こりゃ、今年のベスト作品かも? 映画『コーダ あいのうた』最高でした


時々、音楽以外のアートのフォーマットというかジャンルが羨ましくなる時がある。例えば本、例えば映画。音楽よりもこんなに多くのことを伝えられるんだ、と。

いやーーー なんとも良い映画だった。これは最高。めちゃくちゃポップで見やすい作品だ。シリアスではあるが、基本コメディで、またもや「ベルファスト」同様、平日の人がいない映画館の、ほぼ最前列でめっちゃ笑いながら見てしまった。

そして途中からはもう泣きまくった。いやー 圧巻でした。

っていうか「ベルファスト」を超えたかも。なにせあっちはアイルランドものだという強力な要素があるからなぁ。

いやー 素晴らしい作品だった。

気になってはいたんだよ。私の信頼するライブ・ミシュランと密かに呼ぶ友人は、これが今年のベストだと彼のMixi日記に書いていた。そこから気になっていた。

そして他にも映画関係者の友人や、いつも趣味のいい文化を紹介している友人も強力に押してきた。絶対に見た方がいいよ、と。野崎さん、きっと好きだよ、と。

最後は水道橋博士のYou Tubeでの「ロッキー以来、最高の映画」という断言も効いた。

本当に見に行ってよかった。

話はいわゆるCODA =Child of Deaf Adultsの略なんだけど、CODAである女の子が主人公。両親そしてお兄ちゃんも聴覚に障害がある。が、とにかく明るくて楽しい破天荒なファミリー。

その中で彼女だけが学校でもなんだか浮いているし、彼女以外全員耳が不自由な家族の中でも特殊な位置にいる。

とにかく俳優陣が最高に素晴らしい。お父さん最高にチャーミングで、めっちゃおもろい(笑)。お母さん、ちょっと勘違い部分もあるけど、でもおしゃれで可愛くてめっちゃ楽しい人。

出会い系サイトに夢中になっているお兄ちゃんも、口は悪いが主人公のことを思いやる最高の存在だ。

全員、手話なんだけど、これがめちゃくちゃパワフルで、うるさいくらいだ(笑)。

そして主人公のボーイフレンド役の子は、なんとアイルランドのジョン・カーニーの映画「シング・ストリート」の僕ちゃんだよね。いやー 大人になった!

そうなるとあのお兄ちゃんの存在も「シング・ストリート」を彷彿させるんだ。やばいよ、お兄ちゃん。

ご存じのとおりこの映画にはベースになっているフランスの映画「エール」(2014年)があって、両親のキャラはフランス版からもかなり継承されている。フランス版のお母さんも早朝なのに髪を巻いたり、農場の取材だと言うテレビなのに着飾ったりおしゃれに余念がない。

なんというか「フランス版」の時点ですでに素晴らしいところが多い。例えば映画の中でもっとも印象的な音がまったくなくなる演出は、映画史に残る名演出だと言っていいだろう。あのシーンは圧巻だった。あれはオリジナルのフランス版でも見られたテクニックだ。

あそこでお父さんと映画を見ている観客ががっちりとつながった。そして夜の星空の下でのシーン。

ヨーロッパ映画のアメリカ・リメイクは、私の狭い経験では、とても残念な結果になることがほとんどなんだけど、これは違った。フランス版の良さをしっかり継承しつつ、アメリカ版の演出は細部にまで監督の意志が行き届いているとわかる。

スティーブがいうとおり、細部なんだよね。細部が大事。

監督さんのディレクションが本当にすごい。女性監督だからこうなったのかもしれない。いやー、圧巻だわ。

フランス版になかったシーンとして歌っている時、どんな気持ちだと聞かれてそれに答える主人公がいい。そしてそれにbeautifulとリアクションする先生も。このシーンはフランス版には確かなかったよね。そう、彼女にとっては手話が両親との言葉=第一言語なのだ。

アメリカ版は、あきらかに俳優陣のパワーが倍増していて、これが最高に素晴らしい。フランス版もはちゃめちゃファミリーだったけど、アメリカ版はさらにすごい。

オリジナル版ではフランスの田舎の酪農農家。アメリカ版では漁師一家。ロケーションは違うが、これがなかなか効果的だ。

そして最後のシーンでは、ステージで歌う主人公は両親の姿を客席に見つけ、心から歌う。そして自然と…。ここで歌うのが「青春の光と影」by ジョニ・ミッチェル。これは明らかに反則! ずるいよね。

そこで主人公と家族、社会、映画という作品、作品を見ている視聴者、すべてが一体となる。これ、これだよなぁ!!! この感じ。コンサートでも作れる時があるよなぁ。

あ、そうそう、あの音楽の先生との出会いも最高にいい。「家族抜きでの自分を考えられない」と告白する主人公。あのセリフはフランス版ではなかったと思うけど、端的に主人公の気持ちをあらわしている。

ちなみにフランス版で、先生は自分の夢が叶えられなかった過去もさりげなく告白している。アメリカ版はそんな先生の過去も、それとなく匂わせるにとどまる。

「ベルファスト」とも似ているのは家族愛の映画だということ。愛する相手を「行かせてやる」という愛だということ。

ジョニ・ミッチェルの歌は、結局人間は何もわからないということを言っているが、この歌詞がこれほど沁みる映画はない。正解は誰にもわからないのだ、と。この「わからない」「自分は知らない」っていう感覚。これが大事なんだよなぁ!!

この映画はコミュニケーションの素晴らしさを描いた映画だ。ジョニ・ミッチェルがいうとおり、人間はわからないながらもコミュニケーションを図っていくことが重要なんだよ、と。

映画の中の登場人物たち間のことは言うまでもないが、映画を見ている視聴者と作品のコミュニケーションがすごく重要視されている。だからこの映画は成功した。いやーーー マジでやられました。あの元気な家族にまた会いたい。あの家族と友達になりたい。

それにしてもすごいなぁ。予告編をはりつけるため、この動画を見てまた泣いた。普通に生活して思い出してもまだ泣ける。そして自分も手話を習ってみようかなとも思った。


 

あと自分も小さいながら海外の文化を紹介する仕事をしているので、配給会社の態度はいつも厳しくチェックしてしまうのだが、これはすごく興味深い。

確かになんでバリアフリー上映でないのか不自然なほどだった。健聴者、聾唖者の字幕も、なるほど知らなかった。一方でパンフレットは丁寧に作られていて、すごくよかったけど、家に帰ってきてカバンの中を見たら、紛失してたー おーまいがっっ! パフェ食べながら読んでて、忘れたかーーー もう一度見に行こう。

 

PS
サントラ貼っておきまーふ。


PPS 発見、素敵なインタビュー