一人出版とその世界。本屋についてのあれこれなど。

先日のランニングで聞いたポッドキャストが、偶然なんだけど「一人出版」の話だった。

 

朝日を退社して地方で出版社を始めた堀江昌史さんと、また作家エージェントなどもやられているこれまた一人出版の小林えみさんのお話。聞き手も女性記者。なんかみんな可愛らしい声(笑)

こちらは後半。


堀江さんが出版社を始めたばかりの時の失敗談も笑える。失敗談って、本当に人それぞれ。「えっ、失敗ってそこかい?」みたいな感じで、やっぱり事業って、人それぞれなんだよねー だから面白いのだけど。

なんと、この方、本づくりのプロセスでDTPを自分でやったっぽい。例えば4ページで一括りになることも知らず印刷屋さんに発注し、印刷屋さんに言われて初めて気づくとか…

ページをPCの画面で見ている時とは違う、本を開いた時に綴じ部分に飲み込まれてしまう「のど」の部分。それを知らずにめっちゃ読みにくい本ができてしまったりとか…。

うわーー、それは危険! それは素人には、絶対に無理だろう!と私なんぞは、デザインなんかは速攻プロに発注!とすぐ思っちゃうのだが…

それはコンサートのPAを自分でやろうとするのとまるで一緒だ(笑)。朝日新聞にいたくらいなのだから頭の悪い人ではないとは思うのだが、「おいおい、そこかい!?」と正直思ってしまった。

でもこうやって自分の失敗を明るく話せるのって、素敵だよねーー。

ウチの「アイルランド音楽名盤ガイド」も、実は編集を担当してくれた菅野和子さん以外、みんな「初めて」体験ではあった。

私は本を出すのが初めて。デザイナーの高橋そのみさんは本をデザインするのも初めてだった。とはいえ、高橋さんは雑誌やMOOKでは、経験豊富な方ではあった。この本もちょっとMOOKみたいな装丁だから、やりやすかったかもしれない。

とはいえ、高橋さん、書籍は初めてで、でも「野崎さんとならぜひ一緒にやりたい」と快く引き受けてくれたのだ。うーん、さすが20年以上? 一緒に仕事していただいてるからなぁ。本当にありがたい。

正直、新しいソフトの導入などもされたようで、このプロジェクト、高橋さんにとっては決して割の良い仕事ではなかっただろう。

しかも私が秋のツアー中で、ボロボロになっており、私のホテルの部屋で最終校正をするなど、本当に高橋さんにはデザイナーとして以上のご負担をお願いしてしまった。

でも、ほんとうにプロが手がけた本はレイアウトからフォントの選び方から何から、とにかく読みやすい。

一方で、このひとり出版の元朝日新聞の方、その作業を素人がやったと思うと、震える… 

もっともプロデューサー特権で、私だって「PA、私がやってみたい!」とか私が言い出せば、できちゃう世界だから怖いんだよね(笑)

でも外注できるものは外注する。一人事業の場合、これは基本中の基本だ。で、自分は自分にしかできないことをする。そうじゃないと、とてもじゃないけど手が足りない。

ほんとに本を作るのは、ある意味プロを雇う予算があれば誰でもできる作業なのだ。

重要なのはどうやって売るか…だよね。どうやって事業として回すのか。そこだと思う。そこだって実はやろうと思えば外注できると思うけどね…。書店回る時間とかなかなかないから、フリーの本営業マンとか、今、ニーズあると思うけどね。もっと言えば、本のコンシェルジュ、キュレーターみたいなこととか。

メディアでの露出や、本としての価値、本屋やってたってただのバイトとして店頭に立っている人も多いだろう。そういうのをカバーできる、そういう存在とか。

思うんだけど、こういういわゆる事業の組み立て方、学校とかで教えないのかなと最近思うよね。いわゆる「事業のやり方」。っていうか、最近の教育課程では入ってたりします?

サラリーマンとかで自分の給料が自動的に入ってくる人の中には、おどろくほど事業センスがない人もいる。

事業として、サービスを売るのか、物を売るのか。何をもって自分の仕事をお金に変えていくのか。

そして物を売る場合、それがCDであれ、本であれ、流通が問題なのだ。もちろん最近は、通販ひとつとっても昔に比べたら、ずいぶん楽に始められるようになった。

ところがいつまでたっても大問題なのは小売。実店舗に商品が並ぶまでのプロセス。そしてそのお金をいかに回収するのかというプロセス。

こんなんだもの、本は売れなくなるわけだよなーと強く実感する。

そんなわけで、上記にリンクしたポッドキャストの話題も、本作りから次第に小売店=本屋さんの話題につながっていく。

そして、そこでやはり出てくるのが最近流行りの棚貸しの本屋さん。何度か書いているけど、私も参加してるんですよ、棚貸しの本屋。(神保町と渋谷にある。詳細は下記)なんとこのポッドキャストをやられている小林さんは本屋・実店舗もやられているそうなのだ。

もっとも本屋もいろいろで、こういった新規の個人本屋さんは、いわゆるトーハン、日販とは契約できないから雑誌は置けない…みたいな苦労も多い。それにベストセラー本が回ってこないとか弊害もある。

(まったく、そんな状況で「雑誌が売れない」とか文句言ってんだから、片腹いたいよね…。出版社が束になって、卸しに「もっと丁寧な細かい仕事もしろ」って、プレッシャーとかかけないのかな)

そんなふうに本の流通が難しいものだから、今や街の中に本屋さんがないという町や村もあるそうで、本当に本屋の未来は暗い… 結局本当に本が欲しい人はアマゾンをクリックするハメになる。

ほんと本の卸しのシステムって、本を売るまい売るまいとしているとしか思えない。いったいなんなんだろう!? これって独禁法とかに抵触しないんだろうか。大きくて儲かるところだけデカい会社が独占し、小さくて細かい儲からない話には門前払い。それでいいのか?

そんな風に現実は暗い話ばかりではあるけれど、愛情を持って、ジャンプは買えないけれど丁寧なセレクトショップ的なお店を開いている方も多いし、私のような(下記参照)シェア本屋さんに参加し、「自分を表現したい」輩も最近はめっちゃ多いわけだ。

そして本を出す。ひとり出版は「愛情」がなければ続けられない。だからひとり出版社が出す本は愛情に溢れている…という話でポッドキャストは、それなりにポジティブな空気で終わる。

しかしシェア本屋なんかにこうやって参加してると思うのは、不動産持ってる大家さんはリスクがなくていいよなぁ、ということ。そんな頭のいい大家さんにのせられている、表現したいバカ=自分がいるのを自覚するわけなのだけど。

まぁ、最近本当に強く思うのだけど、これから「ビジネス」になるのは、おそらくそういう「表現したい人たち」「何かやりたい人たち」側からお金を取ることなのだと思う。

「音楽が聴きたい人」からではなく「音楽を聴いてもらいたい人たち」

ミュージシャンはお金を払って、人に聞いてもらう…と。聞いてもらいたいならお金を払えよ、と(笑)

だから理想の事業としてみたら、私みたいにミュージシャンにギャラを払って、自分がリスクを抱えていてはダメダメなのだった。ミュージシャンにお金を出させて、雇われなくちゃダメなのだ。

でも、その形態、なんか私は嫌なんだよな。自分が一緒に仕事する音楽家は、やっぱり自分で選びたいし… っていうか、自分は自分のボスでいたい。

今でもギャラ案件は本当に苦手だ。ついつい「また安い仕事しちゃったぜ」と思う。なんだろうね、これ…

そんなふうに、そんなビジネスチャンスも良しとしない自分がいて、本当に困ったもんなんだけれど、まぁ、でも人生、楽しむのが一番。幸い養わなきゃいけない家族もいない独り身としては、そこは自分が自由に選べる。

不動産屋さんには味わえない表現の世界を私は持っている。ミュージシャンやアーティストといった仲間もいる。問題はそれをいかに活かしていくか…ってことなんだけどなぁ。そこがプロデュースの腕の見せどころなんだがなぁ。

私も最初、「本の出版をプロデュースしたい」「本を出したい」と思った時、一般的に売ることのできる、書店に並べられる普通の本を当初は考えていた。

普通にも売れる本を出して、がんばって本屋を営業して周り、著者を引き連れてラジオや取材に頑張る。

そういう理想を描いていた。「でも、そういう「いわゆる著者もの」は著者の気分次第。出るか出ないか一生わからない。そういう著者のスケジュールに振り回されている余裕は自分にはなく、かつ本の流通は知れば知るほど絶望的になり「流通はアマゾンと自分の通販でいいや」と割り切ることにしたのだった。

そうこうしているうちにアルテスパブリッシングさんに『親愛なるレニー』のプロモ話をいただき、著者をひきつれてラジオや取材を頑張る…という目標はアルテスさんと吉原真里さんにやらせてもらった。だからもう満足なのだ(笑)。

そうだ、ラジオや取材や宣伝をしたいなら、自分が出せる地味ぃーな本ではなく、メディアで勝てるようなすごい本に出会って、協力的な著者に出会わないとダメなんだと妙に納得。それはTHE  MUSIC PLANTの小さな出版部では無理である。

一方で流通に関するあれこれは、一人で戦うには敵が巨大すぎる。出版社の卸し問題は私よりもうんとえらい人たちも声だかに叫んでいるのだが、改善される様子はまったく感じられない。

だから歴史を変えるよりも、自分は自分の好きなことを実現する方に力を入れようと諦めた。

自分にできることは何か? いつもそれとの戦いだ。

だから「アイルランド名盤ガイド」を出版することに決め、流通は従来のCDで使っていたルートを利用するにとどめた。これは良い結論だったと自分でも思っている。

今は第2弾のリリースのため、原稿集めおよびあちこちに連絡・確認作業中。いろいろあってスケジュールが前倒しになり、かなり忙しい。

ところで、小林さんの出されたこの本、ひとり出版に興味ある人は読んでみたらいいのかも? 

これも頭のいいリリースだよなぁ。要は表現したい人の側につく。出版社になりたい人の側につく。何かやりたい人は貪欲で勉強もするから、こういう本はきっと売れる。
 
 



THE MUSIC PLANTのプロデュースする、THE MP BOOKSよりリリースのPaul Bradyのこのリスナーズ・ガイドは、こちらで通販している他、渋谷と神保町の私の本棚でも販売中。

ぜひお近くにお越しの際は、お立ちよりください。

神保町パサージュ

●アイルランド音楽名盤ガイド:ポール・ブレイディ「Welcome Here Kind Stranger」
●小泉八雲の怪談づくし
●山下直子「絶景とファンタジーの島、アイルランド」
●アンディ・アーヴァイン『旅に倦むことなし』
●アイリッシュ・ミュージック・セッションガイド
●ケルズの書のポストカード6種類セット
●アイルランド音楽のCD、北欧の音楽のCD
●ケルト、北欧文化に関係ある野崎が使ってた資料本をセカンドハンドにて

場所はここ 私の棚は店舗一番奥の一番下の段になります。

渋谷ケルト書店

●アイルランド音楽名盤ガイド:ポール・ブレイディ「Welcome Here Kind Stranger」
●小泉八雲の怪談づくし
●山下直子「絶景とファンタジーの島、アイルランド」
●アンディ・アーヴァイン『旅に倦むことなし』
●アイリッシュ・ミュージック・セッションガイド
●最近のノンフィクション、読み終わった本など

場所は渋谷ヒカリエ8階
私の棚は92番 最上階、一番奥の位置になります。アイビーが目印です。


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