんてバカらしい、と思っているパンクな自分がいるのも事実なのよ。そして気がついたら54歳。垢抜けるタイミングを逃しちゃったのよ。
さとなおさんだっけなぁ、スタイリストつけて選んでもらうのがいいって言ってたの。確かに良いお店にいって、スタイリストさんに2、3パターン、仕事でも使える質のよい服を選んでもらう、っていうのがいいかもしれない。私もたま〜にだけど人前でしゃべったり、またクラシックのホールの表周りで仕事をしなきゃいけないこともないわけではないのだから。それに結構大使館関係のパーティとか行っているくせに、そういう時に着る服も本当に似合ってないのだ。
そもそも自分にはセンスというものがない。自分で買った服より人からもらった服を着ている方が褒められることが多い(そう、私にはなぜか服をくれる友達がいっぱいいる! 小さいからだろうか!?) あとやっぱり北欧ものはいいよね。ブリティッシュものは、本当に着こなすのは難しいけど、北欧のものはちょっとした小物でも映えるから、なんかおしゃれ下手さんにも使えるものが多いし、それによって人から褒められることが多いから嬉しくなる。律儀な北欧の仕事仲間からは、彼らが来日するたびに結構高いマリメッコ みたいな服やアクセサリーをプレゼントされることも多いから、本当に助かる。ツーリスト用のティータオル(ふきん)をくれるアイリッシュのミュージシャンとは大違いだ。(って、ごめんよ。ティータオルも実は大好きで日々すごく重宝しているのだけど…)
いずれにしても、これらの貰い物も本当になんとかせねばいけない。
自分で服を買う時は、せめてサイズのあった服を着ようとするのだが、そもそもチビの私はそこからしてかなり難しい。148cmしか身長がない私は、Sサイズの服でも大きすぎることが多い。また腕が異様に短いので、腕の長さがあった服など本当に皆無なのだ。
とはいえ、ここ数年はせめてサイズのあった服を着ようと5号とかの小さいサイズまで出しているブランドのサイズを覚えて利用していたのだけど、そのブランド(アメリカの通販が強いところでした)も中途半端な価格帯が災いして、ついに日本の市場から撤退することになった。はぁ…あそこの0サイズ、よかったのになぁ。ユニクロのXSも、まずまず良いのだが、やはり腕の長さがあまる。仕方がないから、シャツなどは子供用の服(150cm身長用)なども購入するが、そうすると今度は体型にあわずに胸のところにへんなシワが出たりもする。うーん。でもいつぞや経済評論家の先生が言っていたように、日頃頻繁に着る服ほど高くて質の良いものを買った方がいい、その方が元がとれるという考え方には賛成だ。
それでもファッションなんて「けっ」と思ってた自分のファッションに対する考え方を変えたものが2つあった。そのうちの1つは漫画の『リアルクローズ』。あそこの主人公は最初まったく垢抜けなくて、それでも自分では仕事ができると信じていたのに、部署移動で実際のところは全然だめだめだったことに気づく。新しい部署でどんどんおしゃれになり、かつ自分の仕事の道も恋人もみつけるという話だ。主人公が受ける仕事関係のアドバイスがよくって、私も日々生活の中でよく思い出す言葉が多い。(たとえば同僚の「文句とは動かない人の意見」とか、主人公の上司の「つまらないものを着てるとつまらない人生になる」「大切なことは良い人と出会うこと。そしてその人の期待に応えること」など)
そしてもう一つは映画『ビル・カニンガム&ニューヨーク』。あれは最高の映画だった。NY TIMESでファッションの担当をしているビルは言う。「ファッションは鎧なんだ。あれをなくしたら人間性をなくすのと一緒だ」と。なるほど、と納得した。服は大事なものなんだ、って少し理解が進んだ瞬間である。
だからファッションのことは、ちょっとだけど気になっていたのだ。
そして、実はこの本の冒頭に出てくる講談社ノンフィクション賞の時の高野さんのスーツのエピソードは私も存じ上げていたが(高野さんのブログを読んでいたのかもしれない)、この本を読むまでは、ここまでの詳細は知らなかった。もちろん高野さんのスーツ姿の写真もはじめて見た。か、かっこいい!!
ちなみにその高野さんの講談社ノンフィクション賞の授賞式だけど、同時受賞の角幡さんは見た目がかっこいい、それに負けちゃいけないという内澤さんの記述があるが、角幡さんも高野さん以上にスーツが似合わない人であると私は思う。なにせ肩ががっちりしすぎていて、まるでゴリラだから(あっ、失礼! でもゴリラ好きです)。
それにしても、こうしてスーツを買うおじさんたちの情けない話を聞いていくと私も彼らと変わらないなぁ、と思った。そうだ、わたしはおばさんというより「おじさん」なのだ。
著者の言う
“マスコミにいるほとんどの非お洒落人は、「ネクタイをしないでいらえる自由な職場にいる」誇りを持っているようにみえる”
…するどすぎてぐうの音もでないわ。
“中身だけで勝負できる仕事をしているのは、幸せではある”
そうだ、私たちは幸せだ。そうなのだ。
“多くの日本人男性が、スーツを「着せられている」と思っているのではないか”
著者の考察は学校の制服にも及ぶ。なるほど…などなど。
それにしても面白い本だった。面白いとはまさに文字通り面白い。ぎゃはぎゃは笑える!! この本、男の人より実は女性が読んだらいいように思う。女性に売れるんじゃなかろうか。
この著者は初めて読んだのだけど、ちょっと前に話題になったストーカー本と同じ作者と知ってびっくり。すごいなぁ。あっちは文春の連載でちらっと読んだだけだけど、すごくシリアスで怖い印象だったけど。
一方、本当にこの本は「超・おもしろい!!!」 本当に深夜この本を読みながら、布団の中で爆笑してしまうことが何度もあった。政治家のスーツのくだりにも爆笑。なぜか右寄りの親父たちはスーツが似合う。そして立憲民主党の枝野さんはスーツよりも震災時に着ていた作業着の方が似合っているというくだりにも大笑い(でも枝野さんは最近かなりインプルーブしているというフォローもあったりして。確かにそうかもしれない)。
中途半端なパンク心で「服なんか気にしてないやい」と主張し、間違った方向に行ってしまった出版関係のおやじたち…。そして今や一人で店に入り、服を選ぶのすら気遅れしてしまう。店員さんの目をまっすぐ見れない。まったく子供かっっ?!(笑) でも内澤さんも書いているとおり、ちゃんとした服装って会う予定の相手に対する礼儀なんだよね。私もほんと反省しきりだわ。でも7万円の航空券を見つけて「安い!」とヨーロッパに飛ぶのにまったく迷わないのに、1万円以上の服を買うことには本当に躊躇するからなぁ。まったくなぁ。
そういや、1つ、自分の服で思い出したエピソードが。ロビン・ヒッチコックの当時の奥さんミニーと表参道を歩いている時、本当に東京はおしゃれな人が多いわねと彼女が言うので、私が「まぁ、ここはそういうエリアだし、汚いかっこしてるのは私くらいよねー」と言ったら、彼女は「ヨーコ、そんなことないわよ、あなたもProper rock chicksな格好してるわよ」と言ってくれたのだが、その彼女もそう言った先から「Proper rock "working" chicks」と言い直したのであった。確かに同じロック風ファッションでもスタッフの服装とファンの服装ではだいぶ違う。ありがとう、ミニー。しかし…ほんとだよね…(笑)
あぁ、せめて髪の毛くらいは綺麗に整えたいもんだ。そういやヘアスタイルなんて25年くらい変えてないもんなぁ。
最後には女性のスーツの話も出てきて、これも興味深かった…というか、引き続き爆笑した。政治家のスーツ、確かにワーキングウーマンとしては参考にできる部分がたくさんある。はぁ… 私もバーニーズニューヨーク行ってみようかな。でも10万の航空券はちゃっちゃと買えても、5万以上の服なんか買ったことないもの…
最後に。そんなふうに自虐的な内澤さんとおじさんたちであるが、自分の体を飾ることはわかってなくても、本がどうしたらかっこよく見えるかは知り尽くしたチームである。この本、装丁がめっちゃかっこいい。(そういやファッションを本の装丁で例える話には爆笑した)表紙はもちろんだけど、本文の行間ピッチ(ってなんて言うんだろう)とか、タイトルの入れ方とか、フォントとか、すべてがきっちり計算されつくしてるよね。これは本の内容にさんざんネタを提供した編集者杉江さんの密かな世の中へのリベンジとみた。スーツのことは偏差値低めでも、こんなにかっこいい装丁の本、俺らは知ってんだよ、フン!ってね。いやはや参りました!
内澤さんの本、他の作品も読んでみたいと思う。いや〜、読んでて楽しい本だった。杉江さん、レコメンありがとうございました。杉江さんのTwitter見てると、本が増えちゃって増えちゃって嬉しい悲鳴です。今、読んでいる本も杉江さん関連の本です。読み終わったら感想書きます。
PS
あ、そうそう、高野さんの本によく登場する辺境カメラマンの森さん。実物のお写真をみてびっくり。ぜんぜんイメージと違うよーーー(笑)笑えるー(爆)