どうもあまり入っていないという噂を聞いて、俄然興味が湧いてきて、見に行ってきました。ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンの半生とムーミン誕生の舞台裏を描く映画『TOVE(トーベ)』。
が、久しぶりの映画館。ついつい気持ちよくなって、最初の3分以降、記憶がしばらくない…。いかん。で、頑張って見たけど、ついつい… うとうと。 が、良い映画だということはわかった。私の、なんというか好きなタイプの作品である。
ただ、これ売れないだろうなーと思った。なにせ日本のおばさんたちに大人気のムーミン・トローレットですから、絶対にムーミン好きの琴線に触れる「ゆるふわ」「哲学」感あふれる映画だと思っていたら、全然違ったんで…
でもビジュアルの選択といいなんといい、この配給会社さん、やるなぁと同時に思った。公開のものすごい前から宣伝を強力に推し進め、フィンランド・ファンは全部すくいあげんばかりの勢い。大プッシュ・プッシュの大プッシュ(笑)。少なくとも私はそう感じた。
おそらくいったん公開されたら内容が地味すぎて、日本人の期待に答えてなくて、ぜんぜん「ゆるふわ北欧」じゃないからヒットしないのは目に見えてる。じわじわ行くプロモーションなんかしても失敗するだけ。
それより頭でぐわっと動員して超短期決戦で終わろうという作戦なんじゃないの?…と勘繰ってしまったほど。良い映画だけど、とにかくじわじわ売れるタイプの作品とは、一線を画している。
が、終演後パンフレットを買い求めたら売り切れていた。やっぱりムーミン・ファンが押しかけて最初のうちは満員だったのだろうか。夕方の有楽町の映画館には私を含め、5人しかお客がいなかった。ここでこんなにお客が少ないのは初めてかもしれない。
…というのはさておき。
主演の女優さん、まっすぐな視線が真っ直ぐすぎてとても素敵。自由奔放な恋人ヴィヴィカもなんだかイメージにぴったり。ラブシーンもとても熱くて素敵。そしてタバコ・タバコ・タバコである。そしてトーベは踊る、踊る。踊るシーンはとても可愛かった。
これは上手くいかなかった若いまっすぐな恋の悲しいすれ違いだ。「あなたを愛している」というトーベに「パリを愛している」と答える恋人。あぁ、いいなぁ、あのシーン。
これがなんというか同じトーベの「半生」でも後半だったら、もっと達観した彼女の力強さみたいなものも出てきたのかもしれないが、なにせ前半だから、なんというかピュアでまっすぐで、そのくせギンギンに尖ってもいて、一方のムーミンはムーミンで単なる夢見がちな若い女の子の「不思議ちゃん」領域をまだ出ていないようにも思える。
なので彼女の人生のこの部分に光をあてた制作陣は、それはそれですごいとも言える。
ところで、この映画はスウェーデン語で制作されている。あまり知られてないことだけど、ムーミンは実はフィンランド語ではなくスウェーデン語で書かれてるって知ってた?
言語はメンタリティを確定するというが、確かにトーベのこの感じはフィンランド人というよりもスウェーデンっぽいのかもしれない。ちなみにフィンランドではスウェーデン語をしゃべる人たちは(今ではそうでもないと思うけど)上流階級とされていた。
たしか全フィンランド人口の10%くらいがスウェーデン人だっと記憶しているけど(間違ってたらごめんなさい)、その10%が美味しい仕事や、美味しい地位を独占していると聞いたこともある。
ヤンソンとか、ヨハンソンとか、そういうファミリーネームであれば、これはもう良いお家のご出身ということになっている。
しかし何度も言うが、この宣伝上手いよなぁ…。
「本国フィンランドでは公開されるや大絶賛で迎えられ、スウェーデン語で描かれたフィンランド映画としては市場最高のオープニング成績を記録」(アンダーバーしていあるところを強調したし)とチラシに書いてある。よーく見ると、つっこみたくなる。あれこれと…
いやだよねぇ、こういう斜め視線の北欧ファン(笑)
それにしてもこのポスター・ビジュアルといい、キャッチ・コピーといい、良くできてる。私も例えばJPPみたいなバンドを、このくらい可愛く、ほぼ日みたいに「フィンランドのおじさん」とか言って売るくらいの勢いがないと、プロとしては失格なのではないのかなとも思ったり。自分の無力感ひしひし(笑)