田中美登里さん(以下、M):うわ〜素敵! なんかアイルランドから風が吹いてきたぞ。トランス・ワールド・ミュージック・ウェイズの時間になりました、田中美登里です。今、アイリッシュフルートを吹いてくださったのは豊田耕三さんです。はじめまして。
豊田耕三さん(以下、K):よろしくお願いします。
M:実はですね、今年の6月に2週にわたってご出演いただいた豊田泰久さん…リスナーの方は覚えていらっしゃるでしょうか? 東京のサントリー・ホールとかロサンゼルスのウォルト・ディズニー・ホールなど世界の名だたるクラシック・ホールの音響設計を手がけた方なのですが、耕三さんはその息子さんで!(笑)
アイリッシュ・ミュージックの演奏家として大活躍されていると…。後から知ってびっくりです。でもお父さまとはジャンルが違うというか同じ場で何かするってことはなかなかないかもしれません。
豊田耕三さんは東京芸大の楽理科出身で、私もディレクターの武藤もそうなので、今日は同窓会みたいな感じになっておりますけれども…。 お父様と息子さんで別々にこの番組に出演してくださった方から、他にもいらっしゃいまして…高橋悠治さんと鮎生さん。
K:あぁー なるほど、なるほど!
M:まあ、あの方たちもね、なんかそれぞれの方向で活躍されています。
K:やっぱり同じところにいたがらないもんですかね…
M:そうですか? でもすごい音楽一家なのでしょ?
K:いや、そうですけれど、でもやっぱり畑は違うところでありたいってちょっと思いますね。なにか同じとこいると大変そうだなって思います(笑)
M:そういうものなのでしょうか。最初に吹いてくださったのは、これ、アイリッシュ・フルートっていうんですか? 黒い木で出来ているんですね。
K:そうですね、アフリカン・ブラックっていう黒檀とかの仲間だと思うんですけれども…
M:すごいあったかい音色ですね。
K:昔の古い楽器の形をそのまま引き継いでいる、そんな感じの音です。
M:芸大では民族音楽を専攻されたと聞いたのですけれど、アイリッシュ・ミュージックとの出会いっていうのは?
K:意外と遅かったですね。昔から聴くのは聴いていたのですが、ブルーグラスとかカントリーとかオールドタイム …ああいうアメリカの古い音楽が好きで、有線放送とかで聴くとか…そんな感じだったんです。
それがなぜ好きだったかはちょっと怪しいんですけど、ディズニーランドのウエスタンランドとか…。映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー3」とか、そういうものの影響で、ああいうちょっとくだけた音楽が好きで、しかも人々が生演奏で踊っているっていうのを見て、「ああいうの、いいなー」と思って聴いていたんです。
その後、たまたまダーヴィッシュっていうアイルランドのバンドのCDを見つけて、それで「なんだ、これ?!」って聴き始めたのが最初だと思います。
(BGM:Dervish)
M:はい。 ダーヴィッシュを今、かけています。
K:なんかあのアメリカの音楽って管楽器がいないじゃないですか。みんな弦楽器ですよね。僕、もともとクラシックでトランペットとかをオーケストラで吹いてたので管楽器に馴染みがあったんです。アイリッシュにはティン・ホイッスルとかフルートとか管楽器があったので、ちょっと他とは何か毛色が違うなって思っていて…。けれど、よくよく調べてみたら、アメリカの古い音楽のルーツがむしろアイリッシュだということがわかって、だんだんのめり込んでいった感じですね。
M:それで大学中に ケルト音楽研究部っていうのを作られたんですね。
K:たぶんその頃からちょっと(アイルランド音楽が)流行り始めたということがあるのかもしれないですけど、まぁ本当にたまたまです。僕、サンバ部にも所属してたんです。 サンバ部の部室でティン・ホイッスルの練習してたら、同じ楽理科の人でギターを弾ける人が面白がってあわせてきてセッションが始まって…ということが度々あって…。まぁ、それならそういう音楽が好きな人が何人かいるみたいだから、サークル化しようっていう風になってスタートしました。
でも、そのときはまだダンスまではたどり着いてなかったんですよ。もう演奏するだけで精一杯ですし、サンバも本当にサンバを踊る人たちはもうガチすぎて、アイリッシュに寄って来なかったですね。
M:その研究部g-celtを2005年に作られたということなんですけれども、今はすごい全国の大学とかいろんなところに広がってるんでしょ?
K:10年ぐらい前にその学生が中心のフェスティバルを学生たちと一緒に立ち上げたんですね。それがだんだん、大きくなって、今はものすごい数になっていますね。
M:すごいなぁ。大学生のアイリッシュ・ミュージックの言い出しっぺという感じなんですね?
K:まぁ、僕らより古くからやっている人たちもいるので、何とも言えないですけど、たまたま(僕らの時代に)なんかうまくこう、歯車がかみ合って転がって、大きくなっていったという感じです。
M:自分のバンドも作られてO’Jizoとか…。すごい。やっぱり日本を意識した名前なんでしょうか。
K:僕が耕三でゾウがついてて、で、最初にデュオでスタートした時に、もう1人のギタリストがKojiって名前だったんですよ。KojiのjiとKozoのzoでJizoでスタートしていて、もう1人加わった時に、Oとアポストロフィーを、アイリッシュ系のファミリーネームのようにくっつけたらどうだと、パブに聴きに来て下さったお客さんに提案されて…。
M:CDも出されているんですけど、トリオのO’JizoのCDから何か1曲聞いてみましょうかね。
K:1番新しい4枚目のアルバム「MiC」ミュージック・イン・キューブというのがこの3月に発売されたんですけど、その中から「Wingsuit Fly」という曲をお聴きください。
音楽:Wingsuit Fly / O’Jizo
M:これはオリジナルの曲ですね。
K:このO’Jizoっていうバンドはなぜか割と半分ぐらいオリジナルをやっています。どうしてそうなったかは、わからないですけど…。
M:あぁ、でもインストルメンタル・ミュージックのいい感じっていうのが伝わってきますね。
K:ありがとうございます。
K:で、豊田さんが今やってらっしゃるバンドは、「トヨタ・ケーリー・バンド」というバンドがまた別にありまして。「ケーリー」って言葉、私は初めて聞いたんですけど…
K:ケーリーって言葉を単体で使うと、ダンス・パーティーのことを言います。アイルランド語です。基本的にケーリー・バンドって言った場合にはダンスの伴奏の専門のバンドのことを指します。
M:じゃあ、もう最初にその生演奏で踊るっていうのがいいなと思った、ってことですかね?
K:なんかケーリー・バンドって、テンポ的にもダンスに合わせて演奏するので、めちゃくちゃテンポが速いんですよ。 そして3時間ぐらいもうずっと演奏するという…。まぁ、合間合間もありますけれども、かなりトップ・スピードで演奏し続けるという感じ。
なので体力的にもかなりしんどいんです。あんまりセッションが楽しいっていうミュージシャンはダンスの伴奏を好んでやるっていう人はそんなに多くないんですが、そこにあえてはまっていったというのは、やっぱり何かそういうところがルーツということなのかも…。人が目の前で踊るっていうのが好きだから、何かここにしがみついてやってるのかなぁっていうふうに、今、考えると思いますね。
M:ダンス・ホールみたいなところでやるんですか?
K:いや、もう普通に広い体育館みたいなところとか、公民館とか何でも良いんですけど、踊れる場所があれば!
M:そうか! で、踊る人はまあアマチュアでもなんでもいい?
K:むしろプロフェッショナルって存在し得ないんじゃないかと思うんですよね。それで食べていけないので。まあ向こうの人でもダンス・マスターってダンスの先生レベルの人じゃないと食べられないんじゃないかと思う。基本的に全部アマチュアですよね。
M:じゃあアイルランドの人はそうやって言う子供のときから踊ってるだろうと想像できますけど…。日本でケーリーバンドをやって、踊る人もたくさんいらっしゃるんですか?
K:それが10年ぐらいやってるうちに、だんだんさっき言った学生のフェスティバルとくっついて学生に火がついちゃって…。若い人たち結構熱狂的にもうダンスが大好きという人がいっぱい出てきているんです。
先ほど、アイランドだとちっちゃい頃からとおっしゃいましたけど、意外とこれが逆で、アイルランドでセット・ダンスを一生懸命踊る人たちって、割と年配の方が多いんですよ。
M:えっ、そうなんですか?
K:若者たちにとっては何かちょっとおじいちゃん、おばあちゃんたちのダサいダンスみたいな、そんなイメージなのに、日本では若者が夢中になってるっていうのをアイルランドの人が不思議がってるっていう逆転現象が見られます。
M:なるほど、なるほど。で、そのトヨタ・ケーリー・バンドは2011年に結成されて今年10周年記念なんですけど、なんと結成5年目にして、アイルランドの伝統音楽最大の祭典フラー・キョールに出演なさった…
K:はい、そうですね。コンペティションっていうのがあるんですけど、世界各地で予選みたいなのをやって勝ち上がると、アイルランド本国で本選っていうのがあって、それに出場しました。
M:フラー・キョールっていうのは地名なんですか?
K:いや、これがフェスティバルの名前なんですけど、キョールっていうのが、アイランド語で音楽なのかなとか…確かそんな感じだったと思うんですけど…。
M:トヨタ・ケーリー・バンドのディスクにその時の模様が入ってまして、ぜひ聴かせていただきたいと思うんですけども、「Road to Rio」っていう曲ですか?
K:「Road to Rio」と「Miss Lyon’s」という2曲のリールという種類の曲です。
音楽:Toyota Ceili Band – Reels:Road to Rio, Miss Lyon’s
M:すごい! かっこいい! あちらでも大喝采だったそうですね。
K:向こうのお客さん、温かいんです。巨大な大きなテントでやるんですよ。2,000人ぐらい入るような仮設のテントで。というのも、フラー・キョールは毎年オリンピックみたいに開催地が移動するんです。毎年夏にやるんですけれど、テントいっぱいの2,000人ぐらいのお客さんが、演奏終わった瞬間にわーっとみんな立ち上がってもう大歓迎してくれて…。
M:楽しそうですね。みんなギネス飲んだりとかしながら、ですかね?
K:もう本当に底抜けに楽しむのが上手い人達なわけです。
M:今日は、ちょっとそのケーリーの楽しい雰囲気をさらに味わっていただきたいということで、豊田さんがお仲間をスタジオに一緒に連れて来てくださって。普段は7人編成とかぐらいなんでしょうか?
K:ケーリー・バンドのコンペティション自体が10人編成。 それが一応標準という感じで、大所帯になるともっと大きいケースもありますけど、大体は少ないところで4人ぐらいから。うちが6、7人でやってるかなっていう感じです。
M:はい、なんか身も心も躍る音楽っていう感じ。 踊らせるコツってあるんでしょうか?
K:そうですね。躍らせるって、とても面白いんですけど、旋律が…旋律1本でリズムを持ってないといけないんですよ。
M:へぇー
K:リズム楽器がリズムをつくるのではなくて、旋律が結構歪んでいて訛りがあるんですよね。だから6/8拍子とかもタ・タ・タ、タ・タ・タと行かないでヤ-カタ、ヤ-カタ、ヤ-カタ、ヤ-カタ…(書き起こしが難しい…)っていう風になってたり…
M:あぁ、なるほど、もう確かに踊ってますね!!
K:4/4拍子もタカタカ、タカタカではなく、タ-カタ-カ、タ-カタ-カ…(再び書き起こし不可能)みたいな感じでちょっと歪みがある。まあ、それが「踊らせる」っていう部分だと思うんです。
M:なるほど。で、今日は豊田さんのアイリッシュ・フルートと、それからフィドルの方が女性二人来てくださっています。どういう曲を演奏してくださるんですか?
K:旋律3本のみでもちゃんとリズムが出るようにっていう演奏になると思うんですけど、3つ異なるリズムのセットです。
最初がポルカ:Many A Wild Night、そしてWalsh’sという2曲のポルカのメドレー。 2つ目が6/8拍子の2曲のメドレー、The Cat’s Meow (この曲名を豊田さんが言った時、猫好きの美登里さんが反応しているのを聞き逃さない私・笑)そしてThe Miller's Maggotという曲です。最後がリールというアイルランドのダンスの曲の中で1番数が多くて1番人気のある速い曲ですけど、Miss Thornton’s, The Boys of Malin, Jenny’s Chickensという3曲のメドレー。この3つのセットをお届けいたします。
M:はい、それではお願いいたします。
(生演奏)
Polkas – Many A Wild Night / Walsh’s
Jigs – The Cat’s Meow / The Miller’s Maggot
Reels – Miss Thornton’s / The Boys of Malin / Jenny’s Chickens
M:うわーー ありがとうございました。もうほんとうに私も踊り出したくなる! 本当に音だけで踊りの感じっていうか…。
K:スイング感っていうのを感じていただけたら、嬉しいです。
M:豊田耕三さんのアイリッシュ・フルート、そして沼下 麻莉香さんと権藤英美里さんのフィドル。トヨタ・ケーリー・バンドの御三方で演奏していただきました。ありがとうございます。トヨタ・ケーリー・バンド10周年ということで、11月14日に記念のコンサート&ケーリーがあるんですね。
K:実は僕も先日初めて(会場に)行ったんですけれど、もうビルごと格調高くて、もう入っただけでテンション上がるような会場でした。
M:そう、なんですか。コンサート&ケーリーってどういうこと?
K:前半が演奏を聴いて頂いたり、ゲストのダンサーさん…ソロのダンサーさんとかグループのダンサーさんとか上手い人たちを呼んで、いろんな種類のダンスと音楽を楽しんでいただくというのが前半…これがコンサート。
後半は実際に会場に来ていただいているお客さんに参加していただいて、踊っていただくという。なので、もうここがコンサート会場から後半、いきなりダンス・パーティーのダンス会場になります。
M:限定40席ということですが、オンライン配信もあるので、お家で踊ってもいいわけですね?
K:そうです、もちろんです。
M: 11月14日の夜6時から銀座ライオンのクラシック・ホールというところであるそうです。(普段演奏は)そういうダンスホールでやることもあるし、コンサート会場、またお寺でやったりもされたりしてますね。
K:ありますね。教会もありますし、神社もあるかな…。宗教的にはめちゃくちゃですね(笑)。
M:日本ならではのスタイルでどんどんアイリッシュ・ミュージックを広めていくという感じでしょうか。おしまいはトヨタ・ケーリー・バンドの1番新しいアルバム「Seven More」の中から…これはなんという曲ですか?
K:「コネマラ・セット」。完全にこのCD自体がもうダンスの伴奏にそのまま使えるように作られているアルバムなんですが、その中からリールとポルカをお聴きいただきます。
M:今日は、アイリッシュ・ミュージックの伝道師というか、呼びかけ人といいますか、豊田耕三さんにおいでいただいて素敵な生演奏を聞かせていただきました。楽しい時間をありがとうございました。
アイルランドの“ケーリー”をご存じ?身も心も躍りだすような音楽を奏でるのは、豊田耕三さん率いる「トヨタ・ケーリーバンド」。メンバーによるスタジオライヴも。10月31日(日)朝4時半~TOKYO FM「♯トランスワールドミュ-ジックウェイズ」。
— 田中美登里 (@midoritanaka) October 28, 2021
radikoなら1週間後まで。https://t.co/YzJxfCEQP3 pic.twitter.com/Cev5uzPKjW