映画『イニシェリン島の精霊』を観ました。

今、アイルランド文化ファンの間では超話題の『イニシェリン島の精霊』を試写で拝見することができました。ありがとうございました。いや〜 なかなかの迫力でしたよ。

監督はこれずっとやりたかったのじゃないかな。マーティン・マクダナーと言えば、あの名作『スリー・ビルボード』だけど、アイルランド系の両親の元、ロンドンで生まれ、苦労して映画監督になった方。

監督、演劇(ステージ)の方では、すでにアイルランド・ネタの作品がたくさんあるようです。しかもお父さんがゴールウェイ、お母さんがスライゴらしいね。というわけで、子供の頃からアイルランドのおじいちゃんおばあちゃんとも交流があったんじゃないかと想像する。

そしたら、こういう世界、子供ごころにはめっちゃ刺さるわなぁと思ったわけです。

『スリー・ビルボーズ』は圧巻だったけど、今回はその世界観・不条理感そのままにアイルランドの空気をばっちり描いていたというか…。訳がわからないながらも話の最後は一応着地すべきところに?着地し、とにかく「うーむ、これは…」と考えさせられる。そんな映画でした。

それにしてもアイルランド文化ファンであれば、この映画は必須ですよ。まずはコリン・ファレル! 

いいよなぁ。この映画でもコリン・ファレル being コリン・ファレルというか、もうあいかわずのアイリッシュ訛りと演技が最高です。ほんと「困った顔」させたら、右に出るものはいない! 今回もこの作品中、ずっと困った顔してますよ。

というか、この作品、俳優陣、全員が圧巻です。本当に演技のクオリティがすごすぎる。「昨日まで親友だった」というフィドラーの友人役のブレンダン・グリーソン、そして妹役のケリー・コンドンと、警官のバカ息子役のバリー・コーガンも最高に素晴らしい。

特にこのバカ息子は視線のへんなところに泳いで行ってる感じとか、完全に「イっちゃってる」感じが圧巻。これ、えっっ、演技? 演技なのか? 憑依しているとしか思えない!? 

彼、映画『聖なる鹿殺し』でも頭のおかしい男性を演じてたよね。ほんとすごい。ちょっと名前覚えておこう。ダブリン生まれだし、これからずっと応援したいかも!?

妹もいい味出してます。アイリッシュの女の人、完璧。そう、昔はアメリカの女優が普通の英語しゃべりながらアイルランド映画に出てきてたけど、今はそういうのが許される時代じゃないんだよ。このぐらいアイリッシュネスが際立ってないと、こういう映画では作品に負けちゃう。

っていうか、彼女もティッぺラリー生まれなのね。『アンジェラの灰』や『スリー・ビルボード』にも出ていた方。この彼女も本当にすごい。特に兄に対して怒鳴りちらすところ、最高!

ちなみに撮影は見る人が見ればすぐ分かるんだけど、イニシュモア島とその周辺で行われたそう。これが本当に圧巻。ちょっと天気が良すぎる感がなきにしもあらずだけど、おそらくアイルランドで撮影された映画の中でもっとも美しい作品になっている、と言っても間違いない。

それにしても婚期を逃し、そのまま実家に兄妹同士で住み続けているところ、パブに行ってしゃべるしかやることがないこと、閉鎖的で誰もが他の人たちがやることまでも観察している感じ。あぁ!! このどうしようもない感じ分かる!

そして、最終的に島を出ていく妹だけが、正気をたもっているようにも見える。彼女は本当にお兄さん思い。最終的に強いのは女だよね。女は優しくて、強いよ!! いい!!

ちょっと残念なのは音楽で、音楽は映画畑の人よりアイルランドの伝統音楽系の誰かを使ってほしかったかなぁ…というのは贅沢か。でもこれは監督の演出と密着している部分だから仕方ないか。 『スリー・ビルボード』もやってたカーター・パウェルが担当。

とはいえ、伝統音楽の描かれ方も悪くなかった。農村のベテラン演奏者に本土から曲を習いに来る若いプレイヤーたちとか、パブでのセッション・シーンも違和感はない。

ツッコミどころとしては、伝統音楽のミュージシャンなら作曲する時に譜面は書かないだろうというところ。そして若い演奏家の演奏を励ますにしても指揮みたいなことはしないというところ。

でも違和感あったのはその程度で、ブレンダン・グリーソンのフィドルの構え方(これ大事よね)は、それなりにしっかりしてた。ちょっとボウイングが怪しかったけど(と、うるさい伝統音楽ファン)、ちゃんとバウロンはミュートしてなかったし(この時代だったらバウロンはミュートしてないのが正しい)その辺は、合格と言って良いのではないでしょうか? 

他にご意見があるうるさ型の伝統音楽ファンの方がいたら、私も演奏はしないからわからない点がたくさんあるので、ぜひご意見を拝聴したいところです。

…とここまで書くと、何やらシリアスな映画のようにも思えるけど、前半はブラックといえどコメディ・タッチなので、会場で英語がわかるお客さんとドッカンドッカン笑いながら観たら楽しいかなと思ったのも事実。

そして和むのはミニロバのジェニー(この子は本当にペットとして飼われているミニ・ロバで、ジェニーという名前。島で監督がリクルートしたんだって!)と、ワンコ(もちろん羊飼い用の黒白シェパードです)。彼らの存在はポイント高い!

そうそう、情報収集大好きな私は、映画を見る前に町山解説を先に聞いておいたわけですけど、町山さんの言うとおり、この映画は南北アイルランドの内戦の状況を描いている…と言えば言えなくもない。うーん、なるほどね。

なるほど、それは間違いなくあるだろうけど、私はもっと島という閉鎖的な社会の行き場のないどうしようもなさを描いていいるようにも見えるのです。あ、結局は同じことか(笑)

でも確かに「もうどっちがどっちだかわからなくなっちゃった」「イギリス相手に戦ってた頃の方がよかったな」とか… この辺は生きてる人間の本音だよね。延々と終わらない内戦の大変さ。戦わない人々の飽きっぽさ。

そして、他のすべてから切り離された牧歌的な島の世界。ほんと人間って…

ガイドの直子さんのブログもすごく参考になるので、この映画を見て???となって、頭の中を整理したい人はぜひ。直子さんのブログ、わかりやすい。でもロケ地がすぐわかってしまう職業病…という話は爆笑でした。映画を観て気になった方は、直子さんに実際現地に連れていってもらうといいかもです、ハイ。

映画の原題は「The Banshees of Inisherin」(イニシェリンのバンシー)というんだけど、バンシーとか、イエーツとかちょっとオカルトよりのケルト文化とか、アニメとかゲームを通じてケルト文化に触れている人には、響きまくる何かがあるんじゃないかとも思いました。

そう思うとアイルランド本土よりも、これは日本でヒットする可能性も少なくはないとは思う。ちょっと「ミッド・サマー」に近いノリか?

というわけで、1月27日、もうすぐ公開!! 都内ではシネマ・シャンテ他。詳細はこちらの公式ページへ。


それにしてもこのビジュアルいいよなぁ…


これも、いいでしょう?


チラシたくさんいただいたので、通販のお客さんに同封していくよ〜

とか、書いてたら、ゴールデン・グローブ賞受賞おめでとうございます。


PS

とか、書いてたら直子さんからこんな指摘が!! さすが!