宮口幸治『ケーキを切れない非行少年たち』を読みました。


売れてんだってねー、この本。いや〜、実際すごい本だったよ。なんだって専門家ってのはすごいけど、これほどすごいものは滅多にお目にかかれない。おすすめです、これ。

ざっくり説明しちゃうと、よくいる凶暴で手に負えない非行少年、少女たち。実は彼らの問題は知的障害の1つだった…という内容。学校は決まったテスト方法で知能指数がある程度あるという結果になれば、知的障害とは認めない。そして普通の教育を彼らにほどこす。それは本人にとってはどんなに大きな苦痛となるか。そんな彼らの苦痛、ストレスとなり大きな犯罪へと繋がってしまうのだ、ということ。

やる気がでない、我慢ができない、未来が予測できない、反省ができない…  すべて彼らが悪いのではない。それはすべて「知的障害」なのだ、とこの本は解く。

犯罪を起こした少年たちは少年院に入れられる。そこで反省を促されるわけだけど、先生は「そもそも反省以前の問題」だと説く。これでは被害者も浮かばれない、と。彼らは計算もできず、漢字も読めない。そういった彼らに対して現状学校は何の配慮もなく、対策もできていない、ということ。

そして、すごいのは、それを分かった上で彼らに新しい認知機能を鍛える教育法(コグトレ)をためしたところ劇的な効果があったというのだ。これはすごい。たとえば… 先生が動物の名前を言ったらポンと手を叩く、みたいなゲームを毎日5分続ける。それだけで彼らにとっては「人の話を注意して聞く」という訓練になると言う。すべての教育にそういったプログラムを加えるべきだと先生は説く。そして脳のその能力に必要な部分を鍛えるのだという。すごい。

そんな風に社会面の支援を厚く。対人スキルの方法、感情コントロール、対人マナー、問題解決力といった社会で生きていくための力をつけさせる訓練が必要なのだ、と。それがないのに「漢字が書けない」というだけで「漢字の練習」ばかりさせているのが、今の教育なのだ、と。

そんな単純なことが?と思うかもしれない。が、そういうものだ。この宮口先生の話によれば、日本の人口の14%はこういう障害があるのだという。つまり35名のクラスで下から5人だ。驚くほど高い数字だ。それでも学校に通っているうちは良いだろう。いったん彼らが学校を離れてしまえば、もう単なる社会の落ちこぼれになるしかない。そうやって社会から忘れ去られた彼らは仕事をしても続かない、我慢ができずすぐキレる、人の話を聞かない等々問題をかかえ、そのまま犯罪者となってしまう。

今、人の教育は、いわゆるやる気を出させるために「褒める」ほうがいいと言われている。失敗ばかりしている人には自信をつけさせていくことだ。努力ができない彼らには、そういった自分が頑張ったから成功したという体験がまったくないので、彼らにはそれが分からない。絶対に成功できるような、小さな成功体験から初めて、それを積みかせねるのが良い、と。でもそれだけじゃダメだと宮口先生は言う。そんな方法は、小学生ならなんとか乗り切れるかもしれない。でも中学、高校ではもうすでにそういった方法は効かなくなっているという。これでは何の問題解決にもならない。

先生は少年院では、こんな子たちが多いのだという。

  •  自分のことは棚に上げて、他人の欠点ばかり指摘する。
  •  どんなにひどい犯罪を行なっていても自分はやさしい人間だという。
  •  プライドが変に高い、変に自信をおっている。逆に極端に自分に自信がない。

これって自分の近くの大人でもいませんか? そして対人スキルみたいなのを訓練するような教育の機会はどんどん減っていっている。

こういった人たちのこころはガラスのように繊細で、本来ならば保護されなくてはいけない状況なのに、気づかれず傷つけられ、被害者になるばかりか逆に犯罪者になっているのだ、と。

皆さんご存知のように、今の日本は本当にダメだ。それは教育がダメだから。社会の構造がダメだからなのだ。一人一人は全然悪くない。これだけ健康で動ける良い人材がたくさんいるのに、それを活かしきることができない社会がダメなのだ。これ、子供を持つ親御さんだけじゃなくて、社会人となって迷って「自分はダメだ」って思っている人、引きこもりになっちゃった人本人に是非読んでほしい。そして、出口を見つけてほしい。でもどうかな… そもそもそう言う人は本もよく読めないのだそうだし…。彼らのストレスは想像してあまりある。

最後に先生は言う。新しい訓練方法を使いつつ「犯罪者を納税者に変えましょう」と。そしてそれは出来る。出来るような気がしてきたよ、この本を読んだら。その経済効果たるや、大きなものになりうるわけで…

政治がダメだから、官僚がダメだからと言ってしまえば、それは簡単だろう。でもこういう教育法、訓練法を使いながらも社会が変化するには、おそらくあと10年以上かかる。長期的な展望にたてない、自分では変われない日本には無理かもしれない。でも、それでもこの本はとにかく目鱗でした。数日前、「ひきこもり」のサポートをする仕事をしている友人の話を聞いたのだが、本当にこの手の研究が進んで誰一人として取りこぼさない社会がやってきてほしい。ありがとう、宮口先生。