和田靜香「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」


装丁が最高!!

出版社さんのやる気がみなぎる帯、そして値段も◎!

面白かった! 前からこのブログに何度も書いているけれど、和田さんは間違いなく音楽業界でもっとも文章力があるライターの一人だ。特に女性ライターの中でではトップだと思う。とにかくすいすい読めてしまった。

前から貧乏をネタにした本を書きたいという話は本人から聞いていた。林芙美子の「放浪記」みたいなやつ。でもそれがこういう形で結実するとは! 本当に人生はわからない。

まず装丁が最高によい。モノクロの装丁だが、カバーをめくると和田さんと小川議員の似顔絵が。爆笑。こういうところに編集者さんや出版社さんの愛情を感じるね。値段が1,000円台なのも素晴らしい。値段って、物を売る上で、実はすごく大きい。

不器用を絵に描いたような人のいい国会議員:小川淳也さんの映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」は、だいぶ前にアマゾンの配信か何かで見た。面白かった。政治家って難しいよな…

 

その小川さん、音楽ライターとしてだけでは食べていけずバイト暮らしをしていた和田さんの突撃問答にじっくりつきあい、それがこの本となった。

本を読んでいても、小川さんと小川さんの秘書の方や周りの励ます人たち、周辺の苦労が見てとれる。これ大変だっただろうなぁ。

とはいえ、この本は、最終的におそらく政治家としての小川さんのキャリアにとって、非常に大きなメリットのある内容になっているのではないかと思う。ここに出てくる小川さんの言い分はとても納得できるし、説明も丁寧にわかりやすく、噛み付いたらい泣きついたりする和田さんを相手にじっくり誠実に対応している。難しい政策についての話は私もよく理解できなかった部分も多いが、彼の誠実さは、もうなんというか十分に伝わる。

特に二人でおいおい泣きながら、この難しい世の中を生きていかねばならない辛い気持ちを分かち合う様子は、グッと来た。そしてそれを通り抜けたところに降ってきた和田さんの「これが民主主義だ」という天からのおつげも。うーん、本当に面白い!

でもタイトルがちょっと「釣り」っぽいかなーとは思う。この本が気になる若い人、必要以上に世の中に出ることを心配しないでねよね、とちょっと心配する。世の中、そんな悪い雇用主ばかりではないから。誠実に業務をこなせば、次第に時給だってあがっていく可能性の方が高い。和田さんがやっているバイトの時給がいつも最低賃金だというのも、小川さんが総理大臣になれないのも、その理由は別に存在している。

そして和田さんも小川さんも辛そうなのに、自分の仕事をやめようとはしない。それはやっぱり「世の中をよくしたい」という使命感があるからなのだと思う。いや、でも、本当に本当につらそうだ。辛い。見ている方も辛い。いや、辛いのが好きなのか?とさえ思える。すごい二人だ。

そもそもこれだけ文章力がある音楽ライターが食べていけないのだから、業界も厳しい。加えて厳しいといっても、華やかだった過去もあったりするわけだから、余計に今が辛いというのもあるのかもしれない。いろいろ考える。本当に難しい。

和田さんの「鬱々」も「ひしひし」と伝わる。和田さんの本はコンビニバイトを書いた「おでんの汁に〜」、昔懐かし洋楽が楽しめるロックバーの話を書いた「ロックバー物語」、お相撲ファンとして書いた「スー女のみかた」、湯川れい子先生のことを書いた「音楽に恋をして」などがあるが、その中でもベストの仕上がりだと思う。

和田さん、おつかれ様でした。素晴らしい本をありがとう。そして貧乏ネタをもっと書いてほしい! これぞ時代を反映した大傑作だと思う。今年のベスト・ノン・フィクション3冊に入るかもしれない。