ひのまどか『音楽家の伝記 はじめて読む一冊 バルトーク』を読みました

 


やった。やっとバルトークのことが知れた。バルトークの本は、他にも何冊か買ってあるのに積読になってしまい、全然バルトークのことを知らなかった私。だって、学校で習わなかったもの。

でも、やはり民族音楽の仕事に関わっているのであれば、知っていないといけない音楽家なので、いつかは読みたいと思ってたのよ! でも難しい本を読むよりも、こうやって子供向けに書かれた本を読んだ方が当然ながらわかりやすい。

そして「子供向け」とはいえ、読み応えバッチリなのであった。

それにしてもバルトーク。特に数年前大陸の音楽、ハンガリーのライコー・フェーリックスとかと関わるにつけ、バルトークのことは知っておかねばならないと常日頃思ってきたのよ。

そして知った。バルトーク、めっちゃ、いい人やーーーーん! こう言ってはなんだが曲は素晴らしいが人間的にはどうなの?みたいな輩が多い世界で、めちゃくちゃ良い人。信念の人。

いや、でもだからこそ彼の周りは返って彼と仕事をしにくかったかもしれない。でも彼のこの生き様にはとても感動した。

この本のシリーズ初めて買ったんだけど、すごく読みやすい。今月末には同じシリーズでバーンスタインも出るので、こちらも楽しみである。絶対に買う。というか、すでにいつもお願いしてる本屋さんに注文済みだ。

話をこの本に戻す。

バルトークは小さい時からとても身体が弱かった。でも民謡収集に情熱を燃やし、民族音楽をたくさん収集したんだよね。これがアーカイヴされなければ、あっという間に消えてしまっていたかもしれない音楽。

この彼の努力のおかげで、私たちみたいなワールドミュージックの仕事が今、なりたっている…といっても過言ではないわけだ。

本でも最高だったのが第1章の農村でのフィールドワークの部分。子供にも読めるように書いてあるため、すごくわかりやすい。農村に到着し、農民たちの警戒をとくによう少しずつ協力をお願いし、歌ったり演奏してもらったりするのを採譜し、最後は当時すでに存在していた蓄音機に録音していく。

その過程がヴィヴィットに描かれる。農民たちとバルトークが仲良くなったら仲良くなるにつけ、「これは使えないな」と思ってもニコニコ興味深げに聞いてあげないといけなかったり、「おおっ、こりわっっ!」みたいなのも感情を表に出さず黙々と記録しないといけなかったり、本当に大変だ。

そして農村のチャーミングで、ピュアな人々!! その生活の中にこうやって音楽は息づいている。

そしてその過程は、その後彼が書く彼の作品にも活かされていくのだ。ハンガリー独自の音楽、ジプシーでもなくドイツ的でもない、かといって民謡をそのまま引用するでもない新作も彼はどんどん作り出していく。

この感じ、なんか伝統音楽の世界と一緒よね。すぐれた演奏家の中にも自分で作曲する人は、曲を集めて覚えるだけじゃなくて、「それ風の」伝統音楽を生み出す。それは新しいものだからコンテンポラリーで、伝統音楽ではないのだけど、あくまでその様式、スタイルは伝統音楽だ。

ブライアン・フィネガンとか、マイケル・マクゴールドリックとか、ダーモット・モイニハン、アラン・ドハティ etc etc... アイルランド音楽にもすごい作曲家がたくさんいる。

正直バルトークの音楽を何曲かspotifyで聴いてみたけど、なかなか不思議な感じで、私にはその魅力がよくわからなかった。

何回も聞けば、好きになれるかもしれないけど、私にとっては彼の偉大さは言葉で説明してくれた方が消化できる(笑)。つくづく音楽の才能がない私。だから本はいい。

バルトークいわく「残念なことにハンガリーの音楽遺産の中には西側の血は一滴も入っていない。いかにわたしが努力して探そうとも、あらゆる特色はそれが東にあることを示している」うーむ。

だから彼の研究が、結果オーストリアの手先となって周辺民族を圧迫し続けてきたハンガリー人たちにメッセージを伝えることになった。つまり、ハンガリー人は自分たちが間違っても自分が差別しているそれらの民族と同族とは信じたくないのだ、とバルトークは憤る。

でも音楽を聴いてみろ、ほら!!…そういうメッセージなんだと思う。音楽を聴いてみろ、みんな友達なんだから!

そうしてバルトークは、昔ハンガリーの人々が、周辺のさまざまな民族と交流があり、歌が砂漠や森を超えて伝わってきたことを証明していった。これらの結果は学問上、素晴らしいだけではなく現在の国や民族同士の友愛にもつながる…と、いうわけなのだ。

これさぁ、今の日本や中国、韓国などとの話とつながるよね。

彼の研究は、そんなふうに本当に重要なものだ。だけど、そんなバルトークの活動に対する世間の評価は、潮の満ち引きみたいにいい加減だ。敵意が押し寄せたり、賞賛の嵐にまきこまれたり… 

海外の評価が国内での評価に変化を与えて、コロっとひっくり返ったり。なんだかその辺も今とあまり変わりないよな…ほんと世間の評価ってくだらない。

そもそも彼が生きた時代は大戦の時代だった。ナチスに反抗したバルトークは自分の曲にドイツ語のタイトルをつけることに猛抗議したり、ナチス支配下のドイツでユダヤ人の作曲家の作品を集めた「退廃音楽展」が開かれると猛抗議して、自分の作品もそこにいれるよう強く要求したそうだ。かっこいい。

でもかっこいいことは生きにくいことにもつながる。バルトークは最終的にはアメリカに逃れたが、そこでの生活も大変だった。友人たちはこぞってバルトークに援助を申し出たのだけれど、バルトークにお金をあげることほど難しいことはなかったそうだ。相当な偏屈親父だったのかも。

それにしても彼の私生活は謎で最初の奥さんと結婚したのも周辺の人間には知られなかったし、その奥さんと離婚したのも隠していたらしいし、次に結婚した奥さんも極端に若く…  うーん、今で言う「トロフィー妻」?(こういうのも今は差別用語になるのかな?)そういえばゴダーイも極端に若い奥さんと結婚したんだよね。

そうそう、ゴダーイとバルトークって、こんなに仲良しだったんだ!というのも驚愕。もっとライバルみたいな関係だったのかなと想像していたので、それもびっくり。

でもそれってあるかも。ワールドミュージックの世界で働く人たちって、今でもそういうところあるかも。お互い助け合わないと、とてもじゃないけどやっていけない。

とはいえ、どんなに研究者(著者)が調査したりしても、真意のところは本人たちでないかぎりはかりしれない面があるのも事実だ。だからそこの部分の想像力を失いたくはないが、それにしてもこの本はわかりやすい。

まぁ、あと子供が読むことも想定して、ある意味偉人伝的にしないといけないのかな? 

でもゴダーイ、農村に取材に行くバルトークに実に的確なアドバイスを与えてくれたりしているし、バルトークが生活に困窮した時も、陰日向関係なく援助していたし、二人の友情も素晴らしい。ゴダーイもめっちゃいい人やんけ!

というか、ゴダーイのことすらよくわかってない私。でも彼の影響で、今でも音楽教育にこんなに合唱が取り入れられているくらいは知っている。ま、彼の本もいずれ読まねば…

先日読んだヴォーン・ウイリアムズの本もそうだけど、伝統音楽の収集って作業は、まぁ、情熱だよねぇ。でも集めないと、記録にしないと、おじいちゃんおばあちゃんが死んだら、もうその音楽、消えちゃうんですから!!

今、実はこの感じはうんと遅れてリアルにポーランドで残っていて(それはヤヌシュ・プルシノフスキの活動などにみられる)それが、まさに歴史は繰り返すというか…  ちょっと感動しているのであった。

でも何度も書くけど、本当にこの本で一番印象に残ったのは、最初の章での農村での音楽収集シーンだ。遠慮がちに調査に訪れ野宿しているバルトークを「おじいちゃんが納屋で寝ていいって」って招く少年など、とにかくいろんなエピソードがヴィヴィッドに描かれている。

ちょっとフィクションも入っているのかもだけど、実にリアルに読者に伝わるんだ。そうそう、ひのさんの取材記も最終章に載っていて、これも読み応えあり。バルトークの長男さんにもお会いしたそうですよ。

そしてなんとシリーズには小泉文夫先生も出ているではないか。

…と、まぁ、ベートヴェンやモーツアルトだけじゃなくて、ひの先生、ちょいちょい民族音楽系を挟んでくる!? いずれにしても小泉文夫先生の本もチェックせねば。(かなり前に小泉先生は『音楽の根源にあるもの』を読んで、そして今ではすべて忘れている人>バカなオレ)

引き続き、このシリーズ追いかけたい。何にはともあれ月末に発売になるバーンスタインがとっても楽しみだ。