すっかり大学通いが楽しくなってきた野崎です。こちらはこの夏の「吉原真里先生、2023年全国大学講演ツアー(笑)」の最終日。
これまたお題が違うので、とても楽しみにしてきました。
今回は五人の女性著者による共著『私たちが声をあげるとき』を題材にした上智大学での講座です。やっぱり女性の参加者が多かったかなー
登壇されたのは吉原さんのほかに、立命館大学の坂下史子先生。
というわけで、ここにそのレポートをざっくり書きますが、毎度のとおり野崎が聞き取ったものを手書きメモにして、それをもとに書いているので、誤解や理解が及んでないことなどあると思います。あくまで文責:野崎でお願いいたしいます。
この本はアメリカで声あげた女性を1部が2018年から2020年(割と近年)、そして2部を1950年から1990年として紹介しているわけなのですが、著者全員の意思として、最初からいわゆる「偉人伝」にはしたくなかった、ということらしいです。
だいたい、「すごい人の話」というのは、インスパイアリングだけど、大抵の人は同じことはできない。その一方で立派な人物でも声をあげるまでの葛藤や苦労もある。声をあげても苦しい思いをしている等々。いわゆる偉人伝ではない事例集というのを目指した、とのこと。
最初にタイトル候補となっていたのは『聞け(聴け?)女たちの声』(なんか硬派!?)みたいなタイトルだったそうで、次にそれが『彼女たちが声をあげる時』になった。
でも「彼女」だと、なんか第三者っぽい。対岸の話っぽくなってしまう。著者の五人の先生たちは五人ともアメリカ研究者であり、自分ごととして関わっていることもあるから、自分たちの思いもこの本に重ねていきたいということで、最終的に「私たち」と一人称複数系になったのだとのこと。…ふむふむ、このタイトル、すごくいいですよね。
この本の出版のきっかけとなったのは、2020年6月のBlack Lives Matter(BLM)の運動の時。このニュースは日本でもたくさん報道されたのだけど、吉原さんたちは総じてその報道に問題があることに気づいたのだそうです。
たとえばNHK日曜6時に放送された「これでわかった!世界のいま」という番組。BLM運動を説明するアニメ動画が、ツイッター上などでも批判され話題になりました。
私はその番組は実際に見なかったけど、あの騒動ははっきりと覚えています。(ハフポスに記事があった。リンクはここ)
番組で使われたアニメ動画では、歴史的背景の説明もないまま、ステレオタイプな表現をされた黒人が怒っている、そんなアニメーションが使われていたのだそうです。
実際、駐日アメリカ大使もこの時は声をあげた。一方吉原さんたち13人のアメリカ研究者は、みんなで要望書をまとめ、NHKに提出したのだそうです。
そしたらその要望書のことを毎日新聞が取り上げてくれた。(こちらにまだ記事があり)
そして、素晴らしい集英社の編集者さんが(この日も本を販売にいらっしゃってました!)が、2020年の秋にこれを本にしようといってくれて、そこから2年もかからないうちにこの本が完成したんだって。素晴らしい!
本は2020年カマラ・ハリス副大統領のこんなシーンから始まります。
これ覚えている人も多いよね。前週にはトランプとバイデンのぐっちゃぐちゃになった討論会が放送されて、その翌週の放送
このハリスの対応があまりに素晴らしい、と。かまわず割り込んでくる相手に、あくまでにこやかに対応。まるで子供を嗜めるかのように笑顔をたっぷり向ける。これが本当にたまらない!(笑)
もちろん日本でも伊藤詩織さんのケース、石川優美さんの#KuToo運動、オリパラにおける森喜朗の発言など、事例もたくさんあるのだけれど、やっぱり自分たちはアメリカ研究者だということで、先生たちは舞台はアメリカに定め、この本にとりかかったのだそうです。
さて、この本の具体例を見ながら、実際に「声を上げる時」のキーワードとポイントが本では説明されています。これ、私も全然まだ理解が及んでなくて(本はだいぶ前に一度読んだのだけど、ちゃんと認識してなかったな…)、これらが実現されてこそ、効果的な社会運動となるという重要ポイント。
(1)インターセクショナリティ(交差性)
人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、国籍、障害の有無、エスニシティ、年齢など様々な社会的カテゴリーを、相互に関係し形成しあうものとして捉える概念、分析枠組み
(2)リスペクタビリティ(品行方正さ)
節度、節約、勤勉さ、貞淑さといった態度と、それを反映する外見や振る舞いを求める態度。否定的なステレオタイプを打破するために編み出された戦略
(3)継続(瞬間だけではない)&連帯(独りではできない)
ふむ。これらのポイント、めっちゃ重要だよね。めちゃくちゃ重要なことを言ってる。めっちゃ勉強になる。なんか私はこの講演を聞いて、めちゃくちゃ興奮しているのでした。
そうなんだよね。(1)にあるように、近視眼になっちゃダメだし、たとえば私なんて普段(2)がダメで、すぐ感情的になったり、怒ったりしちゃうし、一方で髪の毛とか普段ぐっちゃぐちゃにしてたり、仕事はまぁそれなりにやっているかもしれないけど、そういったことで損をしている部分は絶対にあるだろうなというのは、自覚あるんだよね。
そんなんじゃ自分の気持ちとか社会は聞いてくれない。伝わらない。
もっとも先生方には、もちろん(2)の功罪もある、とのお話しもあった。「どうして怒りをあらわにしてはいけないのか」という考え方もあるのだ、と。
それこそこの本で吉原さんが書いているハワイのハウナニ=ケイ・トラスクの叫びは多くの人々に衝撃を与えたのだけど、あまりにパワフルで強い彼女の激しい言動に対してはバックラッシュもものすごかった、と。
たとえば他の多くのマイノリティは主流社会に受け入れられるための戦略として(2)を全面に押し出すようになってきたけれど、トラスクの場合は祖先から継承されてきた身体表現などで正面から勝負したのだそう。すごいなぁ…
でもこうやっていろんな例を見てみると、ちゃんとした戦いをしないとダメだ、感情に任せているだけではダメ。トラスクやゴンザレスのケースは、そういったことを問題提起している、とも言えるわけで…。
まさにMr. Vice President, I am speaking... 次に怒りを爆発させることがあったら、この動画を思い出そう…。
そうそう、あと「読んで元気になれる本です」と坂下先生はおっしゃってました。実際に自分たちの経験にリンクさせることができる本、思い入れをまとめた本。一人一人がそれぞれのセクションを担当し、でもみんなで推敲を重ねて作った胸アツな本(笑)とのことです。
いい! ほんとにいい!
でもって、お二人いわく、今の若い人たちは私たちの世代とは違うという希望もある。でもそれを当然だと思って何もしないようではいけない。常に自問自答することがすごく大事なんですよ、とも。
吉原さんが最後に言ってたのが、いつの時代も社会運動の不可視化が問題で、その問題におけるメディアの役割は非常に大きい、というポイント。
たとえばNHKの番組に対して、13人の学者が声をあげたことも重要だけど、それを毎日新聞が取り上げてくれたことが、ここでとても大きかった、と。それによって自分たちはNHKからの反応も得られた、と。
それは確かに私たちが大学教授でメディアへのコネもあったから可能だった、ということもあるけれど、実際自分にはどういうパイプがあるのか、そのパイプ獲得のためのスキルを身につけていくことも大事と話されていたのが印象的でした。
会場からは女性だけでなく、フェミニズムに関する質問が若い男性からも飛び、とても盛り上がったのでした。
いやー なんか元気になった公演でした。っていうか、未来がよくなる気がした。気分が滅入るニュースばかりが流れる日々だから、こういうのすごく大事。
本読んでないみなさんはぜひ。