「こたろう」と「ぶーちゃん」の現金ばらまき事件『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件全記録』を読みました。


今年のノンフィクション、おそらくベスト3に入るだろう傑作でした。いや、おもしろがっちゃいけないんだけど、すごく興味深く読みました。

自民党の河井夫妻による100人に2,871万円配った、「えっ、今の時代にそんなことまだあるの」という、あの買収事件のドキュメントです。

これ、楽しいのは(とか言っちゃ不謹慎かもだけど)事件の概要だけではなく記者の人の仕事ぶりや、それぞれの気持ちなども書かれているところ。

「文春に抜かれたーーー」と悔しがるところとか、取材でおっかけた検察側からのさりげない言葉をかけてもらい、それをエールと受け取り胸アツ…とか。

失礼ながら、ちょっと笑ってしまった。いやいや、記者たちの立場。本当に大変な仕事だ。そして今、この自民党の性質を告発し、正していく方法は報道しかない。

そう、この事件、最初は確かに文春が抜いた「ウグイス嬢」の日当金額やぶりから始まった。

取材される側の政治家の連中のずうずうしさもすごい。検察の取り調べで携帯に出れず、「携帯をトイレに落とした」とか苦しい言い訳をする奴。取材に答えたことを検察の調査が入り、しれっとひっくり返すやつ。しらばっくれる人、否定する人、認めたものの苦しい言い訳をする人。

一方で、検察にコテンコテンに調べあげられやっと自宅に帰ってきて、そこで張り込んでいた知り合いの記者の顔を見てホッとして告白しちゃう人も。扉に身体をもたれかけ泣き崩れる人も。

でもバレた時、即座に辞職したのはたったの8人。あとはのうのうと議員生活を続けている(この本が出た時点)。

受け取ったお金をそのまま保管していた人、そのまま生活費として使っちゃった…にはあきれた。特にパチンコで使った、東京にスポーツ観戦にいったなどと言う人には、のけぞるしかなかった。

他にもせこい話はたくさんある。案里と安倍の写真が載ったいわゆる二連ポスター。公示後はこういうポスター貼りは禁止なので、県警から剥がすように言われるが、それにたいして「1枚ずつゆっくりゆっくり剥がせ」だと!?。あぁ??? せこすぎる!

ちなみに同じ自民の対抗馬だった溝手側も決して潔白ではなく、こちらにも疑惑があることにもびっくり。これは全然知らなかった。というか、報道されていたのだろうけれど、覚えていなかった。さすがこいつも自民党だ。

こちらは50万、一人の議員で疑惑の枠に留まっているのだが。

そして… この闇は本当に深い。私の実家も金権千葉なので、広島のことを笑えない…と思っていたら、さすが中国新聞の記者さんたち。私が小4まで住んだ東金市の話題も掲載されておるじゃないですか! まったくみっともないったらありゃしない。

そう私の生まれ育った千葉県は保守王国。私が子供のころは政治家が家に訪ねてきて、帰ったら座布団の下に3,000円置いてあったとかよくあった…という都市伝説あり。本当なんだろうか。

でも…プーチンのウクライナ侵攻じゃないけど、これ、今の時代にやるかね!?

お金を受け取った県議や市議、地元の名刺たち100人。彼らは土地の有力者だから彼らをお金で巻き込み「案里をお願い」するわけである。

特に100人のうち、40人いた政治家については、この本の巻頭に名簿と顔写真がついているが、それぞれもらった金額、もらったのは夫婦のどっちか、日程、場所とかも本文中だけではなくこの顔写真の下にそれぞれ書いておいてほしかった。

もっとも、この名前、当時の役職、金額などの資料はWikiにもしっかり掲載されているので、広島の人はぜひチェックしてほしい。

いかにもといったオヤジ政治家たちが並ぶけど、それだけじゃなく女性も2名いる。女性なのにこれやるんかい?! なんか許せない。

何度も書くけど、市議や県議、地元のリアルなインフルエンサーというか有力者に「案里をよろしく」と…キャッシュを渡す。ほんと今どきこんなことやる人いる???

でも、いるんです。そしてその抜け道もあるんです。本当に抜け道だらけの公職選挙法をなんとかしてほしい。

また夫妻は4,000万以上の結構な額の借金も抱えている夫妻の、1億5000万の原資はいったいどこにあったのか? 克行は自分のちょこちょこためた現金を使ったというが、いやいやこんな大金、普通もってないでしょ? それにもらった方による「ピン札だった」という証言多数。

自民党からきた1億5,000万円については、出どころは不明なんだけど、実は官房機密費だったという説もあるらしい…まさかと思うけど。まさか…

裁判のシーンは本当に圧巻。次々あばかれていく悪事の連続。とても興味深く読んだ。

また、受けとった金額を収支報告書に書きつけ、これで公式な金にしちゃう…というずうずうしいにもほどがある政治家も。

そしてお金を受け取った側の証言が一通り終わった時、それに対する克行側の反撃もすごい。

相手から領収書の発行を拒まれた、とも。両手をあわせて拝みながら「どうか領収書の発行だけはこらえてください」と言われたとか…  「お前ら裏切りやがったな」的うらみつらみが滲み出る。つーか、双方悪いお金ってわかってるやーん!!!

…とまぁ、ほんとツボなポイントがいくつもあるのだけど、実は本を通じて最も印象に残ったのは、この克行が誰もが嫌っている最高に性格の奴だということ(笑)

本当に嫌なやつだったらしい。こんなやつが法務大臣??? 

金を断るわけにはいかない、あの金は暴力だったと証言する買収先のなんと多いことよ!

そして、これがヒットなんですよ…最高に笑ったのは…買収金額を書いたメモに(メモを残しておくところがこれバカすぎるんだけど!!)そこに「こた」とか「ぶ」とか、お金を運んだのが克行・案里どっちだったかという役割分担がメモられていたこと。

ちなみに「こた」とは克行のかわいがっていたアライグマのぬいぐるみ「こたろう」の名前。一方で案里は「ブーブー」と文句を言うので「ぶーちゃん」。

夫婦間ではその名前で呼ばれていたことが後にわかった。単なるパカップルじゃないの?? そういや、案里は克行よりもだいぶ年下。いわゆるトロフィーワイフだったことも想像できる。いや、失礼、これは言い過ぎか。

でも、みなさん、今度この夫婦に会うことがあったら「こたろう」「ぶーちゃん」と呼びましょう(爆)

それにしても、二人は堂々と「安倍さんから」「二階さんから」と言いながら、この悪〜いお金を配っていた。わるーいお金を。

あ、そうそう、政治家の言い訳の一つ。「3ヶ月ルール」とやらを勝手にでっちあげて公示から3ヶ月以上前であれば買収されたことにならないらしい。呆れて物も言えん… これ、別にちゃんとした法律ではなく単なる彼らの「自分ルール」。まったくもって呆れる。

この本が出たのは2021年12月だったらしいけど、現在、起訴はないと言われていた政治家連中が次々と審議にかけられている。そりゃ、そうだよ。そうしないと有権者の怒りは収まらないでしょう!

最近の状況については、こちらに中国新聞のまとめがあり。

いやーーー 取材班のみなさん、頑張ってください。そしてこの本のVOL.2が出たら、必ず読みます! この本を教えてくれたポリタスTVにも感謝。


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