西崎憲『未知の鳥類がやってくるまで』を読みました

すごいものを読んでしもた…  ノン・フィクションはたくさん読むのだけれど、わたしはフィクションをほとんど読まない。特にファンタジーやSF系は、嫌いと言っていいくらいである。

ちなみに村上春樹はエッセイはともかく小説はどうも苦手。ファンタジーの匂いがちょっとしただけで、もうダメである。なぜ人間は「セックス」と「死」のことばかり考えているのか。なんで知らない人がお母さんでなくてはいけないのか云々。村上ファンの方、ごめんなさい。

一方で、例えばカズオ・イシグロ。最高傑作はやはり『わたしを離さないで』だと思うのだが、あれをSFと呼ぶ人はとても多い。が、違う。あれはSFなどではなく、圧倒的な人間の物語だ。あぁいうのは、大好きなのだ。あと映画『メッセージ』になったテッド・チャンの『あなたの人生の物語』もよかったよなぁ!!! SFやファンタジーの体を取りながら、人間の本質とか、世界のものすごくコアなところをがっつりと描いている。そういうものが読みたいのだ。で、これも、そんな貴重な一冊だと思った。

この本を読むきっかけを与えてくれたのは絲山秋子さん。絲山さんが昨年の絲山秋子賞にこの本を選んでいたからだ。あまり考えずにポチった。そして読んでみて、こんな世界があるんだ、と読み終わって感動しまくっている。

何より文章がすっごく綺麗だ。こういうゴシゴシ磨かれた日本語、大好き。なんというか、予算2,000万円くらいかけて録音した往年のロックの名作みたいな、そういう作品!!!(読めない漢字も多数あったけど!!・笑)

本当に帯にあるとおり、舐めかけの飴をずっとずっと溶けないように、口の中で舐めていたい、そういう本だった。この本はうちのプラチナ書棚に保管する(普段、読み終わった本は一回読むと人にあげたり、BOOK OFFヘ直行なのだが)。

と、まぁ、褒めちぎってしまったが、最初からなんか予感はあった。「これはすごいに違いない」という直感だけをもとにポチり、そして最初の1作目の出だしの数行読んで「????」となった。これはいったいどういう世界なのか。出典をみるとSFマガジンとかあるので、そっかー、これはSFなのか、と自分を納得させてさらに読み進める。

2作目の図書館はもっとぐっと身近な感じがして、圧倒的に自分の想像も可能になってくる。そして『箱』、続く表題作の『未知の鳥類〜』にくるころまでには、もうがっつり… がっつりこの西崎ワールドにはまってしまった。一番好きだったのは『庭園の昼餐』。意識が胎内に生まれて、そして生まれるまでを描いたすごい作品。これって、ちょっと角幡唯介さんの『極夜行』とペアで読みたいかも!! うーん、すごくないかーーー 『開閉式』もすごくよかったし、最後の『一生に二度』も圧巻。あぁ、なんつー読み応え!!!

角幡さんがいつぞや言っていたように「ノンフィクションは事実を書いて積み上げて真実にたどりつく。でもフィクションはいきなり事実を書かないといけない」。まさにそれ! それが可能になっているすごい本だ。そして真実を書いていないフィクションはわたしは嫌いなのだ。

で、わかった。わたしはファンタジーやSFが嫌いなのではない。真実を書いてない本がダメなのだ。本には真実が書いてないと、わたしには届かないのだ。

この本の読書感想文をググっていたら「なんとなく好き」とか書いている人がいて、きーーーーっっとなる。いや、違うでしょ。これはそう言う文章じゃないでしょ、これ。「大好き」か「大嫌い」かどっちかしかないスタイルの本だと思う。そして私は死ぬほど好きである。

こういう文章が書ける人に音楽のこと書いてほしいんだよな、と思いつつ、同じ著者の『全ロック史』というやつも見つけてしまったので、ぽちってしもた。えらい高っっ! でも楽しみ。

しかし世の中広いなぁ。わたしの知らないすごい作家さんがまだまだいるのだろうと思うと、読むのをやめることができない。


さてそんな読書の日々を過ごしておりますTHE MUSIC PLANTですが、本ばっかり読んでいるわけではないですよ。TOKYO SCREENINGというイベントを2月25日(木)に企画しております。こんな状況下ですけれど、よかったら、是非みんなで集まって音楽を一緒に楽しみましょう!  詳細はこちら。 

同じ会場でみんなで好きな音楽を聴く、あの感じが本当に恋しくって。感染症対策を徹底してお待ちしております〜 ウォリスの真実の歌が聞けるよ。