朝妻一郎『高鳴る心の歌』を読みました。


アルテスパブリッシングさんより献本いただきました。ありがとうございます。

「帰ってきたヨッパライ」「白い恋人たち」「千の風になって」「A LONG VACATION」などヒット作の裏話が満載。音楽業界の大物による良き時代の回想本。

最近多いよなぁ、と思いつつもリアルで知っているおじさんたちの名前も出てくるので、引き込まれてあっという間に読破してしまった。

実際、一般の人は洋楽のアーティストに近いのはレコード会社だと思うことが多いだろうけど、音楽出版社の皆さんはレコ社よりもずっとアーティストに近い位置にいるのだ。だからやっぱり話がおもしろい。

音楽出版のちょっとした歴史も分かりやすく解説されており、音楽業界に興味のある方には、とても勉強になる本であることも間違いない。

音楽出版社の存在については、私も言いたいことはたくさんある。そもそも放送局が音楽出版社を持つことは、他の国では独禁法で禁止されていることだ。それははっきり指摘したい。

自分たちが権利を持っている曲をドラマの主題歌にしたり、放送したりすればそれだけお金が自分たちに入ってくるすごい利益循環システム。

他にも言いたいことはたくさんあるが、まだ私もこの業界で現役で仕事をしている以上、余計なことは言わない(笑)

一方で音楽出版社には、めっちゃお世話になった方もたくさんいる。この本にも出てくるソニーのMichi 新井さんには、今でもfbを通じて良いアドバイスをいただいてる。

新井さんには、若い頃はむちゃな売り込みをしたことも何度もあったが、一度も嫌な顔をされたことがない。本当に本当にお世話になっている。

今でも時々お会いするプライムディレクションの谷口さんは北欧関係でお世話になっている。谷口さんもいつぞやうちのアーティストが持ち込んだなんかのロックバンドを売り込んだら、自分はいけないからと部下の方を送り込んでくださったり… あぁいうことの感謝って、一生忘れない。

それからこの本に出てくる世代の人たちよりうんと若いので、この本に名前は出てこないけど渡辺出版の方には、メアリー・ブラックの息子のバンド:ザ・コローナズのレコード会社探しを手伝ってもらった。

この本で朝妻さんも説明されていることだが、私も洋楽アーティストの新譜を自分ではなく第三者のレコード会社にお願いしようと思った時、まずは出版社をあたる。出版社の人たちは私よりもレコ社の最新状況をご存知のことが多いからだ。

コローナズがメジャーデビューできたのも、渡辺音楽出版のSさんのおかげだ。この御恩は絶対に忘れない。

大洋出版の方にもポール・ブレイディやウォリス・バードでお世話になった。大洋出版さんはウチの貧乏ツアーに同情してチケットを買ってくれたことが何度もあった。本当なら関係者なのだから、私は招待状をお送りしなくちゃいけないのに! 本当にありがとうございます!!

これらの出版社の皆さんへの感謝の気持ちを私は一生忘れない。

が、あえて書くが、プロモーターやレコ社の中には、普段何もやらないのにアーティストが来日した時だけ楽屋にあらわれて、我がもの顔でミュージシャンと親しくする彼らを良く思っていない人が多い。

しかも出版社の人たちは、みんな英語が飛び抜けてうまい。たぶん英語を話せない人や、英語があぶなっかしい人は、私をふくめプロモーターにもレコ社にもとても多いが、英語が流暢でないのに出版社の国際部門に入ることはほぼ不可能だからであろう。

また出版社によっては、バイアウトやら何やらで日本のサブ出版がいったいどの会社なのかわからなくなってしまっているところも多く、ウチのアーティストで某ソングライターの彼は、いつもそれで混乱していた。

一応A社とB社とあって、A社が割と強引に扱うということになっていたのだが… 実際どうだったんだろう。

また日本に洋楽カバーの文化がいまいち発展しないのは、サブパブのせいだ…という説もなきにしもあらず。特にこのパンデミック中に行われた配信の状況下では、たくさんの問題も噴出してきてもいる。

まぁ、そんな話も、将来私が引退して機会があったら紹介したい。

ちなみにウチと朝妻さんのフジパシさんも僅かながら関係があって、実はフジパシさんにヴェーセンの楽曲を預けていた時期もあった。

これはヴェーセンのメンバーたちの所属出版社(スウェーデン)の日本の窓口がフジパシさんだということではなく、私から仕掛けたことだ。

このことからフジパシさんは私が信頼する音楽出版社さんだということはわかってもらえるだろう。

当時のヴェーセンは少ないとはいえ日本盤を定期的にプレスしていたし、多少何かタイアップでもシンクロでも美味しい話がこないかなぁという私の目論見もあった。シンクロの話があるとしたら、それは私ではなく出版社から入ってくる話だからだ。

映画のテーマ曲とか、ドラマのテーマとかよくありませんか、ヴェーセン(笑)

そして日本ではタイアップのつかない音楽は絶対に売れない。これ方程式ですから! あなたが売れていると思うアーティストの名前をあげてみよう。タイアップがなく有名になった人など歌もの、インストふくめ、どこにもいない。それが日本の市場なのだ。

結局はご存知のとおり何もなかったけど(笑)でも契約したばかりの来日時にはフジパシさんから楽屋にちょっとしたお花が届いたり、そんな心遣いがとても嬉しく思った。

そのお花は小さくてかわいかったが、ヴェーセンが稼いだお金よりも高いということは絶対にないので、返ってサブ出版をふったことでフジパシさんには余計なペーパーワークや気遣いなどをさせてしまい、返って迷惑をかけてしまったな…と少し反省している。

何より当時ヴェーセンは、私がレコ社で私がプロモーターで私以外に日本に誰もいなかったから、私に何かあった時でも、バンドのことを考えてくれる人がこの業界にいるということはちょっとした安心にもなった。 

公演をよくやった南青山曼荼羅を出たところにフジパシフィックさんのオフィスがあったので、ウーロフがフジパシさんの看板を見つけて嬉しそうにしていたことが思い出される。あれはいい思い出だ。

そういやヴェーセンの曲をカバーしたい、という人がいて、ローゲルがOKと言っていたから大丈夫だと判断した日本人の演奏者の人がいたようだが、それは間違いで、いったんサブ出版がついてしまうと、もうそれはアーティストの判断だけで物事は決められない。

(ミュージシャンもその辺のことが自分ではまったくわかっていなかったりするからやっかいなのだ)

本に話題を戻すと、私がいたキングレコードの方もたくさん名前が登場する。もう私が入社していたときには引退されていた河合秀朋さん、そして武田一男さんというお名前も出てくるのだが、武田さんとは、私も同じフロアで仕事してた武田さんのことだろうか。

私の知ってる武田さんのファーストネームを忘れてしまったので、よくわからない。

しかし朝妻さんに初めてライナーノーツを振ったのは、このキングレコードの武田さんだそうで、大洋出版・元キングレコード・元上司の新井健司さんが亡くなった時にも思ったことだけど、おじさんというのは自分に初めてライナーノーツをふってくれた人に一生感謝するもんなんだなぁ、と感慨深く思う。

レコ社の皆さん、将来ある若者ライターがいたら積極的にライナーノーツ執筆をふりましょう(笑) その原稿料がしみったれたものでも、彼らは一生そのことを忘れないで感謝してくれますよ。

などなど読んでいて、あちこちに思考が飛んだ(笑) まぁ、私も片隅とはいえ音楽ぎょーかいの人間なのかも。

なお朝妻さんは同名のYou Tubeチャンネルをやっていて、とても興味深いので、音楽業界に興味がある方はぜひ。