なんか分かってるんだ。派手なポップやイベント、フェアなどで派手に作っていけば、作ってる側は「やってる感」を感じることができるんだ、だけどそれだけなんだって。昨今の書店イベントとかも、それ。著者稼働させて、ファンは本人に会えたりお話が聞けるからいいとして、周りは「おっ、盛り上がってるな」って実態知らずに判断して、だけどそれって本当に本を売る行為につながってる?ってこと。長期的なヴィジョンにたってる? そりゃー、本屋から提案されれば、出版社は断れないし、出版社の営業から売り込むことだってたくさんあるだろう。
ウチも同じ感じだ。来日だ、なんだって派手に見えるかもしれないけど、実態はぜーんぜん売れてない。ぜーんぜん(笑)
イベントはへんな充実感があって「やった気」にさせるから危険だ。瞬間風速的な効果しかないこともままある。大きなフェスティバルに決まって「やったー」。でも単独公演をやったらガラガラ…みたいな。まさに「やってる感」だけなのよ。それでもイベントやれば忙しくなって時間がなくなり、忙しさはますから仕事してる気になっちゃう。それを理由に実際の売り場は動いていないなんて、最悪だと矢部さんはバッサリと切る。
そういや、広告代理店の友達が教えてくれた。代理店の仕事は「やってる感」が大事だって。バブルの絶頂期だったよね… でもそれじゃもしかしたらダメなのよ。冷静に売り上げを見て、自分が楽しかったかどうかは別にして冷静に判断するのがプロなのだ、と。これは常々思ってきた。イベントや来日の楽しさに目がみえなくなってはいけません、と。
一方で、矢部さんの仕事はもっと地味だ。でも地味だからこそパワフル。そしてドローンみたいにじわじわと効いてくる。そして、いろいろ視界が開ける。この本を読んでいて、それこそ目鱗なことがたくさんあった。
本はお客が自分で探してレジに持ってくるスタイルなのだ、という基本中の基本を忘れてはいけないことを指摘され、ハッとする。店員にたずねたり、検索までするお客はほんの一部だと。そして「取りやすく、書いやすく、戻しやすい」ことが大事なのだ、と。仕事は自分のカタルシスが目的ではない、ということ。それよりもいかにお客さんの役にたてるか。そんな基本がバンバン出てくる。これ、本屋だけじゃなく、すべての小売業に通じるんじゃないか? というか、どんなビジネス啓発書よりも役に立つこと書いてないか? ちゃんと自分の足元を固めろ、って。棚を育てろ、って。
「ベストな形を自分で承知してやっていないと、忙しさの方向が違ってきちゃう」
「新刊書店は毎日来るお客さんを想定している」
「POPはその書店とお客様の関係の上でこそ効果がある」
「自分が自由にできるっていうことは、逆を言えばそれだけ責任があるということ。それをきちんと背負って仕事する」
「手や足を動かしているからこそ思いつくのかもしれない」
…などなど。響く言葉がたくさんたくさん登場する。
しかしこの矢部さんって仕事中、ずっと走り回っていたらしい。各社の営業マン、そんな矢部さんに並走して営業活動(笑)。なんかわかる! きっとデレデレだらだら仕事しない人なんだよね。いいわ〜。
この本、そんな矢部さんと「本の雑誌社」の編集・営業の杉江さんの会話になってるんだけど(というか、杉江さんが矢部さんにインタビューしていく感じ)、話し言葉で書かれてるせいもあって、すごくわかりやすい。たぶん本を出すことを渋る矢部さんを杉江さんが説得したのかな? 「徹子の部屋形式」でやりましょう、って(笑) 私もよくイベントで話をしたがらない登壇者を説得するのに使うリーサル・ウェポン「徹子の部屋方式」(爆)…って私の勝手な想像だけど。
矢部さん「本を出す? いやよ、私、書けないもの」みたいに言う矢部さんに杉江さんが「僕がまとめますから! 徹子の部屋方式で!」とか言ったとか、言わないとか(何度も言いますが想像です)。でもそれが読者にとっても親切な構成になってる。矢部さんのお話を直接聞いている気持ちになる。あ、そうか、それが杉江さんの狙いか… やるなぁ…
とはいえ、私のような興行師(笑)が矢部さんと同じように仕事しようなんて、きっととても無理。いや、実際マーケットも変わっていくし、矢部さんの発言にも「今は違うのかな?」みたいな言葉が何度か出てくるからご自身も感じていることなのだと思うけど、おそらく、棚を育てることは、今の時代とても難しいと思う。「やってる感」を出すためにイベントだ、フェアだ…と店員の時間はどんどん削りとられ現場は疲弊していく。CDも動かないと発売から2週間で下げられる、とかあったけど、おそらく、今、本のサイクルも矢部さんが現場をやられていた頃よりももっと短い。だからこの本に書いてあることをまんま実践しようとしても、おそらく無理があるし、おそらく不可能だ。
あ、そうそう、意外なスリップの活用法?とかには、いろいろ唸らされた。アナログな…だけど効果的な方法。もちろんハンディマシンが開発されて便利になったという事はあるのだろうけど、どんなシステムだろうと活かすも殺すもの人間なのだな、とおもった。
それにしても、私が本屋やったら、自分の個人的プッシュ本(しかも市場ではあまり売れない)をプッシュ、プッシュ、プッシュして、イベント組んで派手にやって、そのくせ棚はボロボロみたいな状態になっただろう。で、時間かかって疲弊する割には売り上げ全然、みたいな結果になっただろうな。マニアなファンが数名きてくれるかもだけど、書店としてはまったく信頼されない、みたいな。そんな結果になっていたことだろう。SNSに夢中になって、最新情報をしっかり掲載しなくちゃいけないホームページのメンテ忘れてるとか、そういうのにちょっと近いものがある。あぁ、でも本屋をやるとしたら、ノンフィクションならあの店、みたいな看板を作り上げられたらすごいよなぁ。なんだっけ、あの松戸の、高野さんの本を2,000冊だか売った、あの駅前本屋さんみたいな(笑)(あそこは高野本の聖地と呼ばれている。高野本ヒットチャートがあって、高野・角幡対談本が最下位で5冊くらいしか売れてないのを悔しくおもった私はあの店であの文庫本を数冊買ってチャート操作したのだった…。今、チャート何位なんだろう)
あと本屋勤務だからといって本をたくさん読む必要はなく、また店員の個人的感想なんて誰も読みたがならないよ、とドライな矢部さん。かっこいい。一方で、絶対に読まなくてはいけないのは本の「背表紙」だという話にも唸った。うーーん、レコード屋もそうかも!? そしてそれが棚を育てることに直結していくのだ、と。
あと営業を電話で呼び出したりするときは書店にしかわからない情報を伝えてあげて、とスタッフにアドバイスするところとか。これは素晴らしい。例えばこのコーナーより、あっちのコーナーで売れてますとか、あの新聞にのったら急に動いたとか。こういう情報、本当に売ってる方が助かるんですよ! また正しい棚に置くためにも著者プロフィールにはしっかりした情報を載せることも重要、とか。いや、ほんと基本を押さえてしっかりと。すごい仕事だ。
著者、出版社そして営業、そして版元、店頭スタッフ… そういう人の連携プレイがあって、商品がお客様に届くんだなぁ、商品愛がバトンタッチされるんだなぁ、って、私もCD屋さんにお世話になってたころは本当に思ってたよ。大きい会社で言い訳ばかりの宣伝部長や営業部長、現場知らない社長にあれこれ言われるよりも現場の声、本当に大事だよね。
あと本が痛まないように、という件も勉強になった。私なんぞはお風呂で本を読んじゃうタイプなので、本がきれいに保たれているかどうかとかあまりに気にしない。夢中になった本こそ、ページが湿気で波打ってたり、濡れたりした痕跡が残ってたりする。でも矢部さんの細かい努力には本当に頭がさがる。すごいなぁ!!
それにしても物を売るって、店を育てるって、すごく地道でストイックな作業が要求されると思う。でも矢部さん、かっこいい。私も私の仕事スタイルを確立するぞ。けっきょく矢部さんがみんなに伝えたいこともそれなのだと思う。みんなも自分のスタイルを確立していきなさい、って。
PS
今日の元気になれる音楽シリーズ。ヴァン・モリソン『セント・ドミニクの予言』。メアリーがバックヴォーカルを歌っている。ドーナル・ラニーのブズーキも最高だ。よく聞いているとわかるけど、メアリーの「Oh〜」に触発されてヴァンが「Yay!」と叫ぶところ(6:01)。もう何度聴いても、ゾクゾクするよ〜っっ。
メアリーは最初緊張気味で、それでもヴァンから視線をはなさずコーラスをいれていく。このテイク、リハなしの一発だったらしい。ヴァンは、3:42くらいで後方で歌っているメアリーの声を意識しはじめ、ちらっと後ろを振り返る。何度もメアリーの声に呼応する瞬間があるが、この積み上がっていく感じがたまらない。4:50くらいからヴァンはもう自分でギターを弾くのをやめてボディを叩き始める。いいぞ〜、乗ってきた証拠だ。5:36のサビ直前のところでもまたヴァンはメアリーの方を振り向く。思いっきり歌え、ってことか? 最後の6分ごろではあきらかに二人は一緒にお互いを見つめながら歌っている。うーん、これぞミュージシャンシップ。一緒に音楽を作っていく感じが素晴らしい。
PPS
自分用メモ:友達が教えてくれたのだが、矢部旬子さんの『本を売る技術』のあとに、この本を読むのも、めっちゃおもしろそう。『スリップの技法』https://t.co/0PHAtKKbGy— 野崎洋子 (@mplantyoko) February 29, 2020