癌で亡くなる人

荒川土手で出会った亀。水辺に戻してやったのに、まだ亀の恩返しはないなぁ…

一人出版社の方が癌で亡くなられた。岡田林太郎さんという方。その出版社の本は実は読んだことがなかったのだけれど、冒険研究所書店の荻田さんがツイートしてられて興味を持ち、まずは彼のブログを読んだ。なんだかぼおっと最初から最後まで読んでしまった。

そして追悼だから無料で公開するという荻田さんとのトークイベントの映像を拝見して、本当に心が動かされた。荻田さん、ご紹介ありがとうございます。

癌で亡くなった人に興味がある。見ているとリアルな友達を含め、ステージ4を宣告された人が長く生きるのことは難しい。

私なんぞはまだまだ初期のステージで、このままだと長生きしてしまう可能性が高い。特に2度目の外科手術をやられた時は、大病院とは一度関わりあいになると、もう死ぬことができないんだなとちょっとドンヨリしたのだった。が、私だって将来はわからない。

でも私みたいな人間は癌になった方がいいんだろうなとは思う。癌になった何人かの人が「癌になってよかった」と告白しているのだけど、それは本当だと思う。

岡林さんが映像でも言っているように癌で死ぬのはいい。事故などで突発的に死ぬと準備ができないけど、癌なら準備ができる。私はその考えにめっちゃ共感する。


最後の方に出てくる荻田さんの「荻田さんが癌になって余命いくらって言われたら北極に行きますか」という時に出てくる荻田さんのNOという答えにもめちゃくちゃうなずいた。うん、わかる。荻田さん、わかるよ、私! 

もちろん出会っちゃったら、出会うしかない。行くしかない。いい著者に出会っちゃったら本を出すしかない。頑張るしかない。その覚悟。その感じはすごくよくわかる。二人ともよく似ている。

でも、人生において、そういう出会いを経験をしたことない人には、きっと「???」って感じなんだろう。それもわかるんだ!

お二人が紹介されている本もどちらもよかった。荻田さんが紹介している『世界最悪の旅』は旅の名著中の名著だ。探検とは人生について考えることである。

荻田さんが言うとおり人は探検に出たあとのことに注目するけれども、重要なのはその動機だ。そこが人間が人間たる所以なのだ。チェリーガラードの本は、本当にすごい。私も文庫本で2種類持っている。

岡田さんが『夜と霧』を紹介されているのもいい。そう、あれは明るくてパワフルな本だ。怖がらずにみんな多くの人に読んでほしい。本当に名著だから。

一人出版社ならではの話も笑えた。一人出版だからこそのプライドもあり、一人出版だからこその引け目みたいなものもある、と。わかるわぁ。私も同じだもの。

そしてまったく私も同じなのだが岡田さんと印刷屋さんとの会話における自営業の「もうからなさ」の話も超笑えたし、めっちゃ共感した。

そう、落ち着いて座って事業計画見直してたら私たちがやっているような事業では何もできない(笑)。でも走り出してみたら、案外なんとかなる。そこだ。そこがポイントなのだ。

ウチもほんと「こんなんで大丈夫か」とかいつも思うのだけど、なんとなく事業が回っていて、気がつけば30年近くこの事業をしている。もう十分だ。ほんとうに十分。やりたいことをたくさん実現させた!! 安くない毎月の家賃も払えているし、たまにはミュージカルにも行ける(笑)。

これをあれこれ机の上で計算機片手に突き詰めて考えていたら絶対に何も行動できない。事業計画見たらあまりの儲からなさに、行動することを躊躇するだろう。

それにしてもこういう方がいなくなってしまうとは…出版業界にとっては大きなロスだ。この彼があと10年生きていたら、そこで世に出る本もあっただろうし、本当に惜しい方を亡くした。

でも癌をカミングアウトしてくれる方が、私は好きだ。実際にお会いしてみたかったし、荻田さんの冒険クロストークにも出演されていたのだから、そのチャンスはいくらでもあっただろうにと思う。が、それもまた縁なんだろう。少なくとも岡田さんに私は今、出会った。

でもってそれと同時に癌を隠して生活している人にも心を寄せたい。私が癌だというと「実は自分も」というおどろくほど多くの方から連絡をもらう。多くの人が自分は癌だということをあえてカミングアウトしていない。隠さないと仕事とかに支障があるんだろうか。

とはいえ、人に隠して生活するのは大きなストレスだと思う。私はそのストレスに耐えられないからみんなに言っておく。そして、みんなに助けてもらっている。

そうそう、癌は亡くなることについて、友人や家族に対して、いなくなる前の心の準備もできる…という岡田さんの言葉も響いた。

そして、亡くなる時も、良い人生だったと納得されていたようで、その話を聞いて、すごくホッとしている。

あぁ、いいなぁ。私もそうありたいなぁ。それこそが本当に友達思いだと思うし、私も死ぬ時は友達思いでありたいよなぁと思う。

コラムニストの小田嶋隆さんは、亡くなる前に、何人かの友達を病床に呼び、数時間みなさんと話されてから亡くなったのだった。あぁいうの理想だ。

と同時に私に連絡なくいきなり訃報を聞かされた友人たちの顔も浮かぶ。彼らに対して私はちょっと怒っている。なんで死ぬってわかっていたのに最後に連絡くれなかったんだろうか、と。

まぁでもそんなことも含めて、名著『急に具合が悪くなる』…この本をまた噛み締めている。(感想はここ)すべては出会いなのだ。そして偶然を積み上げて未来を作るのは自分たちなのだ。そして一番大切なのは友達なのだ。

荻田さんみたいな友達がいて、この方は幸せだったろうなぁと思う。そのお裾分けをいただいた。ありがとうございました。

荻田さんの書店に、なんでもいいからこの彼が出したベスト3冊を送ってくれとお願いした。本が届くのが楽しみである。

PS
一方で私の抗癌治療はタブレットを飲めず頓挫していたのだが、昨日主治医に会って「体調を回復してからで良い」ということになった。ほっ。とりあえず8月3日までは無罪放免。ありがとう、主治医のDr.O!!