SONAR MUSIC ポストクラシカル特集を聴きました #日向敏文 #toshifumihinata

 


SONAR MUSIC(MC:あっこゴリラさん)で、ポストクラシカル特集が放送されました! 題して「癒しのポスト・クラシカル」解説は編集者・音楽ライターの原典子さん。

その内容をご紹介していきますが、あくまでここに書いたことは野崎が1リスナーとして聞き取ったものですので、間違いや誤解があったらすみません。あくまで文責:のざきでお願いいたします。


あっこゴリラさん:ポスト・クラシカルの定義は?

原さん:クラシカルという言葉がついているとおり、クラシックの楽器によるアコースティックによる生音のサウンドと、今のポップスとかテクノに使われているエレクトロニクスの手法を融合させて作り出されたインストルメンタル・ミュージックです。

ミニマル・ミュージックって、もしかしたらどこかでお聞きになったことがあるかもですが、同じ音型をひたひたと繰り返しながらだんだん変化していく…スティーブ・ライヒとかアルヴォ・ベルトといったアーティストがいますが、そういったミニマル・ミュージックの影響を受けているのも特徴です。

すごく静かで白昼夢みたいな、うっとりしちゃうような音楽なんですけれども、今日も「癒しのポスト・クラシカル」というタイトルをつけていただきましたけれども、今、コロナ禍で在宅ワークとかふえているじゃないですか。

そうするとプレイリストで仕事の邪魔にならない静かな音楽と…眠る時にきく音楽とかが需要があって、そこでまた再びポストクラシカルの再生回数があがっているという現象が見られます。

あ:「ネオ・クラシカル」「インディー・クラシカル」という言葉もありますが、違いは?

原:厳密な違いはないのだけど、「ネオ・クラシカル」というと「ポスト・クラシカル」とほとんど同じ意味だし、「インディー・クラシカル」というと「ポスト・クラシカル」よりはとんがっているイメージですね。前衛的なエッジの効いた音楽っていう感じのものが多いかもしれません。

あ:具体的に音を聞かないとわからないところありますね。ちなみ「ポスト・クラシカル」の発祥はどこになるんでしょうか。

原:2000年台の始めくらい。いろんなところから。20年くらい前から出てきたんですけど、一概には言えないんですが、一つ大きいな特徴が言えるのはビョークとかシガーロスとかって、アイスランドから出てきたじゃないですか。そこが一つポスト・クラシカルにおいては一大拠点になっていて、2006年にビョークとかトム・ヨークと仕事をしていたヴァルゲイル・シグルズソンというプロデューサーがベット・ルーム・コミュニティというレーベルを立ち上げたんですね。

このアイスランドの小さなレーベルが、ポスト・クラシカルのニコ・ミューリーや、ベン・フロストといったアーティストを紹介していきました。(このレーベルはドキュメンタリー映画もあるみたい。ここにIcelandiaの小倉さんが書いた紹介文を発見!)

レイキャビックというアイスランドの首都を中心にポスト・クラシカル・シーンのコミュニティが生まれてきたという感じですね。

あ:ビョークやシガーロスはポスト・クラシカルではないですよね。歌が乗ってるから…

原:そう、あれは「ポスト・ロック」っていうじゃないですか。

「ポスト・ロック」と「ポスト・クラシカル」で、ちょっと似てるんですよね。「今までにないロック」「今までにないクラシック」を創造していこうというスピリットも一緒だし、音的にも結構似ている部分があるなぁと私は思います。

あ:クラシックのどんどん進化していってエレクトロを取り入れたりするという流れがあると思うんですけど、その流れと同時期に始まったって感じでしょうか。クラッシック畑の人が始めたと考えていいのかしら。

原:どちらかというとシガーロスとかビョークを好きな人たちの周りから始まったけれども、だんだんにそこに音大出てクラシックを学んだ人とか、クラシックの音楽家がそこに集まってきて、あとから割とこうなってきたかなぁと…

あ:なんでアイスランド中心だったんでしょう。何か理由がありますか?

原:やはりシガーロスやビョークの存在はあるのでしょうけれど、アイスランド、私は行ったことがないんですが、すごく狭くて一つの村みたいな感じらしいんですね。

だから「俺はジャズをやっている」「お隣はロックやってる」「あの人はクラシックやっている」という小さなコミュニティの中にいろんな音楽をやっている人がいて、だからシーンが混ざりやすいんですね。

だから「一緒にやろうぜ!」みたいな感じ。また割と北欧って新しいものを取り入れていく精神もあるし…。

(↑ この原さんのお話し、すごく説得力がある。フィンランドとかもそう。伝統音楽とJAZZとか融合が進んでる。例えばシベリウス・アカデミーの各学科って、ものすごく隣接してる。隣の部屋でJAZZやってるよー、みたいな。となるとバンドを一緒にやろうとか融合が進むんだよね…)

あと自然が豊かで壮大なスケールの大きい氷河とか森とかがあるので、ポスト・クラシカルの音楽を聴いてもらうと、そういう自然の風景が思い浮かぶことが多いです。そういった風景との相性もいいのかなと思いますね。

あ:気候とか環境とか調べていくと、「あぁこの音楽が生まれた街なのか」って合点がいったりすますもんね。

原:夏に聞くとぴったりな、寒〜い感じの音楽も多いです(笑)

あ:どういう変遷で今の形になったんでしょうか。

原:さっきもちらっとお話しした、ポスト・クラシカルの大元をたどるとミニマル・ミュージック:スティーブ・ライヒとかに行き着くのを、さらに遡るとドビュッシーとかサティとかもろクラシックの作曲家まで遡れるかもしれません。

そして、そういったクラシックの源流とはまた別に、ビョークとかシガーロスとか、シューゲイザーですね、そういったロック。音響系。うわんうわんうわんみたいな音響系の流れもあって、そういった流れを汲んでアイスランドにシーンが生まれて、それが2006年くらい。

それが2010年代にはいって、いよいよクラシックの本流のところと合流していくんですね。

ドイツ・グラムフォンとかデッカとか、ずっとクラシックのアルバムを出してきた名門レーベルも「あぁ、若い人に今こういうクラシックが流行っているんだ」ということで、ポスト・クラシカルのアルバムを続々とリリースしていくことになるわけです。

あ:なるほどー。代表アーティストというと、どんなアーティストになるんですか? 

原:一番知られているのはマックス・リヒターという人かな。

この人もインディー・レーベルから出していたのが、ある時グラモフォンから声をかけられて、クラシックのレーベルから出すようになると、今度はクラシックしか聴いてこなかったような人たちの間で、マックス・リヒターの名前が知られるようになってきて、あぁこれはクラシックの潮流なんだっていう話題性が生まれてきて…。

今、そこにいろんなアーティストも集まってきて、ジャンルが解けてなくなってきているんですね。

あ:素敵な流れですね。ヨハン・ヨハンソンもいますね。

原:マックス・リヒターはイギリスから出てきた人なんですけど、ヨハン・ヨハンソンはまさにアイスランドから出てきたんですね。早くに亡くなってしまったのですが、マックス・リヒターとはまた違う音響系な響きの世界を生み出す人ですね。

あ:それこそクラシック特集をやった時にヨハン・ヨハンソンをチェックしたほうがいいよ、ってリスナーさんに教えてもらったりしました…

原:全然クラシックを聞く感覚じゃなくても、好きな人は絶対にハマると思います。

M:Max Richter / The Blue Note Books


あ:エレクトロ要素ってどういうことなのかな…

原:クラシックって本来全然電気は使わないで生音だけなのに、それを増幅したり、音を被せたり、多重録音したり…  加工したり、サンプリングの音をいれたり…といういろいろな方法を融合させている、そんなふうに音楽を作っているのが一つの特徴かな…。

あ:電気を使ってない場合もあるってこと?

原:いや、基本使っているものが多いですね。

あ:ポエトリー的なものが乗っかってましたね。

原:ノイズを入れる人もいるし、いろんな素材をいれていく音楽は多いですね。

あ:現在、ポストクラシカルはどこまで広がっているんでしょうか。

原:本当に同時多発的に、欧米中心に…   あとアジアでも最近でてきているし、いろんなところから出てきているんですけれど。

実は国とか地域による特徴ってあんまりなくて、自分の内面と向き合うみたいな音楽なので、例えばイタリアだからイタリアっぽいとか、あんまりないんですよね。オランダとか、イタリアとか、いろんなアーティストが出てきているんですけどね。

あ:現在シーンで活躍しているアーティストといえば、どういう人がいますか?

原:いっぱいいるんですけど、私が個人的に注目している人、一人目はヴィキングル・オラフソンという、どちらかというとクラシックの世界で有名なピアニストなんですけれども。

この人はアイスランドの人で、ほんとにクラシックの一流のコンサートホール、一流のオーケストラで世界でひっぱりだこ…まだ若くて30代の人なんですが…

同時にアイスランドのポスト・クラシカルのシーンにもコミュニティを持っていて、例えばドビュッシーやバッハなどクラシックを普通に弾いたアルバムを出したあとに、めちゃめちゃサンプリングとかエレクトニクスをドビュッシーの曲に混ぜ合わせたリミックス・アルバムを出すんですよ。それがすごいかっこよくて、ぜひ聴いていただきたいなぁっていう…

あ:他にはいらっしゃいますか?

原:ハニャ・ラニという女性のコンポーザー、ピアニストなんですけど、この方はポーランド出身。ポーランドといえばクラシック的にはショパンが有名なんですが、ショパン音楽アカデミーでクラシックを学んだ人なんですね。

(ハニャ・ラニは)ピアノと弦楽四重奏、ヴァイオリンとかストリングスをまぜて結構クラシックから離れた音楽をやっている人です。ビートとかもしっかり入っているものもあるし…

でもアコースティックの楽器の音が綺麗にはいってて、美しい音楽をやる人です。

あ:映画の音楽によく使われるんですかね。

原:映像との相性がすごくいいんですよ。インストルメンタルだし、映像を喚起する力もすごくある。聴いている人の中に「あの時のこと」とか、「思い出」とか喚起させる。映像喚起力がある音楽というのはあります。

あ:瞑想する時とかも良さそう。無音だとむしろノイジーになるし。(←するどい!)
原さん、ありがとうございます。後半でさらにもっと深く聴いていきたいと思います。


あ:映画のサウンドトラックを手が得ているポスト・クラシカルのアーティスト多いですよね。原さんに紹介していただきたいと思います。

原:まずはロドリゴ・エイナウディ。この人はポスト・クラシカルというジャンルが生まれる前から活躍してきたピアニストであり作曲家なんですが、映画でいうと『最強の二人』(2011年)というフランス映画のサントラを手がけました。

今流れている「Fly」という曲なんですが、それで有名になって、そこから映画の仕事をたくさんやるようになりました。

最近ではアカデミー賞を取った『ノマドランド』とか、『FATHER』とか、一流の映画のサントラを手がけています。



あ:あぁ、なるほど、こういう風にカテゴライズされる前からこういう音楽をやっていたんですね。

原:日本にも来日しているんですけど、前はヒーリング、癒しの音楽みたいなカテゴリーですでに人気だったんです。

でもポスト・クラシカルが盛り上がってきたら、ポスト・クラシカルとして、またカテゴライズされるようになって、TikTokでものすごい再生数になっているらしいです。

あ:面白いですよね。今、ヒーリングミュージックってあんまり… んー あるけど、10年前くらいの方がもっと聞いた気もする…そのワード自体!

原:そうですね、ワードは変わるけど、音楽そのものはずっと変わらずやっている人がいる、ということですね。

あ:でも「これはヒーリングミュージックです、聴いてください」っていうのよりも「ポスト・クラシカルです」って言うことで、聞こえ方が変わる人も、いるかもしれませんね。

原:確かにアーティストも、やっぱりクラシックの要素をより強く持っている人は「ポスト・クラシカル」という感じですね。

あとアート性。こだわり? ノイズをいれてみたりとか、ただ心地よい音楽をやっているわけではなく、ちょっと仕掛けがあるような音楽はポスト・クラシカルに多いかな。

あ:そうですね、「癒しの音楽」なんだけど、癒しのために作っている感じはしないですよね。

原:やはりビジュアルも含めて、アート性の高いものをもとめているというのはありますね。

の:他にはどんなアーティストがいますか?

原:他にはヨハン・ヨハンソンという、映画もたくさん手がけていて、今、聴いていただいているのが『メッセージ』という映画の「Arrival」という曲。

M:Johan Johanson / Arrival


原:宇宙から生命体がやってきて、コンタクトを取るという映画なんですけれども、この人はメロディというよりも何か響きの世界… 壮大なものをつくり上げる人で、この音楽がなければこの映画はなかったんじゃないかな…という。

あ:これ、どうやって作ってるんだろーってシンプルに疑問なんだよなぁ!

原:そうそう、そうなんですよね。この人はすごい完璧主義者すぎて、話題になった『ブレイド・ランナー2049』の音楽も途中まで手がけてたんですけど、方向性が違うとか言って降りちゃって、そうしているうちにその少し後に亡くなってしまったという…

あ:ヨハン・ヨハンソンさんは、本当にこれは作っている様を見たい。どういう頭の中なんだろう、という… 

原:結構映像から作っていく人らしいですよ。


あ:最後は日本のポスト・クラシカルについてご紹介いただきたいんですが、日本にもアーティストはいらっしゃいますか?

原:いますね。いっぱい。2000年代から活動している人もいらっしゃいますし、大元を辿れば坂本龍一さんとかもポスト・クラシカルのアーティストとして世界中のアーティストから尊敬を集めています。

そういった流れもあって、日本にも小瀬村晶さんとか、haruka nakamuraさんとか、原摩利彦さんとか。

あ:お名前が出た原摩利彦さんを聴いてみましょう。「Passion」(Vがすごく素敵なので映像を貼っておきます。音楽は1分すぎくらいからスタート)

M:Passion / 小瀬村晶


あ:リバーブがかかっている感じとかそうなんですけれども、いわゆるクラシックと作曲の方法とかも違うんでしょうかね。

原:原摩利彦さんがこの曲を実際どう作ったのかはわからないのですけれど、マックス・リヒターとか見てると、もちろんクラシックの作曲との論理を使っているのですけれど、それと同時にコード進行のある音楽であったりもするので、バンドっぽい感じというか、割と感覚的にはロックとかの人が曲を作る時みたいに即興でピアノとかギターで作っていく人もかなり多いと思います。

あ:日本独自のポスト・クラシカル感というのはあると思いますか?

原:いやーなんか、私が思うっていうより、海外のリスナーの人たちがそう言うふうに感じているようで、原摩利彦さんも小瀬村晶さんも拠点は海外というか、海外のレーベルからのリリースになっているんです。

なので、海外の人から聞くと「日本っぽさ」を感じるっていうのがあるみたいです。

叙情的で繊細な感じ? 美しいメロディがあったりとか。日本のお寺の「禅」とかあるじゃないですか? それって余計なものを廃してミニマリズムみたいな。そういう音世界というのが、日本のポスト・クラシカルにあるんじゃないかなぁと思います。

(ちなみに小瀬村さんは、原さんによる素敵なインタビューがこちらに掲載されています

原:若い人もいっぱいいるのですが、一人ベテランをご紹介します。日向敏文さんという方で、さきほど紹介したルドリコ・エイナウディと一緒で80年代からコンポーザーとして活躍してきた方なんですけれども、今お聞きいただいている「Reflections」という曲、86年に発表された曲ですが、それがつい最近、だんだんと海外の若者たち…18歳から20歳くらいの若者たちの間で突然配信で再生回数がぐわっとあがっていく現象が起きたそうなんです。

最初はヒップホップの人たちにサンプリングされたとか、いろいろ同時多発的にTikTokやYou Tubeとかで拡散されていき、世界中に広がっていったらしいんです。今、ストリーミング再生4,600万をこえるメガヒットを記録しています。

あ:こういう現象、面白いですよね。86年に発表された曲が令和になって人気とは! 

M:Reflections / Toshifumi Hinata


原:そうですね。インターネット、配信時代ならではの現象ですね。

その日向さんがそういった盛り上がりを受けて、13年ぶりのオリジナルアルバムを発表されるんです。『Angels in Dystopia』というアルバムで、日向さんご自身もポスト・クラシカル的な潮流というのはご存じで感じていらっしゃって、そんな中で世界情勢が… 戦争が起きたりとか大変な世界の国の若者たちに優しいメロディを届けたいということで、アルバムを作られたということです。

M:Little Rascal on a Time Machine / Toshifumi Hinata
(こちらはもうすぐ先行配信になります。配信になり次第、ここに貼り付けます)

(きゃー 最後までFOしないでかかった💙 ありがとうございます)

あ:めちゃめちゃいいですねー

原:いいですよね。アイスランドの音楽とはまた違った感じでしょ?

あ:なぜか慣れ親しんできた居心地の良さみたいなのも感じました。

原:確かに懐かしさを感じますよね。

あ:ゆりかご的なものを感じました(←あっこさん、名言でた!)。原さん、今日はありがとうございました。最後にお知らせがありましたら…

原:ありがとうございます。私が自分で運営している音楽メディアがありまして、こちらで今でお話ししてきたアーティストへのインタビューとか、普通のクラシックの人たちの紹介とかいろいろ記事を紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

先行配信はこちら


原さん、あっこゴリラさん、ありがとうございました〜〜

というわけで、日向敏文さんのニューアルバム『Angels in Dystopia』は7月27日発売、全世界同時配信になります。


PS
な、なんと!! エイナウディがTiny Deskやってる!!